第25話・みんなで作るひと夏の思い出

 夏休みも残すところ数日で終わりを迎えようとしていた頃。俺達は地元から少し離れたキャンプ場へと来ていた。


「わあー! 結構広いキャンプ場だね!」


 空には澄渡る青色と、大きな入道雲の白が見える。まさに夏の代表的な空模様と言えるだろう。

 そんな中、目の前に広がるキャンプ場を見渡しながら目を輝かせているのは、幼馴染の姫野琴美ひめのことみ。俺が密かに恋心を寄せている相手だ。


「お兄ちゃん! 琴美お姉ちゃん! 早く早くー!」


 快活とした笑顔で元気良く俺と琴美を手招きしているのは、妹の明日香。

 そんな明日香はお友達の由梨ちゃんと手を繋ぎ、本当に楽しそうにしている。そしてその二人のすぐ近くには、同じクラスの男子が二人居る。

 本来の予定では女子四名、男子六名でのキャンプになるはずだったんだけど、他の子達は別の用事が入ってしまったらしく、結果として女子二名、男子二名に保護者兼引率として俺と琴美がキャンプへついて行く事になった。

 当初の予定では保護者兼引率は俺だけのはずだった。だけど俺が熱中症と風邪で寝込んで琴美が看病に来てくれたあの日、明日香が琴美に『料理を教えてほしい』と言って料理を教わっていたんだけど、あの時に明日香が事情を話して琴美にも保護者の一人としてキャンプについて来てほしいと頼んでいたらしい。

 そして明日香のそんなお願いを快諾した琴美が、今日俺と一緒にみんなの保護者兼引率としてついて来たわけだ。

 ちなみに明日香が琴美にその事を頼んだ時には、まだ予定人数でのキャンプになるはずだったので、保護者として同行する俺が大変だろうと思い琴美に応援を頼もうと考えたらしい。兄の苦労を考えてそこまで気を回すとは、なんとできた妹だろうか。


「行こう。涼君」

「お、おう」


 楽しそうな琴美に手を引っ張られながら、俺は明日香達のもとへと向かう。


「お兄ちゃん。今日はどこにテントを張るの?」

「明日香。楽しみなのは分かるけど、まずはお店で昼食を摂ってからな」

「は~い」

「ふふっ。明日香ちゃん可愛い」


 ちょっと残念そうな表情をする明日香を、微笑ましい笑顔で見る由梨ちゃん。本当に仲の良いコンビだ。


「よし。それじゃあみんなでお店まで行こうか」


 俺は全員の先頭に立って敷地内にあるお食事処へと歩き始める。

 このキャンプ場は小さな頃に両親と何度か来た事がある場所だが、中学生以降は一度も来ていない。だから俺は、ここへ来る前にパソコンで色々と情報を集めておいた。

 そしてパソコンでこのキャンプ場の地図を見て驚いたんだけど、数年前のキャンプブームなどの影響があったせいか、だいぶキャンプ場は拡張されていて、キャンプ初心者から上級者まで様々な人達が楽しめる様にと、かなり配慮された作りに変わっている。

 俺達はキャンプに来ている他の人達に時折視線を向けながら進み、ほどなくして敷地内に一つだけあるファミレスへと着いた。


「――あのね、由梨ちゃん。これはね、こうやるとジュースが出てくるの。そして何杯でもおかわりしていいんだよ」

「凄い……でも、何回もおかわりして大丈夫なのかな?」


 敷地内にあるファミレスに入って一息ついていると、俺達が座っているボックス席の近くにあるフリードリンクコーナーで、明日香がファミレス初体験の由梨ちゃんに向かって楽しそうに説明をしていた。

