第249話 結局いつもの流れ

 風呂から上がった清宏は、身体の弱っているフォルバンに消化の良いお粥を作って食べさせ、まだ部屋の無い彼には清宏の自室で休んで貰う事にした。

 お茶で薄めたポーションと薬を飲んだフォルバンはその後すぐに眠ってしまい、清宏はアンネとレイスにその場を任せて広間に戻り、食後の自由時間を満喫していたルミネとシスを呼んで席に着かせた。


 「ゆっくりしてるところにすまんな・・・」


 「構いませんけど、何だか珍しい組み合わせですわね?」


 「確かに、私とルミネさんの組み合わせって今まで不思議と無かったですよね」


 2人は顔を見合わせて苦笑すると、清宏を向き直った。

 清宏はテーブルの上に紙とペンを取り出して置くと、今日診療所での事を2人に話す。


 「そんな事があったんですのね・・・」


 「お医者様は大変な職業とは聞いてましたけど、そこまで酷い状況だったんですね・・・」


 「ああ・・・正直、俺も今日初めて現状を知ってどうにかしなきゃと思ってな、お前達にも話を聞きたいと思ったんだ」


 「そう言う事でしたら協力は惜しみませんわ!私も以前、野戦病院ではお医者様方の知識に大いに助けられましたし、少しでも恩返しが出来るのであれば嬉しく思いますもの」


 「そうですね・・・立場や方法は違いますけど、私も治癒術士の端くれですから見捨てるなんて出来ません!」


 「本当に助かるよ・・・今日中にある程度まとめて、明日王都に行った時に陛下に伝えたいと思ってたからさ。

 そんじゃまあ、医療制度の見直しと保険について何か思うところがあれば言ってくれ」


 清宏が頭を下げて尋ねると、2人は難しい顔で俯き唸る。


 「どちらもだいたいの仕組みは理解出来たのですが、正直どれ程の負担が国に掛かるかが分からないので何とも言えないですわね・・・ですが、私個人としては考えそのものは素晴らしいと思いますわ」


 「私も実現したら良いとは思いますが、何処から手を付けたら良いものか・・・」


 2人が答えに困っているのを見た清宏は、紙に何やら書いて2人に見せた・・・それは、清宏なりに考えた実現に向けての段取りだった。


 「俺としては、まずは医者の育成と石鹸の量産と輸出を並行して行えたらと思ってるんだ・・・そうすれば、石鹸で得た利益を医者の育成に回せるから、国としてはだいぶ負担を減らせると思う」


 「確かにそれが無難かもしれませんわね」


 「うーん・・・私も良いとは思うんですけど、それだけで賄えますかね?保険の負担額も考えると、それ以外にも何かしら必要だと思うんですよ」


 「それについても一応は考えがある・・・だが、それをやるとなれば、またクリスさんの力を借りなきゃいけないんだよなぁ」


 難色を示したシスに苦笑した清宏は、もう一度紙に何やら書いて2人に見せた。

 内容に目を通し終えたシスは、清宏を見て首を傾げる。

 

 「魔道具の製作工程を分けるとなっていますが、これはどう言う事なんです?」


 「どうもこうもそのままの意味だよ。

 そうだな、それじゃあ順を追って説明する・・・まず、俺が石鹸を広めたい理由が人々の健康を保つ為なのは理解してると思うが、健康な人が増えれば働き手が増えるだろ?そうなると、働く場所が必要になる・・・だが、もし働く場所が無いのに人が増えたら路頭に迷って餓えちまうだろ?これじゃあ健康になる意味が無いんだよ。

 だからこそ、俺は魔道具製作の工程を細分化し、パーツを造る工場、そして出来上がったパーツを別の工場に配送する部署などに分け、そこで働かせたらどうかと思うんだ」


 「そう言う事でしたか・・・確かにそれなら健康な人が増えても職に就けない人は減るかもしれませんね!」


 「ええ、お給料が発生すれば必ず税が引かれますし、国としてはそれが収益になりますもの。

 それに、魔道具製作がこちらでしか出来ないとなれば、他国はオズウェルト商会・・・果てはこの国にお金を支払わなければならないのですから、クリス様にとっても悪い話では無いと思いますわ」


 「金は天下の回り物・・・人は金を得れば使うから、経済が活性化すれば国も豊かになる。

 末端にまで恩恵が出るには時間が掛かるだろうけど、もし工場を増やして軌道に乗れば、金属製素材の採掘・加工などの魔道具製作に関連する多くの場所にも利益が生まれるし、そこで働く人達へも給料として還元出来る・・・そして、増えた給料から保険料を払って貰うって感じで考えてるんだがどうだろう?

