猫と二人の夜に
ぴろゆき
第一夜
『猫と二人の夜に』
「付き合って6年になるかな」
暗い部屋、引越し会社のロゴが入ったダンボールが雑然と並び、口が開いたダンボールの中から梱包された食器が顔を覗かせている。
「まだ引っ越したばかりでカーテンも無いよ、ライトもないし」
ガランとしたマンションの一室、壁に寄りかかった和樹の頬を、スマホが照らしている。「うん、年末には二人で挨拶に行くから、それじゃ」母との通話を切り「ふう」とため息をつく。
「ニャア」と、ケージの中に入れられた黒猫の瞳がキラリと光る「ごめんごめん、今出してやるからな」和樹がケージを開けると、するりと飛び出し、見慣れない部屋の空気をクンクン嗅ぐと、くあーと欠伸をして体を伸ばす。
二人で暮らすなら、なるべく都心に近い所に住みたいと言ったのは香織だ。手頃な値段で駅が近くて…散々探し回ったあげく、くたびれたビルの間にくたびれたように建つこのマンションに住むことにしたのだった。
「暗くって作業にならないな」和樹は悪態をつき、ダンボールの隙間にゴロンと寝そべった。ピロンとスマホが鳴る。香織からのメッセージだ「ガス屋さん来た?」今日はこれからガスの開通に業者が来ることになっている。
「まだ、そっちは照明買った? 暗いよ 何時頃戻る?」メッセージを打ち込み返信すると、和樹はスマホを胸の上に置き、照明のない天井をぼんやり眺めた。
どこからかジングルベルの音楽が流れてくる、そういえば、今日はクリスマスだ。猫が毛づくろいをしながら「ニャア」と小さく鳴いた。
香織のスマホが鳴った。和樹からの返信だ。「ごめん、今買うところ、ちょっと待ってて」と可愛い猫のスタンプを付けて返信する。
そこは香織が見つけたお気に入りのインテリアショップで、北欧風の家具や照明器具が並んでいる。今日は午前中二人で引越しの荷物を運び、午後、和樹は荷物の整理とガスの開通の立会い、香織はカーテンと照明を買って帰ることになっていた。
クリスマスのリースなどが飾られた店内には、キラキラしたペンダントライトや落ち着いたシェードライト、電球をそのままぶら下げたようなデザインの物などいろんな照明器具が並んでいる。
本当は二人で買い物にきたってよかった、でも、凝り性でアレコレ悩む香織に連れ回されるのが嫌だと和樹にぼやかれ、結局一人で買いに来たのだった。確かに香織は凝り性だ、その証拠にこのお店だって何軒も回ってやっと見つけたのだ。
でも、今日は何を買うのかちゃんと決めてある。香織はステンドグラスに猫の模様が入ったペンダントライトを手にとった。
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