 そしてその説明を受けている由梨ちゃんの反応が初めてファミレスに訪れた時の明日香と被って見え、凄く懐かしく感じてしまう。

 ファミレスでは明日香達同級生組みで一つのボックス席に座り、そして俺と琴美の二人で近くのボックス席に座りのんびりと休憩をしていた。


「明日香ちゃんと由梨ちゃん。本当に可愛いね」


 俺と同じ様に明日香と由梨ちゃんのやり取りを見ていた琴美が、にこっと微笑みながらそう言った。


「そうだな。あっ、そう言えば今回は明日香が無理を言ってごめんな」

「引率の事? そんなの気にしないで、私も涼君と一緒に行くのを楽しみにしてたんだから」

「そっか。それなら良かったよ」


 琴美がそう言うんだから、きっと本当にそうなんだろう。

 だけどそんな言葉を聞いていると、俺は変な期待を抱いてしまいそうになる。その言葉が絶対に違う意味だと分かっていたとしても。

 こうして仲良くお喋りをしている四人を見守りつつ、一時間ほどをファミレスの中で過ごした。


× × × ×


「へえー。テントって今はこんなに種類があるんだな……」


 ファミレスを出た俺達は、今日テントを張る予定の場所へ行く前に貸し出し用のテントが置いてある場所へと来ていた。俺が小さな頃は至ってシンプルな形のテントしかなかったのに、今は様々な形や柄のテントが貸し出されている。

 テントの写真や大きさの詳細が載ったファイルを見ながら、俺達は男女に別れてどのテントにしようかを選んでいた。


「あっ、これ可愛い♪」


 明日香が弾んだ声を上げて指差していた場所を横から覗き見ると、そこには草原の中にたたずむ羊の写真がプリントされたテントがあった。


「ホントだ! 可愛い~♪」


 そしてそれを見た由梨ちゃんも、同調して弾んだ声を上げる。

 確かに可愛いかもしれないけど、これを芝生なんかの上で使うと色々と紛らわしそうだ。使われている羊のイラストがリアル写真なだけに、絶対に見間違いをする人が出そうだから。


「本当に可愛いね♪ でも二人共、こっちのテントも可愛いよ?」

「えっ? どれですか?」

「あっ、本当に可愛い。こっちのテントもいいなあ……」


 こんな感じで色々と迷っている明日香達とは違い、男子二人組みは既にどのテントにするかを決めていた。

 そして男子二人が選んだテントはいかにもこの年頃の男子が好みそうなもので、ハンモックテントとなる物を選んでいた。普通なら地面に設置するのがテントだが、今ではちゅうにテントを張る事ができるんだから、現代技術の発達っての凄いもんだ。

 宙吊りのテントなんて子供染みてると思うけど、そんな思いとは裏腹に、俺もこのハンモックテントにはかなり興味をそそられていた。まるでガキの頃に作っていた秘密基地を思わせるからだ。つまりそんな事を考えてワクワクしている俺も、まだまだお子様だと言う事なんだろう。

 しばらくして明日香達も本日使うテントが決まったみたいで、それぞれにテントの部品を持ってキャンプ場へと移動を始めた。ちなみに明日香達が最終的に選んだテントは、最初に気に入っていた羊の写真がプリントされたテントだった。

 そして今日使うテントを運び終えた俺達は、さっそくテントの部品を出して設置を開始した。


「よし、明日香。そのハンマーでゆっくり丁寧にこのペグを地面に打ち込むんだ。手を打たない様に気を付けてな」

「うん!」


 本当なら俺がしてやった方が早いんだけど、せっかくのキャンプ体験なんだから、危なくない範囲で明日香達には色々な事をやらせてみようと思っていた。

 カンッ! カンッ! ――と、明日香がリズム良くハンマーをペグの頭に打ちつける音が周囲に響く。初めてにしては上出来な動きだ。

 そして由梨ちゃんはそんな明日香の様子を見ながら、同じ様に別の場所のペグをハンマーで地面に打ちつけていく。そんな由梨ちゃんの隣では、琴美がしっかりとその様子を見てくれていた。


「「――できたー!」」


 しばらくして組みあがったテントを見た明日香と由梨ちゃんが、ほぼ同時に声を上げた。そして完成したテントを前にした二人は、嬉しそうにしながら荷物を持って中へと入って行った。


