第38話 親から子へ
「麗佳、頑張ってね」
「うん」
「特等席から見てるからな」
「うん」
両親に励まされ、嬉しくて涙が出そうになる。同時に二人からぎゅっと抱きしめられた。
家族は今朝来てくれた。本当はせっかくの娘の
日にちを故郷の土曜日にあててよかったと思う。
両親と姉カップルだけではない。父方、母方、どちらの祖父母も来てくれた。
「こーんな小さかった麗佳ちゃんに赤ちゃんなんて……。月日が経つのは早いなぁ」
「……何年前の話?」
何故か五歳くらいの身長を手で示してしみじみと言っている母方の祖父に苦笑いする。祖父はとても大げさだ。麗佳はもう二十二歳なのである。『魔力増幅の儀式』の影響で外見年齢は二十歳だが、そう変わりはないだろう。
でも、異世界の王族のお嫁に行ったのに、家族、そして親戚の中での扱いが全く変わらないのは、素直にありがたいと思う。おかげで、麗佳はみんなの前で自然体でいられるのだ。
日本では、オイヴァにもただの『麗佳の旦那さん』というふうに接してくれるのだ。その影響で、ここでまでつい君付けにしそうになるのはご愛嬌だが、当のオイヴァがあまり気にしていないようなので、麗佳も『しょうがないなぁ』くらいに思っている。
「それにしてもそのドレスすっごいかわいいね」
「『綺麗』って言ってよ。いつもより大人っぽいデザインなんだから」
姉の言葉に笑う。
母親になるので、いつもの可愛い系——オイヴァの好みである——ではなく、少し落ち着いたデザインにしてもらった。とはいえ、麗佳はパレードでの主役なので最高級の仕立てである。
王妃というのはファッションリーダーにもならなければならないので、これからこういうデザインが貴族の妊婦の間で流行るのだろう。流行の最先端になるというのは恥ずかしいが、大事な事なのできちんとしている。
「国王陛下、王妃殿下、そろそろお時間です」
「ええ」
女官長が声をかけてくれる。麗佳はすぐに表情を引き締めた。と、言っても王妃らしく穏やかな微笑みは浮かべているが。
でも、それは公的な表情なのだ。
「では行ってまいります」
家族に声をかけその場を離れる。家族はこれから魔法使いの転移の魔法で特等席に案内されるのだ。
オイヴァにエスコートされ、馬車に乗り込む。
「がんばろうね、チビちゃん」
「がんばろうな」
馬車の中でオイヴァと一緒にお腹の子に声をかける。
頑張る! そういうように麗佳のお腹の中でほんのちょこっとだけ魔力が放出される。
それを感じて、麗佳はオイヴァと顔を見合わせて笑ったのだった。
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