第203話 乙姫と浦島太郎

 しばらく世間話をした事で、怯えていた人魚達も何とか落ち着きを取り戻し、清宏はペインとベルガモットに待機していた魚人達を紹介するためその場を離れた。

 清宏が来たのに気付いた魚人達は海中から飛び出して目の前に着地し、ポーズを取る。


 「よく戻って来た人の子よ!」


 「何してんのお前等・・・」


 「いや、あまりにも暇だったのでな。

 それで、人魚達はどうだった?やはり生意気だったのではないか?」


 「調子に乗って泣かせちまって、慰めるのが大変だったよ・・・取り敢えず今は落ち着いて俺の仲間と話をしてる」


 「貴様、奴等を泣かせるとはやるな」


 「口の悪さと口数なら負ける気がしないからな。

 今からお前等を他の仲間に紹介して、あの人魚達も出来ることなら雇いたいと思ってるんだが、来てくれるかな?」


 清宏が尋ねると、魚人達は揃って腕を組み微妙な表情で唸った・・・魚の頭をしている割に表情は豊かなようだ。


 「奴等は我等を嫌っているからな・・・誘いたいなら我等はまだ隠れていた方が良いかもしれん」


 「何したんだよ」


 「言い負かされて乳を揉みしだいた」


 「そりゃお前等が悪い!口喧嘩で手を出したら駄目だろ・・・。

 さて、どうするか・・・どの道お前等とは会わせなきゃならんのだし、それが早いか遅いかの問題でしかないから今で良いかな」


 「貴様がそうしたいのならば構わんが、お勧めはせんぞ・・・」


 決定に渋々従った魚人達は、清宏の後について行き、ルミネ達と合流した。

 魚人達が現れた瞬間、人魚達は慌てて海に飛び込んで岩の陰に隠れる。


 「何でそいつらがいんの!?」


 「私達の天敵・・・」


 「ほら、だから言っただろう?我等は嫌われているのだ!!」


 人魚達に睨まれた魚人達は、清宏を振り返って胸を張った。


 「得意げに語るな馬鹿ちん・・・。

 取り敢えず説明するから、お前等もこっちに来てくれ・・・心配せんでも、こいつ等には何もさせんし、何かやらかしそうなら俺がぶん殴る」


 「それなら良いけど・・・本当頼むわよ?」


 「童貞なのに頼もしい・・・」


 「やかましい!お前等本当に反省してんのかまったく・・・」


 清宏は人魚達を軽く睨むと、並んで立っている魚人達を指差しながらペインとベルガモットに紹介する。


 「こいつ等は今日から仲間になる魚人達だ。見た目通り鯖・鮭・鰹で、正直馬鹿でエロいが役には立ちそうだから雇ってみた」


 「清宏よ、貴様の人選は何かおかしい・・・」


 「私は面白ければ何でも良いです。魔道具以外あまり興味ありませんから」


 「そう言うなよ、こいつ等以外向こうには居なかったんだからさ・・・。

 魚人共、やたら背と乳がデカいのがペインで、もう1人がベルガモットだ・・・ペインはお前等じゃ勝てんくらい強いから気を付けろよ?あと、ベルガモットは俺の友人の娘だから手を出したら俺直々に制裁を加えるから覚悟しておけ」


 清宏が釘を刺すと、ペインの胸を凝視していた魚人達は慌てて敬礼をした。


 「了解した!我等もまだ死にたくはないから手出ししないと誓おう!!良いな兄弟達!!?」


 「おうとも!」


 「兄者が誓うなら、我も誓おう!」


 魚人達は頷き合って清宏を見る。

 清宏はそれを見て頷くと、次に人魚達を振り返った。


 「さて、こいつ等についてはこんなところで良いだろ・・・本題はお前等だな」


 「な、何?どうしたのよ・・・」


 「いや、お前等も良かったらうちに来ないか?」


 「えっ・・・何で?何が目的なの?」


 困惑している人魚達に苦笑した清宏は、2人の前に座った。


 「うちは今水に慣れてる奴を雇いたいって思っててな、今日は誰か居ないか探しに来てたんだよ。

 お前等はこの辺では悪い意味で有名になってるみたいだし、さっき言った通り根に持ってる奴が仕返しに来ないとも限らない・・・それにだ、俺が誰も興味を持たんと言った時には怒ってたし、興味がある奴が絶対に居ると言った時には嬉しそうな表情をしてた・・・それは、本当はお前等が人間の男に興味があるからじゃないのか?」


