第49話 case7 追憶編 6

「それで、どうなったんですか」


 ごくりと、生唾を飲み込みながら明は翔子に尋ねた。


「散々よ散々。いくら訓練を積んでいたとは言え、所詮は中学生。一晩じゅう戦い抜くなんて出来っこなかったわ」

「それじゃ、住人に囚われちゃったんですか!」


 明は食いつく様に翔子に尋ねる。しかし翔子はばつが悪そうに言葉を濁した。


「ははは、それを翔子さんの口から言わせるのは酷ってものだ。いや、誉めるべきは倫太郎君かな?

 彼は、眠った翔子さんを背中に背負い、弱音を吐く僕を足蹴に叱咤しながら一晩丸々戦い続けたのさ」

「えっ? お三方の中で一番疲れてたのって倫太郎さんでしたよね」

「そう聞いてたんだけどね」


 やれやれと、晴彦は肩をすくめる。


「そしてこの話には、続きがあってね。何と総合試験では僕たち3人は同じ班になったんだ。

 まったく事務局もいい性格をしてるよ」

「そう言う貴方は今や事務局員でしょ」


 翔子が嫌味を飛ばすが、晴彦ははははと笑ってそれをかわす。


「いやー、試験は大変だったよね翔子さん」

「全くでしたわ、ちょっと休めたわたくしはともかく、青白い顔をしながらテンション最高潮の倫太郎君と眠い疲れたって愚痴を吐く晴彦君の手綱を取ってどうやって他の班を出し抜いたのか、よく覚えてないほどですもの」


 翔子はそう言って懐かしそうに微笑んだ。

 その微笑みは夕日の様に暖かで優しさを携えた微笑みだった。





「おら、テメェら時間だぞ、とっとと受験室に入りやがれ」


 控え室にガラの悪い声が響いて来る。ファイルを片手に持ち、不機嫌そうな倫太郎の声だった。


「あら、どうにも話し込んでしまったわね」

「全くだ、倫太郎君にどやされてもいけない、僕も仕事に戻るとするよ。

 それじゃ、明ちゃんも頑張ってね」


 そう言い残し、晴彦は倫太郎の元へ向かっていった。


「やれやれね。明」

「はい! なんでしょうか翔子様!」

わたくしにこんな話までさせたんですもの、落ちたりなんかしたら承知しないわよ」

「はい! 了解です!」


 控室に響く彼女の声は、硬さの取れた彼女本来の声だった。



Case8 在りし日の思いで2 完

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