ボツ小説キャラ総出演!リアル育成シミュバトル!

合戸祐希

ルール説明編01

気が付くと知らない場所で眠っていた。4人ぐらい眠れそうなベッドの上に僕と恋人が横になっている。恋人が声を発するのは数話あとになりそうなので容姿は省略する。


「よお」


上体を起こし、昨日のことを思い出していると知らない女の子が僕に声をかける。豊かな体つきとおっとりした表情の女の子。20歳ぐらいだろうか。僕より年上に見える。


彼女はピンクや赤を基調としたきらびやかな衣装に身を包み、日曜の朝にやっていそうなコスチュームチェンジとかしそうなアニメから出てきたような雰囲気である。彼女はベッドから少し離れた位置に立ち、先端に球体が付いた杖を手にしている。


「さっそくだけど、わたしに名前を付けてくれる?」


初対面の人にこんなことを言われるなんて誰が予測するだろう。理解不能なので詳しく話を聞く。


「私は元神で、いろいろあって名前をはく奪されてここにいる。自分で名乗るのも禁止されているし、あと6時間以内に名前を付けないと致命的な遅れになる」


「神様?」


「今はただの人。崇めなくてもいい」


神は複雑な表情をした。まあすごい神様だとしても崇めたりはしないだろうが。


「名前? なんでもいいの」


「カタカナ限定で5文字以内」


「そうか、それじゃあプリキュアで」


空気が凍り付いたような気がした。温厚な神の目つきが鋭くなる。


「それはだめだ。特に意味はないがだめ。気に食わない。そう、私が気に入らないから受け入れることはできない」


何やらとても困っている。こういう女子をみるといじめたくなるのが僕という人間である。


「じゃあ、ゴキブリで」


「………………………………………」


「ゴキブリ」


「………………………………………」


「ゴッキー」


「プリキュアで行こう」


ちょっと前まで可愛らしい微笑を浮かべていたのにすでに真顔になっている。神はそこらへんに杖を放り出し、奥の方に見えるリビングのようなところへ行く。


「こちらへ。あ、カナも起こそう?」


「いや、いい。アイツがいると話がこじれるから」


僕は馬鹿でかいベッドを抜け出し、神の近くへ行く。背が小さくて可愛らしい。頭を撫でたい衝動に駆られるが、もちろん我慢する。


リビング部分にはソファが二つとテーブルが一つある。ベッドは高級品のようだが、こちらはそれなりのランクで抑えてあるように思う。やや古めかしい印象の内装で、趣味は良い。最近忙しかったこともあり、ソファにどっしりと体を預けて座る。自分の家でないのに落ち着く。


テーブルの上には巨大な箱が置いてある。形はカラオケのリモコンに似ているが、木のような材質である。量産品ではなく一点ものだろう。外側だけ職人に作らせたのかもしれない。箱の上面には、よく見るフリック入力画面が日本語で書かれてあった。


また、ソファに向かい合うようにして馬鹿でかいモニターが壁にかかっている。60インチぐらいあるだろうか。そこにはプレイヤーネームを入力してくださいという文字が躍っている。こちらはパナソニック製である。


「この装置で操作してモニターを動かすの。名前はまんまモニコン。これは誰でも操作することができるから気をつけて」


「わかった」

モニコンはタッチパネル方式で、フリック入力とキーボード入力を選択することができた。僕はカナのことを考え、フリック入力で彼女の名前を入力する。


ゴ、

キ、


「しょらああああああ!!」


相撲取りもかくやというタックルが僕にさく裂し、ソファから落とされる。そんなことをしてくるような人物に見えなかったのでまったく反応できなかった。


「いや、もうなんで!? なんで人にゴキブリなんて名前つけられるの。怖い!」


「ジョークだよ、ジョーク。というか、名前なんてなんでもいいから自分でつけてほしい」


 僕がそういうと神は脂汗をかく。


「いいのね?」


「ああ」


 彼女は深呼吸してから、目を見開いてモニコンに手を伸ばす。モニターにはゴキという文字が躍っている。


 彼女がタッチパネルに触れた瞬間、辺りが真っ白になるぐらい発光し、神が叫び声を上げる。


「あがああああ――――んんんんんん」


僕は反射的に彼女の口を押える。カナが目覚めたらだ。そのあとに彼女の指を放そうとするが磁石のようにはがせない。そのうち、神は白目をむいて、立ったまま気絶した。

 

