最強案内人の俺が異世界美少女を操り、死にゲークリアに導くまで
鳳乃一真/ファミ通文庫
プロローグ
『それは唐突に起こった。準備をする暇などは当然なく、ただただ難題を付きつけられる。まさにこちらの都合などお構いなしだ』
――
光が差し込む薄暗い部屋。その中心にあるベッドの上で、ズキズキする頭を押さえながら体を起こす。
「えっと、なんで俺はここにいるんだっけ?」
記憶を辿ろうとするも、どうもはっきりしない。
確か昨日は大学が終わってから友人と夜の街に繰り出し、しこたま酒を飲んで家に帰り、自分のベッドに倒れ込んだはず。
「……ならここはどこだ?」
ベッドから足を下ろした所で、ふと目の前のテーブルに一枚の紙が置かれていることに気が付いた。
手を伸ばし、そこに書いてあった文章に目を向ける。
《もしここから出たければ、映像の向こうにいる彼女たちにダンジョン攻略させること》
「? なんだ?」
未だに起きてこない思考では、どうにも理解できない内容に首を傾げながら、ふと光が差し込む大きな窓に目を向ける。
「……ん?」
――だがすぐに、それが窓ではないことに気が付いた。
壁一面に広がるのは、太陽の光が溢れる外の風景ではなかった。
窓の区切りだと思った線を皮切りに、まったく別々の情景が並んでいるのだ。
縦4横4の計16枚。一瞬、絵画が隙間なく並んでいるのかと錯覚したが、そうではない。似た場所ばかりだが、それはここではない、どこか別の場所の様子だった。
「なんだ、これ?」
見慣れないモノに惑いながらもベッドから立ち上がり、改めて部屋の中を見渡す。
狭い部屋だ。目につくのは、数冊の本が並ぶ本棚。敷居もなく部屋の隅に設置されているトイレ。あとは自分が横たわっていた中央のベッドと、メモが置いてあった奇妙なオブジェが乗っている小さな机くらい。上を見上げれば、なぜか天井が中心に向かって捻じり上がっているという奇妙な形をしている。
……それだけだった。
ほんの少し周囲を見回しただけで、簡単に部屋中を見渡せてしまえる。
それが今、自分のいる狭苦しい空間の全てだった。
「……あれ? おかしくないか?」
そこで気付く、部屋の構造上、必ずなければならないモノが見当たらないことに。
「えっ、嘘? なんで扉がないんだ?」
そうなのだ。見渡す限り、どこにもないのだ。扉が、この部屋から出る為の出口が。
「いやいや、待て待て、ないないない。そんなことはありえない」
焦る気持ちに急かされるように、近くの壁に右手を伸ばし、壁沿いに歩き始める。
だがすぐに狭い部屋を一周してしまった。やはり出口はどこにもない。
「……つまりこれはどういうことだ?」
状況:どうやら出口のない部屋の中にいるようだ。当然、自分で入った記憶はない。
疑問:ならどうして俺はここにいる?
結論:誰かの手によって密室に監禁された。
「ないないない! だってこの部屋には入り口がないんだぞ! だったら俺はここに入ることができないわけだ! 当然、俺がここにこうして閉じ込められること自体、不可能な訳であって……」
現実逃避をするように必死になって口を動かすが、俺の頭脳はすでにその疑問に対する明確な答えを導き出していた。
出入口がない密室に俺を閉じ込める方法? そんなのは簡単だ。俺をこの部屋に放り込んでから出口を塞げばいい。壁を埋めるでもなんでも方法はいくらでもある。それだけで、あっという間に俺入り密室の完成だ。
「いやいや、ないない! それってつまり、俺をここに閉じ込めた
生きている人間をこんな場所に放り込んで出口塞ぐって、どんなサイコ野郎だよ! マジで怖いんですけど! そんなヤツとは関わりたくないんですけど!
咄嗟に自分の知人の中に、こんなことをする大馬鹿野郎はいなかったかと考えたが、心当たりはない。さらに最近こんな仕返しをされるような悪いことをしただろうかと考えたが、何も思い当たらない。
まさに八方塞がり。なんだか眩暈がしてきたので、思わずベッドに腰を下ろす。
そして自分が握っていたメモのことを思い出し、改めてその内容に目を向ける。
「ここを出たければ……映像の向こうの彼女たちに……ダンジョン攻略させる?」
顔を上げ、この部屋で唯一の光源である16枚が並んだ壁に向かって目を凝らす。
「……いた」
メモが示しているであろう彼女たちは、そこにいた。
ゴツゴツした岩肌の上に、並ぶようにして倒れている三つの人影。
思わず立ち上がり手を伸ばすが、冷たく固い壁の感触が指に当たるだけ。彼女たちに触ることは当然できない。
それからしばらくは、壁を撫でまわしながら色々と考えた。
「……まあなんにしても、この紙に書かれている彼女たちというのが、この三人のことだとしたら、彼女たちがいる場所が、ダンジョン? ということになるんだろうな。たぶん。……それで? それからどうすりゃいいんだ?」
何か他にないかと視線を動かしていると、自分が握っていた紙にうっすらと何かが透けて見えた気がした。すぐに裏を見ると、別の文章が書かれていた。
《彼女たち三人の右耳には魔法のイヤリングが付いている。テーブルの上にある魔法のマイクを使えば、そんな彼女たちに声を届けることができる。三人同時に話しかけることも出来るし、一人一人別々に語り掛けることも可能だ》
「魔法のイヤリングに、魔法のマイク?」
聞きなれない単語に眉を潜めながら、件のテーブルに置いてあった奇妙なオブジェに目を向ける。
