第205話 笑顔の絶えない職場です。
城に帰り着いた清宏は、皆が集まるのを待って新しい仲間を紹介することにした。
ただ、浦島太郎達と一緒は嫌だと駄々をこねた乙姫コンビの為、浦島太郎達専用の穴を開ける事になり、若干時間が掛かってしまった。
「グダグダ過ぎて嫌になるな・・・取り敢えずルミネは皆んな知ってるから飛ばすとして、まずは人魚2人組は『乙ちゃん』と『姫ちゃん』だ。口が悪いのが玉に瑕だが、メンタル弱いから気をつけてくれ」
「清宏さん、彼女達のメンタルが弱いのではなく、貴方が陰湿なだけですわよ」
「まあ、そうとも言うな!」
ルミネの言葉に清宏は胸を張って笑うと、浦島太郎達の浸かっている穴の横に立った。
「こいつらは自称魚人のUMA達で、長男で鯖の魚人『浦』、次男で鮭の『島』、三男で鰹の『太郎』だ。こいつ等話し方は偉そうだが、実際はしょーもない奴等だからあまり深く考えなくて良い」
「ふふふ・・・清宏よ、その様に照れるな!何故正直に我等の優秀さに惚れたと言わん!まさか貴様、照れているのか?」
「な、しょーもないだろ?」
清宏が振り返って尋ねると、皆は乾いた笑いを漏らして頷いた。
最後に、清宏はベルガモットの隣に立って軽く肩を叩いた。
「ほれ、まずは自己紹介だ。お前はあいつ等と違って学びに来たんだから、その辺は自分でしっかりやれ」
「は、はい!ベルガモット・オズウェルトです!清宏さんに弟子入りしたので、今日からよろしくお願いします!!」
ベルガモットが自己紹介をして深々と頭を下げると、グレンが苦笑した。
「ダンナ、ファミリーネーム持ちとか何処のお嬢様を誑かして来たんだよ?」
「失礼な事を言うなよ人族馬鹿筆頭、オズウェルトって言ったら知り合いには1人しか居ねーだろ?こいつはクリスさんの娘だよ」
「マジか・・・それならまあ来てもおかしくないのか・・・あれ、どうなんだ?」
グレンが混乱して首を傾げていると、清宏の服をリリスが引っ張った。
「なあ清宏よ、ファミリーネーム?と言うのがあるのは珍しいのかのう?」
「俺も直接聞いた訳じゃないから断言は出来ないが、たぶん平民には無いんじゃないか?
お前はグレン達が名乗るのを聞いた事無いだろ?ファミリーネームってのは、たぶん王族や貴族連中、それと功績を評価された一部の者だけが与えられる物なんじゃないかと俺は思ってるよ」
「あら、まだこちらの事には疎いと思っていましたが、知ってらしたのですね」
「まあ、俺が住んでたとこも昔は同じ様なもんだったからな・・・今では無い方が珍しいけど。
ファミリーネームと言えば、お前やオーリック達はどうなんだ?赤竜を討伐したんなら功績は十分だろうし、貰ってないのか?」
清宏が感心して頷いているルミネに尋ねると、ルミネは苦笑して首を振った。
「功績で言えば確かに申し分ないですわね・・・ですが、私達はあの後ギルドに報告してすぐに国を出て、こちらへと流れて来ました・・・皆帰る家も家族も失ってしまいましたし、辛い事を思い出してしまうあの国から逃げ出したい一心でしたもの。
だから、私達は功績を称えられる前でしたので与えられてはいないのです・・・まあ、ファミリーネームを得てしまうとその後は一国に縛られてしまう事になるので、元より受ける気はありませんでしたけどね」
「あのなルミネ、お前のそういう所ズルいぞ?」
「何がですの?仰っている意味が分からないのですが・・・」
清宏がジト目で睨むと、ルミネは意味が分からず首を傾げて聞き返した。
「聞いた方の身にもなれって事だ・・・そんなん聞かされたら、気になってしょうがないだろ?お前は割り切ってんのかもしれんが、聞いた方は悪い事をした気になって心苦しくなるんだよ」
「それは・・・まあ、そうかも知れませんわね。
私が軽率でしたわ・・・今後は気を付けますわね」
ルミネが珍しく素直に謝罪すると、清宏はため息をついてリリスの頭に手を置いた。