 ただ、一つだけ問題点を挙げるとすれば、国が豊かになれば他国からの移住者が増える可能性が高まる事だな・・・その中にはスパイも紛れ込んで来るだろうし、何より元からこの国に住んでる人達の仕事が奪われないようにしなきゃいけない」


 清宏が挙げた問題点を聞き、2人は神妙な顔で頷く。

 そんな2人を見た清宏は、気持ちを切り替える為に手を叩いて苦笑する。


 「まあ、これに関しては俺達だけで決められる事じゃないし、後は話を聞いたお偉方の反応次第だな!本当、兎にも角にもお前達が居てくれて助かったわ・・・」


 「助かったも何も、殆ど貴方の考えを聞いて終わってしまっただけなのではなくて?」


 「ですね・・・元より、私達に医療制度や保険について聞かれても、知らない事には答えられないですよ」


 「いやいや、お前等に理解出来るように話をまとめなきゃ陛下に説明出来ないだろ?それに、俺はヤハブ達医者の為にも実現してやりたいからな・・・それが延いては世の為人の為になるのなら、失敗する訳にいかねーんだよ」


 清宏が明るく笑って答えると、それを見たルミネが盛大に吹き出して笑い出した。


 「き、清宏さん・・・まさか、貴方の口から世の為人の為なんて言葉が出てくるなんて思ってもいませんでしたわ!!」


 「お前なぁ・・・」


 清宏のこめかみに青筋が浮き出たのを見て、シスは素早く席を立ってその場から離れる・・・だが、爆笑していたルミネはそれに気付かず、反応が遅れて鎖に繋がれてしまった。


 「な、何をしますの!?」


 「おーいパンツァー、ちょっと来てみ?」


 清宏は慌てているルミネを無視し、広間の隅でアリー達ちびっ子達の遊び道具になっていたパンツァーを呼び付ける。

 呼ばれたパンツァーは素早く駆けつけると、清宏の前に平伏した。


 「はっ!何でございましょう!!」


 「さて問題です・・・今日のルミネのパンツの色は何でしょう!!」


 「何を言っていますの!ま、まさか貴方達!?」


 「むむっ!?これは紳士たる我への挑戦でございますか!?そうでございますな・・・ルミネ殿は服装からして派手な色は好まないご様子ですし、白のレースかと」


 「無視しないでくださいまし!ねえ、聞いていますの!?」


 話を聞いて貰えないルミネの表情が徐々に青ざめて行くと、清宏はそれを見て『ニチャア』と音が聞いて来そうな嫌らしい笑みを浮かべ、彼女の背後に回り込んだ。


 「パンツァーよ、甘いな・・・俺は黒のTバックだと見た!!」


 「その挑戦、受けて立ちましょうぞ!!」


 「ちょっ待ってくださいまし!わ、私が悪かったですから!!」


 「では、オープン!!」


 「いやーーーーっ!!」


 ルミネの涙ながらの懇願を無視した清宏は、勢い良く彼女の服の裾をめくる・・・そして、彼女の下着をじっくりと確認し、ガッツポーズをした。


 「俺の・・・勝ちだ!!」


 「し・・・紳士たる我が敗北するとは・・・無念なり!!流石は副官殿、お見それ致しましたぞ!」


 「今回は、こいつの性格を知っていた分有利だっただけだよ・・・。

 ちなみに、こいつは普段から神官服を着ているせいか、下着には凝る傾向がある!今後は覚えておくと良いぞ・・・これ豆な?」


 「そんな事は良いですから早く降ろして下さいまし!皆さんに・・・皆さんに見られてっ・・・!」


 涙目のルミネに再度懇願され、清宏は悲しげな表情でゆっくりと首を振る。


 「ぶっちゃけ、もう遅いけどな・・・グレンなんてアルトリウスの陰からガン見してるからな?」


 「ちょっ、バラすなよ!せっかく隠れて見てたのによお!!」


 「グレンさん、貴方も覚えてらっしゃい!?この恨みは必ず晴らしますからね!!・・・と言うか早く降ろしてくださいましっ!!」


 清宏は顔を真っ赤にして怒鳴り散らすルミネをその場に降ろすと、殴られる寸前で自ら落とし穴に落ちて逃げ去る。

 広間に残されたグレンは、朝までルミネに追い回される事になってしまった。



 


 


 


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