第29話 思い込み?疑惑?
僕はその小さなwindowを覗き込む。
複数の画像ファイルが表示されている。
「カメラのメモリーを圧迫したく無いから、画像は荒いよ……」と前置きした上で、ホタカは一番上の画像ファイルをクリックする。
画像が画面一杯に表示される。
円筒状のガスボンベが中央に撮された写真。
「こんな大都市でも、都市ガスを引き込まないでプロパンガスで供給している設備が有るんだよ」ホタカは写真を指差す。
「恐らくは、道路を掘って都市ガス配管を引き込む費用より、ガスボンベを空いた土地に置いた方が安価だから、そんな建物もあるんだろうね、近隣のボンベ置いてる建物はほぼ確認した、俺が一人で飯時に使う分なら、死ぬまで持ちそう」ホタカは笑う。
「けど、ボンベって高圧でガスを封じ込めているんでしょ、いつまでも持つのかな、なんかボンベ破裂しそう」僕は昔、カセットコンロの携帯ボンベを間違って火にくべて爆発させた事を思い出した……
「うん、鉄製だから、錆びるし可能性は有るよね……ボンベの側面に期限が書かれているんだけど、当たり前だけど、全部期限切れだよね……」ホタカは口をへの字にして唸る。
「けど、ブルドーザーとかでボンベを破壊したら別だけど、親父からの受け売りだけど、圧力逃がし弁とか有るらしいし、普通に置かれている分なら、全然イケそうだよ」ホタカはまた呑気な返事で手をヒラヒラ。
「そんで、近隣の殆どのボンベはこの学校内に回収して、雨の掛からない日陰の軒先に置いてるあるんだ」ホタカは親指を立ててウインクする。
「なんか、怖いね」僕は正直に言う、だって怖いよ……
「まぁ、結局、耐圧試験を出来る訳でもないし、錆びも出るかもしれないし、だからこそ乾燥した軒先に置いてるんだけどね」ホタカは両手を上げて、降参のポーズ……その割には、顔は笑顔。
「……ホタカはスゴいね」僕は感心する……危険性も理解してその上で、『仕方無いじゃない……』と覚悟している……
この『荒地』において、この覚悟はとても大事な事だ。
伊賀市を支える大人達も皆、この覚悟を持っていた。
旧世代の機器は全て『動いてくれてるだけで有り難う』だ。
そりゃ、メンテナンス無しに30年が経過しているのだ。
何処の映画みたく、何万年後に地球人に発見されても正常稼働する宇宙人の遺跡なんてモンは夢物語りでしかない。
だから、覚悟するしかない……
直す技術も部品も無いなら、壊れた時は仕方無しと、覚悟するしかない……
ホタカはPCのディスプレイに写されたプロパンガスのボンベの写真を×でwindowを消す。
画像フォルダにはそれ以外にも多くの写真がサムネイル表示されていた。
その中に、ホタカのお父さんの写真も合った……恐らく『ヤツら』になる前の微笑を浮かべた顔……他にも家族三人の団欒写真も有った。お父さんは結構体格が良く、写真の半分をお父さんが占めていた。
サムネイルの情報が横に画像の情報が列記されている。
JPEG 1404×1093 ◯◯◯MB ◯◯◯◯年09月15日……
……
……
「あっ、出来た……」ホタカは僕が凝視したフォルダを×で消す……僕はもう少し見たかったのだが、ホタカはPCをログアウトしてしまった……そして湯沸室へ向かう……しかし、なにもログアウトまでしなくても……僕はもう少し写真を観たかったのに……
直ぐにホタカは湯沸室か鍋を持って来て、元は先生達の机であった食卓の鍋敷きの上にセッティングする。
旨そうな匂いが職員室に立ち込める。
ホタカがオタマで端の欠けた丼にザパーーッとタップリ盛る。
二人で同時に、
「いただきまーす」と大きな声。
ホタカはガツガツ口に放り込む……
何だが鬼気迫る位にガンガン喰らう……余程旨いんだろう。
僕も早速食べる……「旨い」思わず声に出る。
「だろ!」ホタカは満面の笑みで僕を見る。
