第16話 幻のスコーン

 紅茶のお菓子として、定番であるスコーン。

 今まで、あちこちでそれを口にしてきました。

 とにかく、「スコーン」と名のつくものは買って食べてみる。


 驚くほど様々なスコーンがありました。

 形もオーソドックスな円筒形の他、三角形、四角形。

 味も、プレーンをはじめ、チョコレート、紅茶、ハーブ、フルーツ。

 大きさもまちまちで、一口サイズから、おにぎりサイズのものまで。


 今でも、まだ理想のスコーンを求めて探索中です。

 というのも、かつて素晴らしいスコーンに出会ったことがあるのです。


 オーストラリアを訪れていたとき、決して美味しいとはいえない食べ物の連続で、私はうんざりしていました。

 英国系の料理はどうも美味しくない。そんな固定観念ができるほどでした。


『英国がかつて領土を世界中に広げた理由は?』 

『世界のどこに行っても、イギリス人は食べ物に困らないから』


 そんな小話が笑えないほど、それは酷かったですね。

 フィッシュ&チップスが美味しく感じられるほどでした。


 あるときシドニーからメルボルンへ続く道をドライブしているとき、周囲に人家も無いような田舎の道沿いにぽつんとある、小さな『道の駅』っぽいお店に立ち寄りました。

 カウンターには、丸っこいおばさんが立っており、いかにも家族でやっています、という風情のお店でした。

 紅茶を注文すると、いつものごとく、お湯とカップに紙入りのティーバッグが入ったものが目の前に。

 自分でお湯を注ぎ、渋々それをすすっていると、目の前に焼きたてのプレーンスコーンが出てきたのです。自家製マーマレード、生クリームが添えてありました。

 何の期待もせず、そのスコーンをかじったとたん、口の中に自然な甘さが広がりました。

 旨いっ!

 なに、これっ!

 この味はなんだろう?

 きっと良質のバターをつかってるのかな?

 スコーンによって、美味しくない紅茶まで美味しく感じる。

 英国料理を馬鹿にしてごめんなさい!


 スコーンが美味しかったと告げたときの、お店のおばさんの笑顔と共に、その味は私の記憶に焼きつけられました。

 それから、そのスコーンと同等の味を探していますが、いまだに出会えていません。


 お店の名前も覚えていませんから、今となっては、幻のスコーンです。




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