第35話・妖精の思い
深夜に妹系ギャルゲーをしながらサクラが戻って来るのを待っていた俺は、パソコン画面に映し出される二次元妹を攻略しながらそのストーリーに没頭していた。
それにしても、世の中にある妹萌えという風潮は、いつ頃から世間に広まり始めたんだろうか。
リアル妹は可愛くないと言いつつも、二次元妹に萌えまくる人達は多い。そこには矛盾すら感じるけど、二次元と三次元という明らかな違いがある以上、やはりまったくの別物として扱うべきだろう。
言ってみればこういった作品は、どこまでも非情な現実に対し、夢や希望や理想をふんだんに詰め込んだ物だと言える。更に言い換えるなら、人は非現実的な理想や夢を無意識に追い、それをこうして形にする事で人としての理性を平静に保っていると言えるのかもしれない。
あり得ないものを形にするというのは、今の人が人として存在するには欠かせない要素なんだろう。
「――あっ、涼太君。まだ起きてたんだ……」
ゲームをしながら世の中の妹萌えについてつらつらと考えていたその時、部屋の窓からサクラがてふてふの様に飛びながらフラリと入って来た。
ちなみにこの『てふてふ』とは
「ちょっとゲームに夢中になっててな」
パソコン画面の右下に表示されている時間表示に目をやると、午前二時十八分と表示されていた。
ゲームに夢中になっていたのは本当だけど、こんな時間まで俺が夜更かしをしていた本当の理由は、明日香と揉めていたサクラと話をする為だ。
「そうだったんだ」
「ああ。それよりサクラ。ちょっと話を聞きたいんだけど、夕方の騒動はいったい何だったんだ?」
「……明日香は何か言ってた?」
サクラはふうっと息を吐くと、真っ直ぐに俺を見ながらそう聞いてきた。その表情にはいつものおちゃらけた雰囲気は無く、真剣そのものだった。
そんなサクラの態度を見て、俺は明日香から聞いた事を素直に話していいものかと迷った。だけどここで『何も聞いてない』と俺が言ってしまえば、サクラは明日香と揉めていた理由に対して妙な嘘や誤魔化しを入れる可能性もある。
だからそれを考えると、ここは直球勝負をする方がいいかもしれないと俺は思った。
「……ああ。小雪を飼っちゃいけない――って言ったらしいな。どうしてなんだ?」
「それは……それが明日香の為だからだよ」
サクラは俺をしっかりと見つめたまま、少し悲しそうな表情ではっきりとそう言った。
いつもはおちゃらけたところが目立つサクラだけど、意味も無くああいった事を言ったりする奴ではないのは俺も分かっている。だからこそ、今回の騒動が起こった意味が俺には分からないのだ。
そもそも小雪を他の人に飼ってもらうのがどうして明日香の為になるのかが分からないし、何よりこのまま小雪を飼い続ける事が、明日香にどの様な悪影響を及ぼすというのかも分からない。
「サクラ。できればちゃんと説明してくれないか? 俺が協力できる事ならするからさ」
「……
だいぶ前の事になるけど、確かにサクラからそんな事を言われた覚えはある。
あれは確か、明日香が俺の妹になって間も無い頃。俺がまだ明日香の事を、明日香ちゃん――と呼んでいた頃の事だったと思う。
「ああ。覚えてるよ」
「幽天子は生前の記憶を取り戻すと、その時の嫌な記憶やトラウマなんかで自我を保てなくなる場合が多いの。そしてそれはこの転生プロセスにおいて、もっとも危惧すべき事態になる。だから私は、無事に明日香を転生できる様にしてあげたいの……」
サクラの話から察するに、今の明日香にとって小雪を飼い続けるという行為自体が、明日香が壊れる切っ掛けになるという事なのだろう。
「まあ、なんとなく言いたい事は分かったけど、それでもどうして小雪を飼うのがいけないのかが俺には分からないんだよ」
サクラの言っている事は理屈としては分かる。だけどどれだけ考えを巡らせても、小雪を飼う事がなぜいけないのかがどうしても分からない。
だって小雪を飼うってだけの行為が、今の明日香を壊してしまうほどの何を思い出させるのかが分からないからだ。
「それは…………」
俺の言い分に対し、サクラは答え辛そうにして黙り込んだ。
こうなるとどうしても知りたくなるのが人の
「なあ、サクラ。お前に協力するにしても、その内容が分からなきゃ明日香を説得しようもないんだぜ?」
そう言うとサクラは
「――分かった。涼太君にはちゃんと話しておくよ」
サクラはそう言うと、俺にベッドへ横たわる様に言った。
ただ話をするだけなのにベッドへ横たわらなきゃいけない理由が分からないけど、俺はとりあえずその指示どおりにベッドへ横たわった。
「これでいいのか?」
ベッドに横たわってサクラに確認をすると、頭上で飛んでいるサクラはウンウンと頷きながら俺の耳元近くへと下り立った。
「さっき私は話すって言ったけど、実際に私から涼太君に詳しい説明はしない」
「えっ? それじゃあどうやって――」
「だから涼太君。あなたの目で直接見て来て。そして知って、あの子の悲しみを……あの子の辛さを……」
俺の言葉に被せてそう言うと、耳元でそう言ったサクラが俺の顔の上へと飛んで来た。
するとサクラは俺の目の前にスッと人差し指を突き出し、そこから淡く青い光が放たれると、それを見た俺は一瞬にして意識がまどろみ、そのまま別の世界へと落ちる様に意識が遠のいて行った。
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