第219話 Dirty deeds done dirt cheap

 リリスと信濃はテーブルの下から出てくると、わざとらしく咳払いをして副官達の気を引く。

 それに気付いた清宏と鞍馬は席につき、まるで今までのやり取りが無かったかの様に本題に入った。


 「では、何の用でうちに来たかを詳しく聞かせて貰えるか?」


 清宏が尋ねると、鞍馬は信濃に確認する様に目配せし、リリスと清宏を真っ直ぐ見つめた。


 「ちょいと長い話になってまうんやけど良えか?」


 「うちのリリスが理解出来る内容なら構わんぞ」


 「まあ、難しい話ちゃうから大丈夫やろ・・・。

 ほな、まず単刀直入に聞かせて貰いたいんやけど、最近リリス様が召喚した者の中に馬鹿デカい骸骨は居らんかったか?お嬢と自分は、そいつの行方を探るために此処に来たんや」


 鞍馬の質問を聞いた清宏とリリスは、2人同時に頷いた。


 「デカい骸骨なら確かにうちに居るぞ、あの大人しい奴だろ?」


 「大人しい訳あるかい!あの骸骨はな、500年前にウチの可愛い配下達を根こそぎ喰らい尽くした正真正銘の化け物なんやぞ!!せっかくウチと鞍馬で命懸けで封印したっちゅーのに・・・」


 互いの認識に齟齬があるため、急に激昂した信濃に清宏とリリスは驚いたが、彼女が涙を浮かべているのに気付いて居住まいを正すと、真面目な表情で信濃達を見た。


 「すまないが、俺達としても少々信じ難い話で困惑している。別にそっちが嘘を言っていると思ってる訳ではないが、うちに召喚された奴は本当に大人しいんだ・・・そいつは、うちに来てから1mmも動いてないような奴なんだよ。

 正直、俺達にはそっちが言っている奴とうちの奴が同じ個体かは判断が出来ない・・・気は進まないとは思うんだが、2人が良ければ確認して貰えないだろうか?もし同じ奴だった場合、早めに対策を練っておかないといけないからな」


 「妾からも頼む・・・お主達には悪いが、妾も仲間達の安全を確保する義務があるんじゃ。

 今、奴は清宏が用意した部屋で大人しく座っておるが、お主達が確認をしておる間は万が一を考え、清宏だけでなくアルトリウスとペインにも警戒させよう」


 清宏達の提案を聞き、鞍馬は苦虫を噛み潰した様な表情で舌打ちをし、信濃は震える身体を抱き締める様に俯いた。


 「いくらこの城がデカい言うても、彼奴と室内でやり合うんは嫌やなぁ・・・まあ、そうは言うても確認せなあかんのは事実やけど。

 なあ、彼奴のとこに行く前に一つ聞いておきたいんやけど良えか?」


 「ああ、うちも被害は出ないに越した事は無いし、何でも答えよう」


 「ほな遠慮なく、まずアルトリウスはあれやろ?真祖の吸血鬼の・・・そんなんが居る言う事も驚きなんやけど、一緒に名前が出て来たペインちゅうのは何者なんや?アルトリウスと一緒に呼ばれたんやから手練れやろうけど、知らん奴に守られるんは不安でしかないで・・・」


 鞍馬に尋ねられ、清宏は立ち上がってアルトリウスとペインを呼ぶ。

 2人は瓦礫の片付けを他の仲間達に任せると、清宏とリリスの背後に並んだ。


 「アルトリウスは知ってたみたいたがら紹介は省くが、こっちの女がペインだ。

 ペイン、お前は確か2人を知ってたよな、顔見知りか?」


 「うむ、親しい間柄と言える程ではないが、幾度か会話をした程度には知っているのである!

 挨拶が遅れてしまったが、2人共息災の様で何よりである!」


 豪快に笑いながら手を上げたペインを見て、信濃と鞍馬は同時に首を傾げた。


 「すまんけど、自分誰や?会うた事かあったかな・・・」


 「自分は知りませんわ・・・こない良え女、一度会うたら忘れへんはずやのに」


 信濃達が唸っているのを見た清宏は、背後に立っていたペインを肘で小突き、見上げて問いかける。


 「なあ、お前が前に2人に会った時ってさ、その姿だったのか?」


 「いや、違ったのである・・・これは2人が知らぬのも当然であるな。

 清宏よ、少しだけ元の姿に戻っても大丈夫であるか?」


 「仕方ない・・・ただし、これ以上広間を壊さないでくれよ?」


 清宏に釘を刺されたペインは、広間の中央に移動して竜の姿になると、信濃達を見下ろして笑った。


 「ふはははは!これならば我輩が誰であるか思い出したであろう!!」


 「なっ・・・自分、覇竜か!?まさか、女やったとは・・・」


 「自分、女やったんか・・・てっきり男やと思てたわ」


 「むう・・・何故、皆口を開けば我輩が女だったのかと言うのであるか?我輩は一度も自分が男であると言った事は無いというのに」


 信濃達の反応に不機嫌そうに呟いたペインは、人の姿に戻って清宏の背後に並んだ。


 「リリス、自分ほんま何なん?運が良えにも程があるやろ・・・」


 「妾に聞かれても困るんじゃがな・・・。

 それでどうじゃ、アルトリウスとペイン・・・更に2人を拳一発で気絶させる清宏が居るんじゃ、これでもまだ戦力として不安があるかの?」


 リリスの言葉を聞いた鞍馬は、笑いながら立ち上がり、信濃を見た。


 「はっはっは!ここまでお膳立てされて不安がっとる訳にはいきませんわ!!