「やれやれ。琴美、しばらく二人の事は頼むよ。俺は男子用のテントを張って来るから」

「了解だよ。涼君」


 そう言って俺は女子のテントが張られている場所から少しだけ離れた場所にある森へと入り、ハンモックテントの設置を始める事にした。

 できれば俺が主導してテントの張り方を教えてあげたいところだけど、さすがにこのタイプのテントを張るのは初めてなので、俺に張り方を教える事はできない。なのでテント張りを教えてくれる係員さんの指示と手助けを受け、なんとか三十分ほどでハンモックテントを張る事ができた。

 このハンモックテント。六角形の中央部分から頂角ちょうかくが二十度くらいの二等辺三角形が、等間隔で三つ付いている様な感じのテントになっている。

 中央の六角形部分は集団で談話などができる場所になっていて、眠たくなったら個室になっている二等辺三角形部分に移動して寝る事ができるという構造だ。まるで子供の頃に夢見た秘密基地を彷彿ほうふつとさせる構造に、俺はかなりワクワクしていた。

 そして一通りテントの準備を終えたあと、俺達はキャンプ場にある遊べる水場へと向かった。


「川は浅くても危ない場所があるから、気を付けるんだぞー?」

「「「「ハーイ!」」」」


 俺の言葉に元気良く返事をする四人。

 テントを張り終わった俺達は、大事な貴重品やタオルなどを持って敷地内にある渓流へと来ていた。ここは一部の深くなっている場所に侵入防止用のロープが張られ、浅い場所での水遊びができる様になっている。

 そして持って来た貴重品などを俺と琴美に預けた明日香達は、さっそく水遊びを始めていた。

 俺はとりあえずその様子を見守りながら、手に持っていたペットボトルへ口をつける。


「あっ、琴美も一緒に遊んで来ていいよ?」

「ううん。私もここで涼君と一緒に見てるよ」

「そ、そっか」


 にこやかにそんな事を言いながら、俺のすぐ隣に座る琴美。こんな風にされると、思わず勘違いを起こしてしまいそうになる。

 そんな事を思いつつ、俺は渓流で楽しそうに水をかけあったりして遊ぶ明日香達を見ていた。

 そういえばこうやって明日香が友達と遊ぶ姿を見るのは、前に由梨ちゃんとプールで遊ぶのを見て以来だ。まあ、その友達の中に男子が居るってのは未だにモヤモヤするけど、明日香は楽しそうにしている訳だし、今は目を瞑るとしよう。