 清宏が尋ねると、人魚達は気まずそうに目を逸らし、モジモジとし始める・・・それを見た清宏は苦笑して話を続けた。


 「この辺はお前等の噂もあって殆ど人が寄り付かないんじゃないか?だが、うちに来れば毎日結構な人数の男達と出会える・・・もしかしたら、その中にお前等の好みの奴も現れるかもしれん。

 もしお前等がうちに来てくれるなら、お前等の生活と身の安全は俺が保証しよう・・・まあ、あいつ等と同じところにはなるが、あいつ等は俺が監視するから安心してくれ。

 どうだ、お前等さえ良かったらうちに来てくれないか?」


 「うーん、悪い話しじゃないんだけどね・・・どうする?」


 「私達に何をさせるか次第かな?」


 話し合っていた人魚達は、海中から清宏を見上げて首を傾げた。


 「うちの側に湖があるんだが、罠に掛かった侵入者が湖に落ちて来た時に助けてやって欲しい。

 あいつ等を雇ったは良いが、やっぱりあいつ等も男だろ?罠に掛かった奴の中に男性恐怖症の女性とかが居た場合、あいつ等じゃ駄目なんだよ・・・だから、お前等には女性を中心に助けて貰いたい」


 「なーんだ、そう言う事なら別に良いかな!そこまで考えるなんて、貴方結構やるじゃん!」


 「うん、それくらいなら大丈夫・・・でも意外、貴方は女性に厳しいと思ってた」


 「お前等・・・俺は馬鹿な奴には誰にでも厳しいし、しっかりやる奴には誰にでも優しいんだよ!本当反省してんのか分からねーなお前等は。

 さてと、んじゃまあお前等の名前教えてくれ」


 清宏が名前を尋ねると、2人は揃って首を傾げた。


 「無いわよそんなの」


 「そうそう、別に困らないしねー」


 「そりゃまた不便だな・・・名前が無ければ呼ぶ時に困るから俺が決めてやろうか?」


 「えっ・・・変なのは嫌よ?」


 「うん、変なの付けられたら生きていけない」


 「お前等、さっきは無くても困らないとか言ってなかったか?」


 清宏が2人を睨むと、ルミネが隣にやって来た。


 「お2人共、清宏さんの考えた名前の良し悪しを私が判断して差し上げましょうか?」


 「それ助かるー!」


 「女性が判断してくれるならありがたい」


 「何か馬鹿にされてるみたいで悔しい・・・」


 舌打ちをした清宏は俯いて考え込んだが、しばらくして顔を上げて手を叩いた。


 「よし、まずは右側のお前は『乙ちゃん』!そして左のお前は『姫ちゃん』だ!!」


 「・・・何故それにしようと思ったのですか?」


 「ん?俺のいた国にあった昔話に出てきたキャラに『乙姫』って言うのが居るんだが、そいつは海の底にある竜宮城ってところに住んでてな、本当は1人の名前なんだが、こいつら仲良さそうだし分けて付けても良いんじゃないかって思ったんだよ」


