第202話 罵倒バトル
魚人達は、30回連続あいこという壮絶な死闘を繰り広げた結果、待ちくたびれた清宏から拳骨を喰らい、結局くじ引きで決める事となった。
清宏は岩場に落ちていた適当な木の棒に赤と青の印をつけて魚人達に引かせ、長兄の鯖の魚人が赤を引きルミネ担当に、末弟の鰹の魚人が青を引いて清宏担当に決定した。
「最初からくじ引きにしとけば良かったわ・・・ほれ、さっさと行くぞ!」
「私は正直気が引けますが、向こうまで歩くよりはマシですわね・・・では、お願いいたします」
清宏は鰹の魚人の背に跨ると背中を軽く叩いて合図し、ルミネを乗せた鯖の魚人を先行させた。
清宏は、ルミネ達から少し離れて鰹と鮭の魚人に小言で話し掛ける。
「どうだお前等・・・別に背に乗せられなくても、後ろから見るだけってのもなかなか乙なもんだろ?」
「うむ、尻の感触は惜しいがこれはなかなかになかなかだ」
「兄者の背で少し歪んだヒップラインが堪らん」
「だろ?あいつは乳も良いが、尻も良い形してんだよな・・・見てると叩きたくなるから困る」
「スパンキングか・・・言われるとしたくなってくるが、やったら怒られてしまうのだろうな」
「だろうな・・・てかさ、一つ聞いて良い?」
ルミネの尻を鑑賞しながら話していた清宏は、何か気になる事があったらしく、鰹の魚人に尋ねた。
「何だ?」
「何でバタフライ?」
「む?この方が跳ねている様で格好良いからだが?」
「そうか・・・」
特に意味がない事に呆れた清宏は、そのままルミネの尻鑑賞に戻る。
その後、水面を割って飛び跳ねながら泳ぐ魚人達は、砂浜に居る観光客達に気付かれるのを避ける為、大きく迂回するように反対側の岩場に向かった。
「ペイン達は何処だ?」
「見当たりませんわね、裏側でしょうか・・・」
清宏は鰹の魚人をルミネ達の横に進ませ、海上からペインとベルガモットを探したが、見当たらなかったため近くの岩場に降りた。
「我等はどうする?」
「取り敢えず一緒に来てくれ、人魚達がよく居る場所に行ってみたい。もしかすると、先にそいつ等を見つけて一緒に居るかもしれないから、当てもなく探し回るよりは良いだろう」
「むう・・・我等は奴等とは会いたくないのだが、仕方なかろう」
清宏の頼みに魚人達は渋っていたが、提案を受け入れて先を歩く。
しばらく岩場を歩き、先程降りた場所から裏に大きく回った所で魚人達が立ち止まり振り返る。
「この先だ・・・」
「かすかに笑い声が聞こえるな・・・。
よし、それじゃあお前等はここで待機していてくれ」
魚人達に指示を出し、清宏とルミネは笑い声のする方へゆっくりと近付き、岩の陰から覗き込む。
「やだぁ、お姉さんダッサーイ!ねえ、今どんな気持ち?」
「あららぁ、お姉さん泣いちゃったー・・・可愛そ」
「ペインさん、しっかりして下さいよー!何で言い返さないんですかー!!」
隠れて覗き込んだ清宏とルミネが見た光景は、一際高い岩の上に腰掛けて笑っている2人の人魚と、その人魚達に背を向けて体育座りをしながらシクシクと泣いているペイン、それを励ますベルガモットの姿だった。
清宏とルミネは一度頭を引っ込めてヒソヒソと話をする。
「ねえ、あれ何やってんの?」
「私に聞かれても困るのですが・・・」
「取り敢えず、ベルガモットも困ってるし行ってみるか?」
「それが良いと思いますわ・・・ですが清宏さん、くれぐれも面倒事は避けてくださいね?」
「さっきも言ったが、それはあいつ等の出方次第だな」
2人は頷き合うと、立ち上がって岩の陰から出て泣いているペインに近寄った。
ベルガモットは2人に気付いて嬉しそうに笑うと、ペインの肩を軽く叩いた。
「ペインさん、頼もしい助っ人が来てくれましたよ!これであの2人に勝てます!!」
「う・・・うわーん、清宏ー!我輩悔しいのであるーーーっ!!」
ベルガモットの指差す先に清宏を見つけたペインは、感極まって大粒の涙を流し、勢いよく飛び付いた。
「おい、乳が邪魔だから離れろ・・・で、いったい全体この状況はどうなってんだ?」
清宏は押し付けられたペインの胸を面倒臭さそうに押しのけてベルガモットを見て尋ねた。
「その、何と言いますか・・・ペインさんがあの方達を勧誘しようとしたんですが、うまく説明出来なかったらペインさんが揶揄われたり馬鹿にされて今に至ります」
「そう言う時は報せろよな、何のために魔道具持たせたと思ってんだよ・・・」
「あ、それなら師匠達と別れた後に構造が気になってバラしたら戻せなくなりました!」
「馬鹿なの?」
「反省してます!」
清宏は馬鹿正直に答えて土下座したベルガモットにため息をつき、岩の上から笑顔で見下ろしている人魚達を見上げる。
清宏の背後に居たルミネは、ペインにタオルを渡し2人を連れて清宏から離れた。
「あんた等、うちの馬鹿共じゃ話にならんかっただろ?」
「お兄さん目付き悪いね・・・何?そのお姉さん達のお友達?」
「このお兄さん童貞っぽーい!」
人魚達は馬鹿にした様に清宏を見つめ、クスクスと笑い合う。
「童貞ですが何か?それが今関係あるのか?」
清宏が聞き返すと、人魚達は顔を見合わせて大声で笑い出した。
「えーマジ童貞!?」
「童貞が許されるのって10代前半までだよねー!」
「キモーイ!」
「キャハハハハハハ!」
人魚達の発言にルミネ達は氷付き、恐る恐る清宏を見る・・・だが、清宏は特に気にした素振りも見せずに腕を組んで人魚達を見上げていた。
人魚達は清宏の反応が面白くないのか、不機嫌そうにルミネを見てニヤけた笑顔を見せた。
「そっちのお姉さんは何歳かなー?なんか若作りしてそー・・・」
「お姉さんかな?おばさんかなー?」
標的をルミネに変更した人魚達は清宏の反応を見ながら挑発し、徐々にエスカレートして行く。
「なんかさー、あの人って経験無さそうだよねー・・・まさか、あの歳で処女だったりしてー!」
「そうかもよー?」
「黙って聞いていれば・・・!」
我慢の限界を迎えたルミネは、アイテムボックスから錫杖を取り出して人魚達に向ける・・・だが、何故か清宏がそれを掴んで止めた。
「何故止めるのです!貴方も好き勝手言われて悔しくは無いのですか!?