 お嬢、これだけ居ったら心配いらんかも知れません、ちゃっちゃと済ませて帰りましょ!」


 「あんなぁ、実際確認するんはウチなんやで?彼奴に近付かんとあかんのに、不安にならん訳ないやろ!自分は、いざとなったらちゃんとウチを守ってや!?」

 

 鞍馬に背中を押され、信濃は渋々と立ち上がる。

 清宏は2人の緊張が解れたのを見ると、餓者髑髏(仮)の居る部屋の前に案内し、ゆっくりと扉を開けた。


 「ここだよ・・・やっぱり動いてないみたいだ」


 部屋の中を確認した清宏が振り返ると、信濃は鞍馬を盾にしてビクビクとしながら室内を見た。


 「瘴気は出しとらんようやな・・・」


 「歯を噛み鳴らすあの不気味な音も聞こえへんですね・・・」


 清宏が道を譲り、信濃達はゆっくりと室内に入ると、正面に座らされている巨大な骸骨を見て動きを止めた。

 特に信濃は、緊張と恐怖で震えているのが誰の目にも明らかだ。

 ゆっくりと骸骨に近付いた2人は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


 「すーっ・・・はぁーっ・・・ほ、ほな確認するで?」


 「へい・・・」


 信濃は帯に刺していた扇子を手にし、恐る恐る骸骨に近付ける・・・そして、かるく突いて素早く鞍馬の背後に隠れた。


 「こ、怖いーーー!めっちゃ怖いねんけど!!」


 「お嬢、確認になってませんて・・・自分も行きますんで、早よ終わらせましょ?」


 ガクガクと震える信濃を宥めた鞍馬は、盾にされながらも勇気を振り絞って確認作業を開始した。

 それをしばらく眺めていた清宏は、欠伸をして部屋の外を見ると、誰か見つけたのか手招きをした。

 清宏の隣にいたアルトリウスは、それを見てため息をついたが、何も言わずに清宏から距離を取る。


 「お嬢、そっちはどないですか?こっちはまあ、良かったんか悪かったんか・・・」


 「ああ、間違いない・・・彼奴や。

 せやけど解せんねんなー、まるで抜け殻みたいになってもうとる・・・」


 信濃と鞍馬が骸骨を見上げて話をしていると、その背後に清宏が忍び寄る・・・その隣には先程呼ばれた者も居るようだが、信濃達は緊張からかまったく気付いていない。

 2人の真後ろまで来た清宏は、大きく息を吸った。


 「わっ!!」


 『!?』


 突然背後から聞こえた大声に信濃達は一瞬その場で硬直し、恨めしそうにゆっくりと振り返ると、清宏の隣に居た人物・・・人間大の骸骨と目が合った。


 「清宏・・・自分、鞍馬みたいなくだらん事しくさっ・・・て・・・」


 「お初にお目に掛かります信濃様、私はレイスと申します」


 清宏の隣に居たレイスが挨拶をすると、信濃はそのまま白目を剥いて気絶し、動かなくなった。

 鞍馬も相当驚いたようだが、信濃のようにはならず、清宏を憎々しげに見つめてため息をついた。


 「清宏はん、自分ほんまに意地が悪いわ・・・ここに来てスケルトンを目の前に来させるやなんて、考えとってもようせんわ。

 あかんわ、お嬢立ったまま気絶しとる・・・」


 「だってよー、2人して動かない骸骨相手にめっちゃ怖がってんの見てたらさ、悪戯したくなるじゃん?」


 「やはり清宏様はブレませんな・・・」


 「毎回毎回、貴様は子供のようにはしゃぎながら下衆な事を考えるのである・・・本当、魔王より魔王らしい男であるな」


 アルトリウスとペインにまで呆れられ、清宏はつまらなそうに口を尖らせる。


 「良いじゃねーか別に・・・子供らしさを失わないのは若さの秘訣だよ?

 さてと、信濃が気絶してる間に昼飯作ろっと」


 「私もお手伝いいたします」


 清宏な踵を返して部屋を出ると、巻き込まれたレイスも何事も無かったかの様に退室して行った。

 部屋に残された3人は、気絶した信濃を抱えて部屋を出る。


 「なあ、あの男っていつもあんななんか?」


 「安心しろ、貴様もすぐに慣れる」


 「で、あるな・・・」


 3人は仲良くため息をつくと、扉を閉めてリリスの元に戻って行った。

 

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