☆人超戦甚アルダマン☆

だいなも

ー目覚めよ、人の力!ー

第01話 2019年の冬

1 その名は人超戦甚アルダマン!

 日本セントラル大学。

 ちょっと変な名前の、大きくも小さくもない微妙な大学。

 しかしそこはなんと、『特撮VFX学部』という特殊な学部構内で唯一設置している。 

 そしてそこに通う四十川あいかわまことは、

 日本一ヒーローにあこがれる学生なのだ。


 四十川のいる正門。

 そこから見えるのは大きなクスノキ、 そしてその後ろには雄大な時計台。

 さらにその周りでは、変身ヒーローの格好をした者、アイドルセーラー服戦士の格好をした者、怪獣映画の着ぐるみを着て歩く者、既にショー的な戦いを始めている者たちなど、およそ大学とは思えぬ素っとん狂な光景が繰りひろげられている。


 四十川はこの光景が好きだ。

 どこのコスプレ会場だよと言う風景、それでいて時計台から広がる、古めかしくも威厳うキャンパス。そして学生たち。

 大学生活とは、何と楽しいものだろう。

 おかげで彼女は7回も留年してしまった。

 まあいいさ。思い出は濃くて多い方がいい。


 ――そんなことを考えながら歩いていると、大学の正門をくぐった彼女は妙な違和感を覚えた。

 なんだか、いやに騒がしいのだ。

 まあ学費値下げや政府転覆を叫ぶ過激な連中が時計台を占拠したりだとか、それと戦おうとするヒーローコスプレの連中がごたごたを起こしたりだとか、そういうのはたまにあることだ。

 ――またやっているのか、彼女はそう思い広場のど真ん中を突っ切ろうとした。


 だが彼女はそこで、いつにない違和感と、そして次に興奮を覚えた。

 今まで見たことものないほどの迫真の戦いが、そこで繰り広げられていたのだから――


 ――朱のボディに黒色のライン。

 四十川の目に映ったそれは、まごうことなき正義のヒーロー。


 彼、正義のヒーロー然としたその戦士は武器一つ持たず、その体で怪物を追い詰めていく。

 しかしそこで彼女の違和感はさらに増す。

 周りに人だかりがないのだ。たまに正門周辺で起こる騒ぎもここまで派手ではないが、こんなことが起こればいつもの通り野次馬がスマホ片手に周りを囲むはず。

 だが戦っている彼らの他に目に入るのは、逃げ惑う学生や講師たちだけ。

 何かがおかしい、四十川あいかわは妙な不安を覚える。

 これはいつもの、コスプレ学生同士のチャンバラではないのか? と。


 そこで鈍い音が響いた。ヒーローが怪物の重い一撃を受けたのだ。そして変身が解け、苦しそうな表情でもがく若い男が姿を現すではないか。


「――お、おい大丈夫か!?」


 四十川は思わず駆け寄り声をかけた。

 これが現実か、それともやはり、ただのチャンバラ的な見世物かはわからない。

 だがヒーローのピンチに、彼女は何もせずにはいられない。

 憧れのヒーローが、そこにいるのだから。


「き、君は……?」


 四十川あいかわに抱きかかえられた若い男は、苦しみながらも怪訝そうな目で彼女を見る。

「あ、あたしのことは何だっていいよ! それより大丈夫なのか!? 戦えるのか!?」

 四十川の大きく、ハスキーな声がその場に響く。

「……そ、そうだ、僕は戦わなくては……。ぐ、ぐ……!」

 男はわきに転がる、こぶし大の変身アイテムと思われるものを拾おうとした。

 だが彼は利き腕すら満足に動かせず、掴みかけたそれを落としてしまう。


「……? こ、コレか? コレがいるんだろ? オイ!」

 四十川あいかわはそれを拾い上げ、持ち主の彼へ手渡そうとした。

 だがその瞬間、彼女の手の中のそれが赤く光った。持ち主も驚き声を上げる。


「……まさか!? ……いや、偶然とはいえあり得ないことじゃ……」

「え? な、なんだなんだ!?」

「……お、恐らくそれは君に反応して光ったんだ。……きっと、きっと君なら変身できる。……た、頼む…… あ、あいつを倒してくれ! じゃないと……」

 

 傷ついた男は、苦しそうな中真剣なまなざしで四十川を見る。


「!? ど、どういうことだよ!? あたしにどうしろっての!?」

「そ、それを体のどこでもいいから強く押し当てるんだ。そうすれば自然と体に巻き付き君は、“アルダマン”になることができる……」

「な、なんだって!? ……あ、あたしが変身して戦えってかあ!?」

 四十川は驚きと嬉しさのあまり声が裏返ってしまった。

「そうだ! ……た、たのむ! 今はそうするしか……」


 しかし、四十川は、彼女は戸惑った。

 冷静に考えれば、こんなことはあるはずがない。こんなことはテレビの中だけのはず。


 ……だが、もし本当だったら?

 ……目の前の男を助けられるのは、この状況ではきっと自分だけだ。

 ……ヒーローになることが、自分の夢ではなかったのか……?


「……わ、わかった! とりあえずやってみる! もしダメでも文句言わないでくれよ!」

 そう言うと四十川あいかわはこぶし大のアイテムを握りしめ、そして自分の腹に思い切り押し付けた。

 その瞬間、まばゆき赤い光とともにそこからベルトのようなものが彼女の身体に巻き付く。


 そして、全身を黒と朱きラインに身を包んだヒーローがそこに、現れた。


「……え、こ、これは……」

 あっという間の奇跡のような出来事に驚く四十川。

 だがかつて“アルダマン”だったその男の顔には、先ほどまでの苦しみはない。


「や、やった! 本当に出来た……! お、女の子でもなれたのか……。そ、それより! さあ新たなるアルダマン、いまこそあの怪物と戦ってくれ! そして、人々の営みを守ってくれ!」

「……あ、ああ! 任せてくれ! ――行くぞ! 今日からあたしが、あたしが! “アルダマン” 

 だ!」

 

 バケモノと対峙する、赤いスーツを真負った四十川。

 自慢のポニーテールだけそこからはみ出しているが、それ以外は特撮ヒーローそのものだ。 

 ……いや、そのやたらデカい胸と尻は隠しきれないが。

 しかし見たところ、武器などは見当たらない。

 四十川は自慢の胸……ではなく拳で怪物へ殴り掛かった!


 衝撃の女ヒーロー物語、ここにっ……

 開幕!


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