 「ふむ、一応真面目には考えているようですし、響きも悪くないので良いかもしれませんね・・・と、言う事ですが貴女達はどうです?」


 「よく分かんないけど、悪くないなら良いわよ!」


 「グッジョブ!」


 名前が決定し、笑顔でサムズアップする2人を見て苦笑した清宏は、魚人達を振り返る。


 「ついでにお前等も決めとくか・・・マッカレルとか響きが無駄にカッコイイのが気に食わん。

 まず鯖は『ウラ』、鮭は『シマ』、鰹は『リュウ』だ」


 「何だそれは!何故末弟が一番カッコイイのだ!?」


 「兄者の言う通りだ!」


 「名前の由来よりそちらが気になりますの?」


 抗議するウラとシマにルミネが呆れていると、清宏は面倒臭そうに欠伸をした。


 「うるせーなー・・・未来警察ウラシマンの主人公の名前を分けて付けてやったんだから感謝しろよなー・・・正直、名前とか考えんの苦手なんだよ」


 「投げやりにも程がある!?」


 「別に『浦』『島』『太郎』でも良いんだぞ?」


 「や、やはり末弟が一文字多い・・・」


 「だが、リュウよりは我等の面目も保てそうだ・・・では、我等は『浦』『島』『太郎』と言う事にしよう」


 飽き始めた清宏には何を言っても無駄だと理解した魚人達は、諦めて項垂れた。

 話が纏まり、清宏は立ち上がって皆を見渡す。


 「そんじゃまあ、帰りますか?」


 「それは構いませんが、どうやって帰りますの?彼女達を運ぶのであれば、ペインさんの背中では危ないと思うのですが・・・」


 「そもそも、私はどうやってここまで来たのかすら知りませんよ・・・」


 「貴様は気絶していたであろう?まあ、我輩もどうするのかは聞いておきたいのであるな」


 ルミネ達の視線を受けた清宏はニヤリと笑うと、周りを確認してアイテムボックスから20人は乗れそうな程に巨大なゴンドラを取り出した。


 「えっ・・・常識の範囲内でお願いしたいのですが・・・」


 「師匠のアイテムボックスってどうなってんですか?ボックスと言うより倉庫なのでは?」


 呆れているルミネとベルガモットの横では、何故2人が不思議がっているのか見当も付かないペインが首を傾げている。


 「我輩はこのくらいが普通だと思うのであるがなぁ・・・なあ清宏?」


 「容量MAXでしばらく放置→容量増えるの繰り返しで何とかなるよな?」


 「それにしてもやり過ぎです・・・まあ、これなら全員乗れそうですから、これ以上は追求いたしませんわ。それで、これでどうやって帰るんですの?」


 呆れていたルミネは首を振ってため息をつき、清宏に尋ねた。


 「俺達はこれに乗って、あとはペインに鎖で繋いで運ばせるんだよ」


 「これが前言っていたゴンドラであるか・・・本当に言っていた通りの仕様になっているのであろうな?」


 「そこは任せておけ・・・アルコー様から色々と学んでから改良したから、申し分ない仕上がりになっている。

 さてと、乙ちゃんと姫ちゃんはあれだな、2人は金タライに海水汲んで入って貰うとして、浦島太郎達はどうする?」


 「我等も同じで構わん」


 「了解、なら準備出来たら撤収!!」


 清宏はペインと魚人達で手分けして金タライに海水を汲んでゴンドラに入れ、人魚2人をタライに運ぶ。

 

 「それじゃあペイン、鎖を繋ぐぞー」


 「うむ、大丈夫であるか?浜からは見えてはいないであろうな・・・」


 ペインは周囲を警戒しつつ竜の姿に戻る・・・すると、ゴンドラの中からそれを見ていた人魚達が盛大に吹き出した。


 「私達、あんなヤバいの揶揄ってたの?」


 「生きてて良かった・・・」


 「これに懲りたら、今後は軽々しく他人を馬鹿にしない事だな」


 鎖の確認を終えた清宏がゴンドラに乗り込み人魚達に忠告すると、ペインはゆっくりと上昇し始め、ゴンドラの安全を確認しながら雲の上に出た。


 「調子はどうだ?」


 「思っていた程負担が無くて安心したのであるよ・・・では、加速するのである!」


 ペインは苦笑しながら清宏に答えると、リリス城に向けて速度を上げた。

 

 


 


 

 

 


 

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