 それにこれは、明日香が順調に友達を増やせているという証拠でもあるから、そこは兄として喜ぶべきところでもある。


「子供が遊んでる姿って可愛いよね」

「琴美って昔から子供が好きだったもんな」

「うん。大好き」

「琴美がお母さんになったら、旦那さんの三倍は子供を溺愛しそうだよな」

「えー!? そんな事はないよ? ちゃんと旦那さんも同じくらい愛しちゃうよ?」

「本当かなあ?」


 にこやかな笑顔でそんな事を言う琴美が、可愛らしくてたまらない。

 こうして一緒にキャンプに来て琴美と話をするなんて想像もしてなかったけど、明日香が琴美を誘ってくれた事を心から感謝したいと思う。


「本当だよぉ。でもさ、涼君もいいお父さんになりそうだよね」

「えっ? どうして?」

「だって、明日香ちゃんの面倒もちゃんと見てるし、みんなにも優しいし。明日香ちゃんには勉強も教えてあげてるんでしょ?」

「まあ、ある程度はね」


 最近は前と違って、明日香に勉強を教える機会は少なくなった。

 なにせ自分で勉強をする術を覚えてからは、余程の事がない限りは自力で勉強を進めているからだ。その事は寂しいとは思うけど、その成長ぶりは喜ぶべきだろう。


「それに見てたら分かるんだ。明日香ちゃんがとっても幸せだって事が。それはきっと、涼君が居るおかげなんだと思う」

「そうかな?」

「うん。絶対にそうだよ」


 自信満々な感じでそう断言する琴美。

 その自信がどこからくるのか分からないけど、それでも嬉しく思う。でもそれは、言ってくれた人が琴美だったからかもしれない。


「お兄ちゃーん! 琴美お姉ちゃーん! 一緒に遊ぼうよー!」


 川のせせらぎの中で遊ぶ明日香が大きく両手を上げ、ブンブンとその両手を左右に振りながら俺と琴美を呼ぶ。


「どうする琴美? 行くか?」

「可愛い妹のお願いだもん。涼君は断れないよね?」

「からかうなよ」

「ふふっ」


 ちょっと意地悪な笑みを浮かべながら、俺の顔を覗き込んでそんな事を言う琴美。

 俺は恥ずかしさから赤くなっているであろう顔を琴美から逸らし、貴重品をまとめてウエストポーチに仕舞い、持って来ていたビーチサンダルに履き替えてから明日香達の居る場所へと向かった。


「お兄ちゃん! 早く早く!」


 明日香の急かす声を聞きながら、川の流れへと足を入れる。

 遊び場所の水深は相当に浅く、俺の足首ほどまでしかない。しかし水深が浅くて少し坂になっている分、水の流れは速い。そしてその流れの速さが、足下を抜けて行く水をより冷たく感じさせている。


 ――これだけ水が冷たかったら、アレができるかもしれないな。


「みんな。ちょっとそのまま遊んでてくれ。すぐに戻って来るから」


 足に感じた水の冷たさで俺はちょっと思い立った事があり、川から出てある物を購入する為に早足でその場所へと向かった。


「――ただいまー!」

「お兄ちゃんお帰り。わあっ! 大きーい!」


 戻って来た俺が抱えている物を見て、明日香が目を輝かせる。


「それを買いに行ってたんですね。お兄さん」

「まあね」


 俺はピンク色のビニール紐でくくられたスイカを持って川の中へと入り、適当な大きさの石に紐の一部分を結び付け、重石にしてからスイカが少しだけ頭を覗かせるくらいの深みがある場所に沈めた。


「これでよし。遊んだあとのおやつにしような」

「さすが涼君だね!」


 琴美もスイカを食べれるのが嬉しいのか、親指を立てて俺へと向けてくる。

 そして俺達は一時間くらい川遊びに興じたあとで川の流れに沈めていたスイカを取り上げ、広げたゴミ袋の上にスイカを置いてからスイカ割りを始めた。


「明日香ちゃん! もうちょっと右! そうそう!」


 張り切って明日香をスイカのある位置まで誘導しようとする由梨ちゃん。

 ちなみにスイカを割る為の棒は、森に落ちていた適当な太さと長さの木を拾って来て持たせている。


「よしっ! そこだ明日香!」

「え――――――――いっ!!」


 勢い良く振り下ろされた木の棒は、スイカの真上へと一直線に向かって行く。

 そしてスイカの頂点に木の棒が当たると、ボコッ――という鈍い音を立ててその部分が少しだけ割れた。


「やったー!」


 振り下ろした木の棒がスイカに当たった手応えを感じたみたいで、明日香は興奮した様子で目隠しのタオルを取り、万歳をしながら喜んでいる。


「やったね明日香ちゃん!」


 由梨ちゃんが大喜びしながら明日香に駆け寄って行く。

 そして明日香は持っていた棒とタオルを地面に放りだし、由梨ちゃんと一緒に手を握り合って喜んでいた。スイカに当たったのがよっぽど嬉しかったんだろう。

 まあ、スイカ割りなんて初めての体験だろうし、これくらい楽しんでくれた方が準備した側としては嬉しいもんだ。


「よーし。それじゃあ次は、由梨ちゃんいってみよっか!」

「はいっ!」


 明日香が割ろうとしたスイカは上の部分が少し砕けただけで、完全に割れたわけではない。だからまだまだスイカ割りを楽しむ事ができる。

 俺は明日香が使っていた棒を拾い上げ、由梨ちゃんに手渡した。そして明日香は地面に落ちているタオルを拾うと荷物を置いている場所へと走り、その手荷物の中から新しいタオルを取り出してから由梨ちゃんへと手渡した。