その後は、小さな鍋がスッカラカンになるまで10分もかからなかった。
ホタカは又鍋とオタマや食器を持って湯沸室に戻り、帰ってきたら、両手にコーヒーカップが持たれている。
「ブラック、イケる?」ホタカは訊いてくる。
「大丈夫です」と僕。
手渡されたコーヒーを掴む、掌が温かい。
口にコーヒーを含む。
苦味と香ばしさ、熱さで気持ちが綻ぶ。
その後はホタカとダラダラ喋り、湯沸室のシンクの蛇口で歯を磨き、拾った金属ボトルに水を満タンに容れた。
そしてその後は、二人で職員室の椅子に座り、マッタリ。
「お昼は、バタバタしてたんだけど、漸くホッとした、有り難うホタカ」僕は感謝を述べる。
「そうかい……そりゃ良かった、こんな飯で良かったら、また食べてよ」ホタカはニコニコ。
「疲れたろ……今日は早く寝なよ……」ホタカは、校長室を指差す……空いた扉のむこう、革ソファーの上にマットレスと毛布が掛けられていた。
「使って良いの……」僕はホタカに訊く。
「いいさ……気にしない……扉の右側に照明のスイッチが有る」ホタカは微笑を浮かべる。
「じゃあ、遠慮なく……おやすみなさい」僕は荷物と共に校長室に入る……確かに右手にスイッチが有った、それを押す。校長室の天井のLED照明が付いた。
そして扉を閉める……
そのまま、僕は扉に耳を当てる。
ホタカは相変わらず椅子に座っているのか、椅子の軋み音がするだけ……
扉から離れて、校長室内部を見回す。
立派な机と椅子が一番奥に置かれている。
その奥の壁には、大きな窓が有り、ブラインドが降りている。
机を見る……劣化した筆記用具が転がったままになっている。
引き出しを開ける、紙類と30センチ程度の金属製の定規が入っていた……定規は薄さの割には良い重量が合った。
僕は定規を掴み、扉に近づく……扉の上、枠との間に定規を差し込む。
定規は扉と枠の間に挟まれる。
これで、もし扉を開けたら、定規が床に落ちて音を立てるだろう。
ブラインドを人差し指で下げて、隙間から外を見る。
外は壁だけ……ベランダも無い……故に、職員室から窓を利用して校長室に入る事も出来ない。
つまり、出入口は、定規を仕込んだ、あの扉しか無い。
僕は革ソファーに座り、この部屋に入れられた理由を考える。
『逃げない様に袋小路に入れられた?』悪意的思考
『客人に良い部屋を与えたい?』好意的思考
ホタカの行動が信じれない……何か不信感……真に能天気という可能性も『0ゼロ』では無いが……あれだけ悲惨な過去を背負いながらも余りに楽天的……いや、何かを隠している様な気配……
信じてい良いのか?
疑えば良いのか?
僕には判らない。
それでも、最低限の保険を掛けて寝よう……今日は疲れた……本当に……
お猿から逃げて……小さな冷蔵庫のお父さんに驚かされ……ホタカの過去に悲しんだ。
あの小さな冷蔵庫……お父さんの顔……どれだけ切断すれば、あの冷蔵庫に全て入るのだろう……先程のお父さんの写真……身長の比較対象は無かったけど……ホタカよりゴツい、『ヤツら』に成って痩せたのだろうか??
何かおかしい……何か間違っていないか……
革ソファーに凭れる……沈み混む身体……眠気が僕を襲う……ダメだ……眠い……バックパックを床に下ろし、マットレスを敷き、毛布を被る……また袖チャックのベロにキーリングを通し、水を満タンに容れた500ccの金属ボトルのストラップ穴とキーリングをカラビナで繋ぐ……万が一の武器だ。
……
ホタカへの不確かな恐怖
……
それ以上の睡魔
……
『定規が落ちた音は聴きたくない』と僕は思い、そして毛布の下で金属ボトルを右手に握り、虚ろになる……瞼が重い……ホタカの事は思い違いであって欲しい……そんな事を思いながら、眠りに落ちた。
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