「話が脱線しちまったが、次はうちの奴等を紹介する!取り敢えず、うちで一番偉いのは俺じゃなくてこのチンチクリンのリリスだから、見た目がガキでも表向きは敬意を表するように!言っとくが、こんなんでも一応魔王だからな?こいつはすぐに泣くし魔王らしい所は一つも無いが、何だかんだ皆の事を一番に考える奴なのは確かだ・・・俺のやり方に不満があっても直接言えない時はこいつを頼れば良い」
「はい・・・」
「おう、どうした姫ちゃん?」
清宏が挙手をした姫ちゃんに尋ねると、姫ちゃんは清宏を指差した。
「魔王様より貴方の方が偉そうなのが解せない」
「そう来る?まあ否定はせんけども・・・一応説明しとくと、俺はリリスに召喚されはしたが配下になったつもりはないんだよ。他の召喚された奴等とは違って、俺は協力者として自分の意思でここに居るって事だ。
まあそうは言っても、俺はこの城の全権を任されてはいるが、一応最終決断はこいつが下す・・・お前等もその方が良いだろ?ツートップじゃどっちに従えば良いか分からなくなるだろうしな」
「了解でーす」
姫ちゃんが手を上げて返事をしたのを見た清宏は、満足気に頷いて話を戻す。
「理解が早くて助かるよ・・・さて、次はレイスだな。こいつは見ての通りスケルトンだが、忠誠心は召喚された奴等の中でも断トツと言っても良い忠臣だ。こいつは頭も良いし気が利くしこの城についてはダンジョンマスターの俺の次に詳しい・・・良いか、もしレイスをスケルトンだからと言って馬鹿にしたら許さんから覚悟しとけよ?
そんじゃ次はアルトリウスだな。こいつについては名前くらいは知ってんだろ?こいつは真祖の吸血鬼で、隣にいるアンネロッテの主だ。
アルトリウスにはリリスの警護を、アンネにはレイスと共に俺の補佐や家事全般をやって貰ってる。
一応次で主要な役職に就いてる奴は終わりになるんだが、奥に並んでるサキュバス達の先頭に立ってるのがまとめ役のリリアーヌだ・・・あいつはサキュバスにしては珍しく処女だが、その分理性を保ってるし何だかんだ気が利く奴だからお前等もすぐに仲良くなるだろ。
これ以上はあまりにも長くなっちまうから、俺が夕飯の準備をしている間にでも各々自己紹介をしてくれたら助かる・・・ではレイスとアンネ、それとレティは手伝ってくれ」
清宏は料理が出来る者を呼び、厨房に入って行く。
清宏達が居なくなるのを見計らったかのように、案外照れ屋のアッシュと先程紹介されたアルトリウスとリリ以外の者達が全員で新入り達に殺到した。
「何じゃ何じゃお主等!?妾を差し置いて先に行くでない!妾も話したいんじゃー!!」
「おお、そうだった・・・リリス様のありがたーい挨拶がまだだったな」
「何じゃグレン、馬鹿にしとるように聞こえるのは妾だけかのう?」
「拗ねるリリス様尊い・・・」
「おいグレン、お前の義妹どうにかしろ!まーた鼻血吹いて倒れたぞ!!」
「またかよ・・・これさえ無ければ自慢の義妹なのになぁ・・・ほら起きろ!毎回毎回憐憫の目で見られる義兄の事もちっとは考えろ馬鹿!!」
揉みくちゃにされて叫んだリリスにグレンが場所を譲り、馬鹿にされたと思って拗ねたリリスを見てシスが卒倒、そしてそれを見たローエンが呆れてグレンを呼び、グレンはグレンでボヤきながら義妹を抱き上げて平手打ちをして皆が哀れんだ目で見る・・・いつも通りの光景だ。
だが、そんな事など知らない新入り達は、目の前で起こっている魔王城らしからぬ光景に目を白黒させている。
「何!何なの!?何で皆んな集まってくるのよー!?」
「圧が凄い・・・」
「大丈夫、そのうち慣れますわよ・・・これが無いと物足りなくなったら終わりだと思ってくださいまし。まあ、笑顔の絶えない職場だとは思いますわよ・・・」
驚いて抱き合っている乙姫コンビに近付いたルミネは、隣にしゃがんで呟いた。
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