属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?

くにすらのに

第1話

 「おれは将来ヒーロー属性になる」

 自分の属性をまだ理解していなかった三歳の頃。

 口癖のように夢を口にしていたし、この夢は今でも変わらない。

 母さんも、周りの人も「がんばってー」と応援してくれた。

 今にして思うと、俺の属性がそうさせていたんだろうな。


 「たっく~ん。朝ですよ~」

 「わかってるよ。もう起きてるし」

 「おはようのハグがまだでちゅよ~?」

 「高一にもなって母親とハグなんてできるかよ」

 母さんはまあ身内から見ても美人だと思うし、二十歳で俺を生んでるから実際若い。それに加えて……。

 「ロリ属性のママとハグするのがそんなに恥ずかしいの~? ママとたっくんなら恋人同士に見えると思うんだけどな~」

 「属性の問題じゃねーよ! ふつうに恥ずかしいだろ!」

 七十億総属性時代。俺が生まれるずっと前から世界はこう呼ばれている。

 子供っぽい。大人っぽい。世話焼き。怠け者。クール。熱血。大きい。小さい。

 人の個性はみんな生まれ持った属性と、後天的に身に付けた属性によって形成される。

 それに気付いた昔の偉い人が提唱した時代だそうだ。

 「もう! そういう反抗的なところもショタ属性のせいなのかしら。でもママ知ってるの。たっくんは最後にはママに甘えてくれるもんね~?」

 「甘えねーよ! だいたいなんでロリ属性とママ属性を共存できるんだよ!」

 「う~ん。ロリ属性は生まれた時からだからどうにもならなくて、ママ属性はたっくんを産んだ時に目覚めたの。ママの愛ね」

 属性は多くの場合は遺伝する。母さんのロリ属性が俺に遺伝して、男だからショタ属性に変わった。

 「そのショタ属性のせいで悩んでんの! 背だって中学時代にほとんど伸びなかったし、もう期待できねーよ!」

 「ちっちゃくて可愛いと思うんだけどな~。たっくん、中学の頃は先輩から人気だったじゃない? きっと高校でも母性をくすぐってモテモテよ」

 他の女には簡単に渡さないけどね。なんて笑ってるけど俺はそんなの嫌だ。上でも下でもない。恋人とは対等な関係を築きたいんだ。……できれば俺の方がちょっとだけ背が高い方がいいけど。

 「可愛いからって寄ってきた男に逃げられた母さんに言われても暗い未来しか見えないから」

 「あんな男は逃げてくれて好都合よ。こうしてたっくんと二人きりで生活できるんだも~ん」

 父親は俺が産まれる前にどこかに消えてしまったらしい。どんな顔なのか、どんな属性だったのかも話してくれないし、母さんが話したがらないのなら深くは聞かない。

 でも何かにつけて「あんな男は逃げてくれてよかった」というニュアンスのことは言う。その後は決まって「たっくんと二人きりで生活できるんだも~ん」だ。

 「いや、こうやって育ててくれたことには感謝してるけどさ~。もっとこう成長段階に合わせた接し方を……」

 「たっくんに感謝されてママうれしい~! ギュ~~~~」

 小学生みたいな体型に不釣り合いなでかい胸が体に密着する。ああ、これが母親じゃなければ夢の高校生活なんだけどな。

 「ちょっ! 母さんくっつき過ぎだって」

 「だって高校生になったたっくんも可愛いんだも~ん」

 「はいはい。入学式からその可愛い息子に遅刻してほしくないだろ?」

 「あらいけない。たっくんしっかり者。ママも準備しなくちゃ」

 「母さんが準備してる間に俺は一足先に行くから。主役はあくまでも俺なんだからあんまり目立つ格好で来るなよ?」

 「わかってます。ちゃーんとシックなお洋服を買っておいたから」

 ジャーン! とハンガーに掛かった新品の黒いワンピースを自慢する母さんの姿はまるで子供だ。

 「よかった。母さんがTPOをわきまえる人で本当に良かったよ」

 「はうっ! たっくんがママを褒めてくれた~! ママ感激!」

 褒めたというか、普段の非常識の行いからは想像できないまともさだよっていう皮肉のつもりだったんだけど……。いちいち大きいリアクションで胸を揺らさないでくれ。

 「とにかく、そのワンピースに恥じないように大人しくしててくれよ。母さんは目立つんだから」

 「は~い。たっくんの姿を見かけても声は出さず、心の声を脳内に直接届けるね~」

 「母さんなら本当にできそうだから本当にやめて! ビックリしちゃうから!」

 「もう照れなくていいのに」

 こんな会話をしながら朝食を終え、身支度を終えた俺は一足先に出発する。

 「じゃあ母さん。行ってきます」

 「たっくん待って待って! 玄関で写真撮ろ~」

 時間にはだいぶ余裕があったし、こういう時の母さんには何があっても逆らえないから素直に写真を撮られることにする。

 「まずはたっくん一人の写真。キリっとした表情でカッコつけて! キャ~~~高校生たっくんが背伸びしてる~~~」

 中学校を卒業する時にも同じようなことを経験しているので玄関前での写真撮影にはまだ耐性が残っている。

 このあとは母さんとのツーショット。手慣れているのでこっちに駆け寄る時に転ぶなんてことは絶対にしない。振りでもフラグでもないぞ。

 なぜなら母さんは俺とのツーショットを撮りたくて仕方ないからだ。ママ属性が成せる技らしい。

 「じゃあ次はツーショットね。ママとのツーショットが嬉しい~って顔して待っててね。いくよ~」

 満面の笑みで駆け寄ってくる母さん。しっかりカメラ目線を決めて、一呼吸置いたあとにパシャっとシャッター音がした。

 「きっと良い写真になったわ。それじゃあたっくん、またあとでね。晴れ舞台楽しみにしてるから」

 「晴れ舞台って……ただ校長先生とかの話聞いて終わるだけだから」

 「それでも晴れ舞台は晴れ舞台よ。素敵な高校生活になるといいわね。行ってらっしゃい」

 「うん。行ってきます」

 こうして俺の幸せを願ってくれるんだから、文句は言いつつ母さんは最強のママ属性持ちなんだって思ってる。絶対に本人の前では言わないけど。

 それにこの衝撃の前ではたいていのことはかすむんだよね。

 

 チ ャ イ ナ ド レ ス 属 性

 

 いやなんで!? 生まれ持った属性にプラスして高校卒業までにある程度は好きな属性を付与できるんだけど、なぜチャイナドレス属性を選んだ!?

 ロリ属性を活かせる妹属性とか、逆に大人っぽく見せるためにクール属性とか、いろいろ選択肢はあると思うんだけどなあ。

 コスプレじゃなくて属性だから母さんのアンバランスな体型にも見事に似合ってるんだけど、その理由もちゃんと聞けてない。

 「需要があるのよ~」なんて適当な理由ではぐらかされるけど、チャイナドレスってセクシーなお姉さん属性の人が着る方が良いじゃいの???

 新海 拓。今日から高校一年生。ショタ属性。俺はヒーロー属性を取って誰からも憧れを抱かれる男になってやる!

 そんな希望とチャイナドレスの疑問を抱きながら新しい校門をくぐった。

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