生きてぇんだよぉぉぉ!!!

 そいつは何時から居たのか判らないが自身の体をボタボタと落としながら目の前にそびええるように立っていた。




「・・・は?・・・え?・・・なん」




 混乱するおらを無視し、馬鹿みたいにでかい水飴みずあめの化け物は自身の体を落ちるに任せ、おおかぶさるようにおらに向かって来た。



「うわわわわわ!」



 本能的に横へいつくばって逃げる。



 バッシャッア!!



 桶の水の何杯分か判らないほどの音が鳴る。

 無意識だったがなんとか回避できた。



「あわわわわ・・・」



 な、なんなんだこれは!

 この国には「妖怪」という、そら恐ろしい存在がいる。

 雪国の方では人を凍らせ喰らう「雪女」や川から小豆を洗う音が聞こえて近付くと喰われる「小豆洗い」、川に引きずり込み尻子玉(俗に魂と言われる)を抜かれる「河童(水死体が上がった時に体の中で最も腐りやすい部分が肛門周りの筋肉の為、医学の発達していない時代では真っ先に腐り落ちた部分を見て「河童に尻子玉を抜かれた」としていた)」等々・・・


 しかしこんな感じの妖怪はおらは「泥田坊」ぐらいしか思い付かない。

 恐怖におののいて腰が抜けて動けないおらを尻目に黒い水が集まり再びおらを喰らう為、ゆっくりと上体?を起こす。

 腰が抜けて立ち上れ無いが少しでも距離を取る為、いずる様に後退る。

 立ち上る為に樹にしがみつき無理矢理に立ち上る。

 だが、それが災いした。

 黒水の妖怪は横にも広がり樹を背にしたおらは逃げ場を無くす。

 黒水の妖怪は逃げ場を無くしたおらを嘲笑あざわらうかのようにゆっくりと覆い被さってくる。

 おらは自分に向かって落ちてくる黒水の妖怪を

 未練・・・と言うのもおこがましいがまだ、お菊に会っていない。


 2人が出逢った馴初めを本人達から聞いていない。



 まだ、連絡しなかった事を問いただしてない。




 まだ・・・お祝いの言葉も言ってない・・






 まだ・・・・・・新たな出逢いもしていない・・・





 まだ・・・・・・・・・・・・・・・・・








 まだ・・・まだ・・・・・・・・・・・・








 まだ・・・まだ・・・まだ・・・・・・・







 まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだぁぁぁぁああああ!!





「生きてぇんだよぉぉぉ!!!」












 ゴブシャァァァ!!!












 何処かで大きな音がした。














 そして、気がつくと















 















 黒水の妖怪をぶん殴っていた。











 ・・・・・・・・・え?

 確かに俺は「生きたい」と願った。

 この妖怪に食い殺されたく無い一心で立ち上りどう転んでも効く訳がない拳を奮った。

 繰り出した自身の拳を見る。

 その拳には白とも赤とも取れる光を放ち、かつ焔のように揺らめいている。


 いける・・・!


 直感的にそう感じとり、再び妖怪を見る。さっきの一撃がこたえたのか妖怪は液体であるその体を硬直し動きを止めている。


 もしかして落ちているのか?


 なら今が好機!


 俺は動きの止まった妖怪に更なる追撃を叩き込んだ。


 ピギャァアァァァァァ・・・・・・


 何処に口があるのかは謎だが砕け散りながら断末魔の叫びを残し妖怪は虚空に消えていった。


 倒したの・・・か・・・?


 辺りに夜の静けさが戻り、虫達の声が昼間の鳥達に替わり此処に居るぞと主張する。

 虫達の合唱に今の今まで周囲の音が聞こえて来なかったことに今更ながら気付く。


「ふぅ・・・・・・へ?」


 緊張が解けたのか、その場に尻もちをつく。


 「は、ははっ。・・・い、生きてる。生きてっぞー!」


 ヘタり込んだまま、拳を高らかに掲げ生きている事を実感する。


 しかしさっきの焔は何だったのか・・・


 「もしかして?」


 辺りを見渡したときに見えた寂れ朽ちた小さなほこら。もしかして此処にまつられている神様のご加護・・・なのかな?

 取り敢えず手を合わして感謝しておくか。



 「何の神様だか判んねぇが、ありがとうごぜぇます・・・」


 「信心深い所申し訳無いけどそこの神じゃないわよ?」



 え?この周辺には自分以外誰も居なかったはず・・・そう思い声のした方へ振り向くと光に包まれた羽根の生えた2人の女性がこちらを見ていた。






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