永遠とも思える時間が経過したが、いまだに彼女は電撃のようなダメージを受けている。さすがに命が危ないと思ったので、指の皮ごとはがすつもりで思い切り彼女を引っ張る。


嫌な音がして彼女とモニコンをはがすことに成功。彼女の体は冗談みたいに痙攣し、釣り上げられた魚のようになっている。


さすがにまずいと思い、呼吸と心音を確認するがどちらもなし。急いで心肺蘇生術を施す。しかし、神だしそもそも人間的な臓器があるかもわからないが、できることはやろう。


気道を確保し、心臓マッサージ。人工呼吸も思い出したらやる程度で、行った。僕が汗をかき始めたころに神は息を吹き返し、心臓も動き出した。


「なんでやねん」


僕は思わずそうつぶやき、ソファに座る。激しく喉が渇いたし、女性とキスしたり、胸のあたりを強く押したりしてやや性的興奮を覚えている。


モニターにはプレイヤーネームを入力してくださいと表示されている。先ほど入力したゴキという文字は、神の頑張りによって消されている。僕はとくに考えもなくタッチパネルに手を伸ばす。

 

ゴ、

キ、

ブ、

リ、

エンター。


むらむらしてやった。反省している。


まあでも、語感的には可愛い感じだし問題ないだろう。


『ゴキブリに決定します。よろしいですか?』


エンター。


名前を入力すると、今度はチーム名を入力するようにと表示された。僕たち3人の名前だろうか。しばらく悩んで名前を入力すると、漢字四文字限定しばりだというメッセージが出てくる。


最初に言えや。


またしばらく考える。可愛い女の子が二人いるし、可愛らしい名前にしようと思う。


難しい四字熟語にするとカナが理解できないので、無難に花鳥風月に決定。日本語の美しさに酔いしれながら、エンターをタップ。


すると、たくさんのメニューがモニコンに表示される。日本語ではなく、読むことができない。また、モニターには僕たち三人が映っており、みんなファイティングポーズをとっている。表情もキメ顔というかマジメな表情で、ゴキブリはキュアキュアな服装だが、僕たち二人はTシャツと男物のパンツ一丁で実にシュールである。


さすがに意味不明なのでゴキブリを起こす。


「おい、大丈夫か」


安らかな寝顔と肩の柔らかさに再び発情しそうになる。僕は大きくかぶりを振る。


「どういうことだ、これは。いったいあなたは何者なんだ。僕たちはどうしてここにいる。今から何をするんだ」


「いてててて。死ぬかと思った」


ゴキブリはモニターを見る。


そして、僕の方を見て、再びモニターを見た。


「ノボル……、まさか……」


「残念だ」


彼女はそれだけで悟ったのだろう。肩をがっくりと落とした。


「まあいいさ。ここ数年ずっとゴキブリのように扱われてきたから。しかし、生きていても何もいいことはない。そうはっきりわかった。ありがとう、感謝する」


何やら悟ってしまったようだ。今までの気負った様子はなく、晴れ晴れとしたいい顔になっている。


「いまからThisGameの説明をする。長くなりそうだけどいいか?」


僕はカナの方を見る。彼女は天使のような顔で眠りについている。彼女を起こすべきかどうか。というか、長い話なら途中で起きてしまい、邪魔になる恐れがある。


「部屋はこの部屋以外にないのか?」


今いる部屋は寝室とリビングが一緒になったような部屋だが、通路が見えるのでどこかしらにはつながっているのだろう。


「他にはバストイレと何もない倉庫の部屋、それからほかのプレイヤーも共有の食堂兼談話室がある。ここで話すと問題が?」


「ああ、カナが起きて話を妨害する恐れがある」


僕がそういうとゴキブリは眉間にしわを寄せた。ゴキブリはソファの位置を少し動かし、隣に座るような位置で座っている。


「よくわからないのだけど、あなたたちは夫婦で、これから長い間戦うことになる。説明を受けることに何の問題が?」


「彼女と出会ってから理解不能な出来事がたくさん起きる。今もそうだ。彼女は僕が想定する最悪のケースを多角的に乗り越えてくる。そういうわけで彼女が介入できないような場所で説明を受けたい」


僕が言った言葉を反芻するように沈黙するゴキブリ。名前はあれだが、つぶらな瞳で愛でたくなるような容姿だ。近くにカナがいなければ口説いたかもしれないが、少々残念だ。


「まあ、そのへんもおいおい分かるか。さすがに一緒にお風呂というわけにもいかないし、談話室に行きましょう」


「喉が渇いた」


「お金がかかるけど、モニターから飲み物を買うことができる。談話室ではより上質な飲み物を買うことができる」


「コーヒーはあるか?」


「ThisGameでは資金運用が何より重要! ルールを聞いてからの方がいいと思うけど、ま、ジュースぐらいいんじゃない? お金の使い方も教えたいし、談話室でコーヒーを買いましょう」


「よし行こう! 早く行こう!」


「急に元気になったわね………コーヒー好きなんだ?」


「好きか嫌いかで言ったら好きだ!」


 そのあと、部屋を出るための長い説明を受け、談話室へと移動した。

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