「ありがとう、明日香ちゃん。ちょっとだけこれを持っててくれないかな?」

「うん」


 タオルを受け取った由梨ちゃんは、目隠しをする為に木の棒を明日香へと預けた。そして由梨ちゃんは受け取ったタオルを自分でキュッと結んで目隠しをする。

 それから準備が整った事を確認した明日香が、持っていた棒を由梨ちゃんの右手へと持たせた。


「ありがとう。明日香ちゃん」

「頑張ってね! 由梨ちゃん!」

「うん!」


 そしてスイカ割りのスタート位置まで明日香が手を引っ張って誘導し、いよいよ由梨ちゃんのスイカ割りが始まる。

 今回のスイカ割りでは、定番のスタート位置でぐるぐるはさせていない。ある程度安定した足場を選んでいるとは言え、ゴツゴツした石もそれなりにあるし、やはり危険はあるからだ。

 なにより純粋にスイカ割りを楽しんでもらうだけなら、ぐるぐると回る必要は無い。


「行くねっ!」


 そう言って棒を前に構え、ゆっくりと進んで行く由梨ちゃん。


「由梨ちゃん、少し左だよっ! そう! 次はそのまま真っ直ぐ進んで!」


 さっきとは違い、今度は明日香が一生懸命に由梨ちゃんをスイカの前へと誘導している。そして明日香の誘導が上手いおかげもあり、由梨ちゃんはほどなくしてスイカの前へと辿り着いた。


「由梨ちゃんそこだよっ! 思いっきり振り下ろしちゃえ!」

「分かった! ええ――――――――いっ!」


 大きく上へと振りかぶった腕を振り下ろした由梨ちゃんの棒は、綺麗な縦一文字を描いてスイカへと命中する。

 だけど明日香と一緒で力が足りないせいか、スイカには当たったものの、やはり上の部分が少し砕けただけだった。


「やった……当たった!」

「由梨ちゃんすごーい!」


 そう言って再び二人は手を取り合って喜び合う。

 彼女達にとってはスイカが綺麗に割れる事よりも、とりあえず当たる事の方が重要だったのだろう。それはそれでスイカ割りの楽しみ方でもある。

 そして本格的にスイカを割る役目は、残り二名の男子に任される事になった。

 そんな重要な役目に最初に挑戦した男子である日比野ひびの君は、スイカに当たりこそしたものの、当たる部分が少し横にずれたせいか、スイカを完全に割るには至らなかった。

 その結果に日比野君はずいぶんと悔しそうにしていたけど、その気持ちは分かる。男ってのはこういう事にマジになる生き物だから。

 そしてそんな悔しそうな日比野君に『あとは任せとけ!』と言って、もう一人の男子である宮下君が棒を持ってスイカに挑んだ。

 みんなの期待を一身に背負った宮下君は明日香達の誘導を受けてスムーズにスイカの前まで行き、見事にスイカを割って見せた。そして俺達は見事に割れた――と言うより、見事に砕けたスイカをみんなで分け合って食べ始めた。

 そして日比野君と宮下君は器用にスイカの種を出していたけど、明日香と由梨ちゃんはそうはいかないみたいで、だいぶ種出しに苦戦していた。


 ――そういえば明日香、家でスイカを食べてる時もこんな感じだったな。


 女の子二人のちょっと不器用な食べ方に、思わず笑みがこぼれてしまう。


「あーっ! お兄ちゃん笑ってる!」

「本当だ。お兄さん酷いですよー!」

「えっ?」

「もうっ! そんなお兄ちゃんにはスイカはあげないんだからね♪」

「明日香ちゃんの言う通りです。お兄さんのスイカは没収で~す♪」

「えっ? ちょっ!?」


 そんな事を言いながら、俺が持っていたスイカを奪って走り去って行く二人。


「ま、待てよ二人共!」

「待たないもーん!」

「待たないでーす!」


 俺はそう言いながら逃げる二人を追いかけるが、日頃から運動不足気味の俺は逃げる明日香と由梨ちゃんにまったく追いつけなかった。そして最終的に追いついた頃には、俺から奪ったスイカは二人によって綺麗さっぱりと食べられてしまっていた。

 こうして川での水遊びとスイカ割りを楽しんだ俺達は、いよいよキャンプのメインとも言える夕飯作りへ取り掛かろうとしていた。

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