第245話 商人ギルド

 街に戻った3人は、まずアンネにはオズウェルト商会に行って貰い、清宏はフォルバンと共に露店の許可証を返納する為に商人ギルドの事務所に向かう事にした。

 だが、フォルバンを車椅子に乗せているためやたらと目立ってしまい、彼を知る人達が心配して話しかけてきたりと遅々として進まない。

 清宏は同じ説明を何度となく繰り返していたため若干疲れた表情をして車椅子を押していると、冒険者ギルドの前で見慣れた大男を見つけて立ち止まった。


 「ネルソンさん、お久しぶりです」


 「ん?おお、これは清宏殿・・・今日はまたどうされたのですか?そちらのご老人は、確か先の通りで露店を出しているフォルバン殿とお見受けしますが・・・」


 清宏に話しかけられたネルソンは、振り返ると首を傾げて尋ねた。

 清宏は内心またかと思いながらも笑顔を崩さないように気を付けながらフォルバンの肩に手を置く。


 「私はいつもフォルバンさんの野菜を購入していたのですが、彼が体調を崩してしまったと聞いたので、今日から私のところで暮らしていただく事になったのです」


 「そうでしたか・・・」


 「ええ・・・聞いたところフォルバンさんは一人暮らしとの事でしたので、私のところの方が養生出来るかと思ってお誘いしました」


 「清宏殿のところであれば大丈夫でしょう!ローエン達も居ますし、馬車馬の様にこき使ってやって下さい!それで、清宏殿達はこれからどちらへ?」


 「まず商人ギルドで露店の許可証を返納して、その後はお医者様にフォルバンさんの容態を診ていただこうと思っています」


 清宏が今後の予定を伝えると、それを聞いたネルソンは一瞬顔をしかめた。


 「医者ですか・・・差し出がましい事を申しますが、この街の医者はやめておいた方がよろしいかと・・・」


 「何故です?まさか、ヤブ医者なんですか?」


 「いや、腕は確かなのですが性格に難がありましてな、ただでさえ医者に掛かると高額な治療費を請求される上に、その性格も相まってかなり評判が悪いのですよ・・・」


 「あらら・・・ですが、私達もあまり時間が無いので、取り敢えず今日はそちらに行ってみます。

 何か揉めた時はネルソンさんに丸投げするんで後はよろしくお願いしますね!」


 「冗談でもやめて下さいよ・・・私だって忙しいんですから」


 ネルソンがあからさまに嫌そうな顔をしたため、清宏は笑いながら手を振ってその場を離れた。


 「清宏よ、お主は冒険者ギルドのマスターとも知り合いなんじゃな」


 「うちでは冒険者も雇ってるからな!何度か爺さんの店に買いに来ただろ?」


 「あぁ、あの大量に買って行った若い冒険者達か・・・お主の遣いじゃと言ってくれたら良かったのにのう」


 「俺が買い占めてるなんて知ったら、爺さんが気を遣いそうだからな!」


 「まったく、やり方が小狡いのう・・・本当、お主には感謝しても仕切れんわい」


 これまではフォルバンの荷馬車に乗せられて通っていた大通りを、今日は清宏が車椅子を押して通る・・・ゆっくりとした歩調ではあるが、その分会話を楽しみながら進んで行く。

 行き交う人々は2人を見て時に優しく笑い、何やらコソコソ話をしている・・・人々からは2人はどの様に見えているのだろうか、仲の良い祖父と孫に見えているのだろうか?

