第252話 意外な客
リンクスの家を訪れた清宏はお茶を飲んで一息つくと、玄関で脚立に跨り何やら作業を開始した。
現在、リンクスは家事を行なっており、ラフタリアとペインはカリスと共に子供達の遊び相手になっているため、清宏は黙々と作業をしている。
「えっと・・・ここをこうして・・・よし、完成!!・・・ん?」
清宏は額の汗を拭い、出来上がったばかりの装置を見て拍手をしていると、背後に気配を感じて振り返った。
振り返った先には馴染みのある2人組が立っており、清宏を見つめながらニヤニヤと笑っていた。
「隙だらけだぜダンナ?」
「お疲れ様です清宏殿、来られておられると聞き挨拶に参りました」
「なんだ、ジルとオーリックか・・・」
2人は脚立の上にいる清宏を見上げながら手を差し伸べ、降りるのを手伝う。
清宏は手を借りて脚立から飛び降りると、2人の腹を軽く小突いて苦笑した。
「隙だらけも何も、気配を消されてたら気付かねーっての・・・お前等も相変わらずみたいで何よりだよ」
「相変わらずって言っても、この前会ってからまだ数日しか経ってねーからな・・・にしても、あんたはここで何をしてたんだ?」
「何やら妙な装置を取り付けていたようですが、これは一体・・・」
軽く挨拶を交わしたジルとオーリックは、清宏が取り付けていた装置を見て首を傾げる。
すると、清宏は玄関の扉を開けて中を指差した。
「キッチンに行ってみな?」
「行けば解るのですか?」
2人は清宏の指示に従い、中に声を掛けてキッチンに向かう。
清宏は2人とリンクスの話し声が聞こえてきたのを確認すると、装置に取り付けられているボタンを押した。
ピンポーン!
清宏がボタンを押した途端、家の中から音が響き、それを聞いた3人が顔を覗かせた。
「何だこれ?」
「これはインターホン・・・まあ、呼び鈴だな。
これがあれば、誰か来た時に押して貰えばすぐに分かるだろ?外から声を掛けられても、気付かなかったら意味ないからな」
清宏が首を傾げたジルに説明すると、リンクスが納得したように頷いて笑った。
「ああ、これは便利だな・・・私は気配でだいたい分かるが、旦那や娘達は声が聞こえなければ気付かないから助かるよ」
「まあ、これだけじゃないんだけどな!お前等、もう一度キッチンに戻って、壁に設置した水晶盤を見てくれるか?」
言葉を聞いた3人がキッチンに戻ると、清宏はもう一度脚立に登り、表面を綺麗に磨かれた小さな水晶の塊を壁に埋め込んだ土台に設置した。
「どうだー、俺が映ってるかー?」
「え、ええ・・・鼻をほじっている姿が鮮明に映っておりますよ・・・」
呆れているオーリックの言葉を聞いた清宏は、脚立から降りて片付けると、キッチンに向かう。
「どうよ、良いだろそれ?」
「凄いのは理解出来るが、これは一体何のために・・・」
水晶盤を見ているリンクスが訝しげに尋ねると、清宏は人差し指を立てて胸を張った。
「それは監視カメラみたいな物だ!!」
「監視カメラ?」
「うむ!先日の一件もあり、俺は何か対策が必要だと思ってたんだよ・・・今までは訪ねて来たのが知らない奴だったり怪しい奴だった場合でも、確認するには扉を開けなきゃならなかっただろ?だが、これなら家の中からでも確認出来るんだよ。
これがあれば子供達でも出て大丈夫か判断出来るだろうし、お前も少しは安心だろ?」
清宏がニヤリと笑うと、リンクスは眼頭を押さえて頭を下げた。
「本当に何から何まですまない・・・」
「気にすんなって!お前は家族の事となると本当に涙脆いな・・・」
「清宏殿、感謝いたします・・・この御恩、必ずお返しいたします」
「至れり尽くせりで助かるぜ!この礼は、リンクスの代わりに俺達がちゃーんとしてやるから安心してくれ!」
3人から頭を下げられた清宏は、恥ずかしさからそっぽを向くと、また何か思い付いたのか手を叩いた。
「よし、ここまで来たら徹底的にやるぞ!ジル、この家の周囲で死角になる様な場所を教えてくれ!侵入者対策と監視カメラを設置して、家の中から全て確認出来る様に魔改造してやる!!」
「よし来た!俺はそう言う作業はお手の物だからな!!」
「い、いや・・・何事も程々が大事ですよ?聞いてますか清宏殿!?」
テンションが上がりきった清宏とジルは、オーリックの制止も聞かずに外に向かって駆け出す。
2人が玄関の扉を開けて外に出ると、門の前に一台の馬車が停まり、質素なドレスを身に纏った初老の女性が降りて来た。
その女性を見た途端、ジルは緊張の面持ちで立ち止まり、キッチンに居るリンクスを呼んだ。
「皆様、ご無沙汰しております」
「あ、貴女は・・・何故こちらに?」
慌てて出て来たリンクスは、女性を見るなり複雑そうな表情で問い掛ける。
女性はジルやリンクスの反応を見ると、苦笑して頭を下げた。
「遅くなってしまいましたが、改めて謝罪に参りました」
「謝罪なんて・・・貴女は何も悪くないではないですか・・・」
「そうは参りません・・・今は独り身となりましたが、あの時のわたくしは妻としてマグラーの近くに居ながら、貴女のご家族の拉致を未然に防ぐ事が出来ませんでした。
誠に勝手ながら、わたくしは貴女とご家族に謝罪したい・・・それがせめてものけじめなのです」
女性が深々と頭を下げる姿を見ていた清宏は、ある程度状況を把握してはいたが、居心地悪そうにモジモジとしだした・・・すると、隣にやって来たオーリックが清宏に小さな声で耳打ちする。
「あの方は、マグラーの元夫人であるアビシニア殿でございます・・・今回は、あの方のおかげでマグラーの動向を知る事が出来たと言っても過言ではありません」
「当時はマグラーの身内だったから謝罪したいって事か・・・律儀な人だな」
清宏とオーリックが隠れて話をしていると、アビシニアはそれに気付いて朗らかに笑った。
「お初にお目に掛かります、わたくしはアビシニアと申します。
貴方様はもしや、魔王リリス様の副官清宏様であらせられますか?」
「あ、はい・・・申し遅れました、清宏と申します・・・私の事をご存知でいらっしゃったのですね」
「貴方様のお噂はかねがね・・・オライオン陛下とマレーヤ殿下もとても興味をお持ちのようでございましたから」
「何ともお恥ずかしい限りです・・・」
清宏がぎこちなく返事をしていると、それを見かねたリンクスがアビシニアの前に割り込んだ。
「アビシニア殿、せっかくご足労いただいて立ち話も何ですので、よろしければお茶でもいかがでしょう?」
「ご馳走になります」
リンクスに案内されアビシニアがその場を離れると、清宏は地面に崩れる様にしゃがみ込んだ。
「何なのあの人、超怖いんだけど・・・見た感じは笑顔なのに、明らかに雰囲気ヤバいって」
「清宏殿、気をつけて下さい・・・アビシニア殿は、オライオン陛下をして愛国心において右に出る者無しとまで言わしめた女傑でございます。
下手な言動は命取りになりかねませんので、気を引き締めておいた方が良いでしょう」
「帰りたくなってきた・・・」
「やめときな・・・ここで帰ったら印象悪くするだけだぜ?」
ヨロヨロと立ち上がった清宏は、オーリックとジルに支えられ、リンクスとアビシニアの待つリビングに向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます