夏に、ひとつのロックを

HaやCa

第1話

Youtubeで偶然見つけたパンクロッカー。彼らはアコースティックで音楽を奏でていた。曲のはじまりから異様に引き込まれる。柔らかくもしたたかな旋律に、わたしは日々の疲労を忘れていく。何かを変えたい、そんなことを思っては何も変えられない。

 この現状はひとえにわたしのせいなのに、誰かに当てつけを求めていた。

 でも、それはわたしの「わがまま」であり、「よわさ」なのだと思う。このパンクロッカーは昔から大好きだ。今では聞くことも減ったけど、たまに彼らのパッションを知りたくなる。冬場に揺れる柳の枝のように、そんなふうにありたいと思えるから。


 いつの間にか夏休みも終盤になり、遠くから秋の声と匂いが流れてくる。

「きょうはここまで」

 わたしは独りごち、汚れてもいない本の表紙をこすった。やはり図書館は落ち着く。静謐と言えばいいだろうか。近くに数万の思いを感じられる。

 帰り支度をしながら、わたしは近くの絵本を手に取る。

「そういや前、母さんに読んでもらったんだっけ」

 気になって本の貸し出し日を見ると、最後の日付はもう十年も前になっていた。大切な思い出が消えていくようで、少し涙した。


 図書館を後にして、わたしは空港に向かうことにした。何が待っているかわからないけど、もう怖がりにはなりたくない。毎日がつまらないのは、わたしが頑張っていないからだ。

 気づいていたのに、知らないふりに貫徹していた。


 ここから見える景色は、すでに秋の色を呈している。高台にあるこの丘は、潮風を受けて木々の間を通る。休憩スペースにはカップルだろうか、若い男女が楽しそうに写真を撮っている。彼らの思い出も、いつか消えるのだろうか。それは悲しい。

 わたしは誰かの記憶に残る爪痕を残したい。今まで思った素直さを、ロックの力を借りて叫んだ。

 

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夏に、ひとつのロックを HaやCa @aiueoaiueo0098

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