 だが、2人はそんな周りの目など気にせずに会話を楽しみ、しばらくして商人ギルドの建物に着いた。


 「爺さん、段差があるから背中に乗ってくれ」


 「歩けるから構わんよ・・・」


 「体調が万全なら良いが、今は何かあったら大変だから念の為だよ」


 「お主は頑固じゃなぁ・・・」


 2人が建物の前で話をしていると、職員らしき女性が中から出て来て頭を下げた。


 「いらっしゃいませ、お困りの様ですがお手伝いいたしましょうか?」


 「ああ、それじゃあ車椅子の左側を持ち上げて貰えるかな?」


 「かしこまりました・・・あれ?フォルバンさんじゃないですか、どうされたんですか!?」


 清宏に頼まれた女性は笑顔で頷くと、車椅子に乗っているのがフォルバンである事に気付き、慌てて駆け寄った。


 「最近来られていないと聞いていたので心配してたんですよ?もしかして、怪我をしたんですか?」


 「心配を掛けてすまんかったのう・・・近頃は体調が優れんくての、恐らくもう店を出す事は出来んじゃろうし、許可証を返しに来たんじゃよ」


 「そうだったんですか、フォルバンさんが居なくなると寂しくなります・・・。

 えっと・・・そちらの方はお孫さん?ではないですよね・・・?」


 女性は悲しげな表情でフォルバンと話していたが、清宏を見て怪訝そうに首を傾げた。

 すると、フォルバンが苦笑しながら清宏の手を優しく握った。


 「この子は儂の店を贔屓にしてくれておったんじゃが、儂が体調を崩したのを知って家まで見舞いに来てくれてのう、今日からはこの子のところに住まわせて貰える事になったんじゃよ」


 「そうなんですか!?それはまた・・・」


 女性はまだ信じていないのか、清宏を値踏みする様に見ている・・・まあ、清宏は目付きが悪いため仕方の無い事ではあるが、初対面の相手に対して失礼ではないだろうか。

 だが、清宏自身も目付きの悪さは自覚しているため、特に気にする素振りも見せず笑顔で頭を下げた。


 「はじめまして、私は清宏と申します。

 私は以前からフォルバンさんに良くしていただいておりまして、彼が体調を崩されたと聞きいても立ってもいられず、日頃のお礼も兼ねて共に暮らしたいと申し出た次第です。

 彼の人となりを知ってらっしゃる方々にはご心配をお掛けしてしまうとは思いますが、何卒私を信じてはいただけないでしょうか・・・」


 「んなっ!?ま、真面目だこの人!!」


 「これこれ、流石に失礼じゃぞ・・・」


 「す、すみません・・・申し遅れましたが、私は露店関係の事務を担当しているアーニャと申します!とんだ失礼を働いてしまい申し訳ありませんでした!!」


 「構いませんよ・・・私は目付きが悪いですからね・・・」


 「ああ・・・とんだ失態をしてしまった・・・」


 清宏がわざとらしく悲しげに呟くと、アーニャは涙目で震え出してしまった。

 流石に悪ノリが過ぎたと思ったのか、清宏は苦笑しながら車椅子の右側に手を掛けてアーニャを見た。


 「気にしていませんから安心してください・・・それより、そちらを持っていただけますか?フォルバンさんを立たせる訳にはいきませんから」


 「は、はい!私、力だけは自信あります!!」


 「力だけって・・・」


 アーニャは慌ててフォルバンの左側に移動し、車椅子を掴むと軽々と持ち上げる。

 彼女の力の強さに驚き若干タイミングの狂った清宏は、急いで車椅子を持ち上げたが、何とかフォルバンに負担を掛けずに段差を越えられて安堵して息を吐いた。


 「どうです?これでも荷物運びで鍛えてるんですよ!」


 「うん、確かに凄いけどさ・・・タイミングは合わせようね?」


 「はい・・・すみません」


 清宏に注意されてしまい、アーニャは肩を竦めて小さくなる。

 すると、それを見たフォルバンが声を上げて笑い出した。


 「はっはっは!こうして無事なんじゃからそう落ち込まんでも良えよ・・・今後はここに顔を出す事も無いじゃろうし、最後の日くらいはお主の明るい笑顔を存分に見せておくれ」


 「フォルバンさーん!私寂しいよー!!」


 フォルバンの優しい言葉に感動したアーニャは、人目も憚らず泣き出してしまった。

 それに気付いた他の職員達も何事かと慌てて外に出て来てしまい、状況を理解していない職員達から、何故か清宏が睨まれてしまった。


 


 


 

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