オータムナイト

西野圭

OPEN

 マスターが煙草を吸いに外へ出た時、隣のビジネスホテルの玄関は静かになっていた。店の窓越しに見えたタクシーは三台。聞こえてきた声の数は五人にも満たなかった。

 あれから二時間は経つ。そろそろ電話がかかってくるかもしれない。

 マスターは煙草の火をアスファルトに押しつけた。腰を上げようとした時、店のオープンプレートを表に出していない事に気が付いた。


「誰も来ないはずや」


 店に戻り、プレートを持って玄関にかける。

 OPEN、と書かれた札が風に揺れ、同時に、看板を灯すスポットライトにも明かりが宿った。


『Autumn Night』


 オータムナイトが、遅い開店を告げた。

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