テーブルの上に置かれていたそれは、四角い台座から伸びる先が丸い奇妙な棒。その台座には【1】【2】【3】【全員】と書かれた四つのスイッチが並んでいる。
戸惑いつつも、とりあえず【全員】と書かれたスイッチに指を伸ばす。
押し込むと、台座の一ヵ所が赤く点灯した。どうやらこれで彼女たちに声を届ける準備ができた、ということらしい。
思うことは色々とあるのだが、とりあえずやってみるしかない。
「おい、俺の声が聞こえるか? 皆、起きてくれ」
すると映像の向こうで横になっていた三人の身体がピクリと反応し、動き始める。
『ここは……どこ?』
最初に体を起こしたのは、赤毛の女の子。
太陽を連想させる明るい赤毛と意志の強さを感じさせる大きな瞳が特徴的。女性らしさを強調しつつも引き締まった身体。薄手で動きやすそうな恰好をしている。
そして赤毛の下に見える形の良い右の耳たぶに黒い小石のイヤリングが付いている。おそらくこれが紙に書かれていた魔法のイヤリングなのだろう。
赤毛の彼女は周囲を見回し、体を起こそうとしている二人に気付き、近づく。
『あなたたち、大丈夫?』
『……ああ、なんとか』
続いて顔を上げたのは、金髪細身の美女。光り輝くような金色の御髪とどこか浮世離れした整った顔立ち。何より目を引くのは、その耳の先端が尖っているということだ。こちらも赤毛の彼女と同じく、右耳に黒い小石のイヤリングが付いている。
『頭がガンガンします』
赤毛の彼女の手を借りて、最後に起き上がったのは、黒髪の少女。ダボダボのフード付きマントを被った小さな女の子で、癖のある少々長めの前髪から瞳が見え隠れしている。フードを被っているせいでぱっと見では確認できないが、俺の声が聞こえたようなので、この子も右耳に魔法のイヤリングを付けていることが予想できる。
『これはいったい、どういうことだ?』(金髪耳長)
『分からないわ。私も今、目を覚ましたばかりなの』(赤毛強気)
『ふえっ、ここどこですか?』(黒髪おどおど)
三人とも一様に戸惑いを見せている。
察するに、どうやら俺と似たような状況であるらしい。
そんな三人に、改めて魔法のマイクを通して声を掛ける。
「おい、聞こえるか?」
すると映像の向こうの三人が、ビクリと反応し、周囲を見回す。
『なに? 今の声は? 誰? 姿を現しなさい!』
「残念だが姿を見せたくても見せられない」
なにせ監禁されているから。
とにかく状況を説明しなければならないだろう。
そう思い、改めて【全員】のスイッチを押そうとした。
『……なるほど。つまりあなたが私たちを攫ってきた誘拐犯という訳ね?』
だが、怒りの籠った赤毛の彼女の言葉に、スイッチを押し込んだ手が止まる。
「誘拐犯? えっ、それって俺のこと?」
『それ以外に誰がいるのよ! いいから私たちを解放しなさい! 今ならその首を刎ねるだけで許してあげなくもないわよ!』
突然、堂々と胸を張りながら声を荒げる赤毛の彼女。
こんな状況でも気丈に振る舞えるのは凄いと思うが、なぜ彼女はこんなにも偉そうなのだろうか?
「いや、俺は誘拐犯じゃない。むしろ君たちと同じ被害者なんだ」
『何を訳の分からないことを言っているの! この恥知らずの誘拐犯が! 未練たらしい言い訳など聞きたくもないわ! いいから私たちを解放しなさい!』
一方的な物言いに、ちょっとイラっとした。
誰が恥知らずだ、誰が。……いやいや落ち着け、相手は年下の女の子じゃないか。大人の俺が冷静にならなくてどうする。まずは彼女を落ち着かせるところから……
『どうしたの? この私が怖くて姿も見せられないのかしら? それで卑劣な手段を使って私を攫ってきたという訳。ふん、とんだ腑抜けね。あなたのような人間のことを、陰険な変質者というのよ』
「な、なかなか強気な子だな。言いたいことは分かったからとりあえず、俺の話を」
『問答無用! いいから姿を現して、正々堂々、私と勝負なさい! まあもっとも、当然勝つのは私でしょうけどね』
ブチリ
「ああ、ウッセ! 黙れ! 高慢ちきの可愛くない女! いいから俺の話を聞け!」
『だ、だ、誰が高慢ちきですって! そ、それに言うに事欠いて可愛くないですって! この私に対して!』
――そこからしばらくの間、赤毛の彼女との壮絶な口喧嘩になってしまった。
頭に血が昇ってしまい、勢い任せで叫んだせいで、何を言ったのかよく覚えていないが、赤毛の女の子が涙目になってしまったところで、冷静さを取り戻した。
「あー、すまない。ちょっと言い過ぎた。悪気があった訳じゃないんだ。とりあえず名乗らせてくれ。俺は風星。
『……してやるもんですか』
「えっ? なんだって?」
『誰がよろしくなんてしてやるもんですか、この変態誘拐犯! アンタなんて嫌い、打大っ嫌い! サイテー男、さっさと死ね! というか殺してやる!』
地団太踏んで、周囲に向かって叫びまくる赤毛の少女。
当然ながら仲良くできる気配など微塵もない。
黙って俺たちの口喧嘩を聞いていた他の二人も赤毛の少女を慰めるようにしながら、どこにいるかもわからない俺に対して避難の目を向けている。
どうやらファーストコンタクトは大いに失敗したらしい。
――えーっと、それで? どこかの密室に監禁されている俺は、ここから出る為に何をすればいいんだっけ?
俺のことを誘拐犯だと思っている彼女たち三人に、ダンジョン? を攻略させなきゃいけない?
……いや、無理だろ。どう考えても。
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