第55話 case8 決着編
「チュウ! いい度胸だチュウ!」
「やるかやるのかやるならやるチュウ!」
翔子の発言を受け騒めきは狂騒となり、倫太郎達を中心に渦を巻く様に鳴り回る。
「けけけ、人間様がネズミ如きと交渉するなんざ本当に信じてたのか?
翔子! マミ蔵! 準備はいいか!」
倫太郎が下卑た笑い声と同時に、翔子に合図を送る。
「
「今しがた終わった所じゃわい」
「チュウ?」
不穏な気配を察知したネズミ達が息をひそめるが時すでに遅し。
「天狗忍法、
翔子は手印を切り護符を宙に飛ばす、するとそれから発生した五つの光が屋敷の外へと飛び去った。
屋敷の外では護符を持ちそれを待ち構えていたもの達が居た。そう、マミ蔵の仲間の化け狸たちであった。
今ここに、屋敷を囲うように五芒星の結界が完成したのであった!
「チュ! チュー―!?」
ネズミ達があっけにとられている間に、倫太郎たちの姿は変わっていた。皆いつの間にかマスクを装着していたのである。
「いいか、貴様らがどんな化け物であろうと関係ねぇ、貴様らの敗因は貴様らがネズミであると言う事だ」
倫太郎はそう笑い、懐からバルサンを取り出した。
「ネズミは煙にあぶられりゃ巣穴から出てきちまう。これはどうしようもない根本の属性なんだよ!」
シュボッ!
倫太郎だけではない、皆が手に持ったバルサンを彼方此方に放り投げる。一瞬のうちに結界の内部は煙で充満された空間となった!
「臭いチュウ!」「煙いチュウ!」「苦しいチュウ!」
ネズミ達は大混乱に陥る。白一色の視界の中で右往左往と逃げ惑い、そして空気の流れに沿って煙の少ない所へ追い立てられる。
ポンポンポンと
「ここは、儂の狩場だにゃ~」
そこには、マスク越しに目を輝かせ、爪を光らす姫の存在があったのだった。
「「「「「チュッチューーーー!?!???!!」」」」」
「明、調子はどう?」
「はい翔子様! 翔子様の結界内部と言う事もあり風の操作は容易です! もう少し強くしますか?」
白煙の中のエアースポット、それは明が結界内部の風を操り作り出した罠であった。だが、それが罠で有ろうがなかろうが、ネズミ達にはその空間に押し寄せるしか道は無い。
哀れネズミ達はレミングスの様に列を作って断頭台の露と消えるのだった。
「いやー感謝感謝。助かったわい」
「それにしても、結果を見ればマミ蔵さんの独り勝ちですね。お目当ての品が戻ってきたうえに配下の狸たちの生活も安定することになったんですから」
上機嫌のマミ蔵に、鈴子は茶を振る舞いながらそう言った。
ネズミの群れを排除し、後顧の憂いを無くした倫太郎たちは、改めて化け狸と建築会社との間を取り持ったのだった。
交渉は何とか成功し、化け狸は勾玉を取り戻し、ついでに一般狸の就職先も獲得する事となった。交渉の流れの中で、リゾート施設の一画に狸村を建築することを合意したのだ。
この予定外の計画で、企業は環境に配慮したクリーンなイメージを向上させることが出来、またリゾート施設に庶民的な生きるマスコットが誕生する事となった。
「まったく、それにしても結構本気で魅了の術が通じなかったことに凹んでおったのじゃが、これで安心したわい」
壁の中のネズミ達は、彼ら独自の方法で作業員たちに暗示をかけていた。その為マミ蔵が術の上書をしようとしても、英語でものを考えている人間を日本語で説得しようとしたような状態に陥ったのだ。
こうしてマミ蔵からの依頼は完了し、事務所にはまた暇な時間が訪れたのであった。
「おい、猫」
マミ蔵たちが帰って暫く、1人と1匹が残った事務所に倫太郎の呟きが響く。
「ん~、にゃんだにゃ人間」
それまで昼寝を決め込んでいた姫がその呟きに反応した。
「お前、あのネズミ共と、どんな密約を結んだんだ?」
倫太郎は競馬新聞を捲りながらそう質問をした。
ニヤリと姫は笑う。
「にゃししし。どうしてそう思う倫太郎?」
「あっ? 勘だよ勘。それにお前が素直に俺の所に逃げてくるなんて笑っちまうだろ」
倫太郎は競馬新聞を机に置き、視線を姫に向ける。
「にゃししし。さーてどうかのう? 唯、ネズミの奴らはしぶといからのう、これからも定期的に騒ぎを起こすかもしれんのう」
「けっ、その度にテメェは暇つぶしとうまい魚に有りつけるってか」
刹那主義の快楽主義。猫とは気ままな生き物だ、今回一番得をしたのが誰だかは分からないが、一番損をしているのはネズミの連中だろう。
倫太郎はそう思い、タバコを吹かすのだった。
Case9 ようこそ二つ島へ 完
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