そうですわ・・・今ならリリス様も見ていませんし、この場で焼き殺して・・・」
「バーカ・・・悔しがるも何も、俺が童貞なのは事実だし、お前が処女なのも事実だろ?良いか、ああいう手合いはムキになって相手したら駄目なんだよ・・・逆に調子に乗って喜ぶからな。
どれ、それじゃあ今度は俺が軽ーいジャブで牽制しましょうかね」
清宏は目が座っているルミネを落ち着かせ、人魚達を見てニヤけた笑顔を浮かべた。
人魚達はそれを見て警戒しているのか、若干身体が強張っている。
「お前達の言いたい事はそれだけか?口が悪くて態度のデカい人魚が居るって言うから期待して来てみればこの程度かよ・・・正直残念だわ。
お前等、俺を童貞だとかルミネを処女だとか言って馬鹿にしてたけどよ、俺からすればお前等も相当だぞ?なんたって下半身露出した痴女なんだからなぁ・・・」
「はあ!?痴女じゃねーし!!」
「ちゃんと鱗がありますーっ!!」
先程まで笑っていた人魚達は、清宏の発言に怒りを露わにする・・・だが、清宏は相変わらずニヤけたまま2人を見ていた。
「馬鹿かお前等・・・何が鱗があるだよ?魚の鱗なんてな、人間で言えば体毛みてーなもんだろーが!お前等の場合、下半身が鱗で覆われてるからすね毛と陰毛だ!!
俺達人間は下着や服で隠してるが、お前等はどうだ?布を巻くでもなく下半身は丸出し・・・これを痴女と言わず何と言うんだ!?」
清宏が捲し立てると、人魚達は顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに下半身を隠そうと身を捩った。
それを見て鼻で笑う清宏の背中に、冷ややかな視線が突き刺さる・・・ルミネだ。
「軽いジャブとは?」
「まだまだ軽い軽い!」
笑いながら振り返った清宏に対し、ベルガモットが冷や汗を流して呆れたように見つめている。
「これで軽いとか師匠パネェ・・・」
「俺の罵倒はまだ2段階あるからな?」
「うわぁ・・・」
清宏はそう言うと、再度人魚達を見てニヤけ顔に戻した。
「だいたいお前等はよお、童貞だの処女だのに拘るなんて何がしてーんだよ?そんなに童貞が嫌なら娼館ででも働いてヤリチンに抱かれてくりゃあ良いんじゃねーの?あぁ、お前等じゃヤリチン共も楽しめねーか!だって、突っ込む穴がねーしな!!どうせ口とか手とか胸とか使って、最後はお前等が産んだ卵にぶっ掛けさせて終了だろ?そんなん誰が喜ぶってんだ、山かけイクラ丼でも作る気か!?」
「げ、下品極まりないですわ・・・よくもまあここまで相手を罵倒出来たものですわね」
「更にもう1段階上があるんですよね・・・何だかあの2人が可哀想になってきました」
嬉々として人魚達を罵倒している清宏の背後では、ルミネとベルガモットが憐憫の目で人魚達を見つめていた。
人魚達は既に戦意喪失し、互いに抱き合って震えながら泣きだしてしまった。
それに気付いた清宏は今までの罵倒をピタリと止め、手を叩いた・・・人魚達はビクリと身体を強張らせて動かなくなった。
「さて、もう1段階ギアを上げようと思うんだがどうする?大人しく降参するならここでやめるけど」
尋ねられた人魚達は互いに見つめ合って力強く頷くと、目の前にあった小さな入り江に飛び込んで清宏を見上げた。
「私達の負けです・・・だからもう酷いこと言わないで・・・」
「人間怖い・・・特に貴方は鬼畜・・・」
「・・・本当に反省してんのか?鬼畜とは何だ鬼畜とは。俺はお前等が言った事に普通に返しただけなんだからな?」
清宏が人魚達を睨みつけると、すかさずルミネが錫杖で叩いた。
「いえ、まさに人の皮を被った鬼畜の所業でしたわ・・・いくら何でもあれは酷いです。
それに、貴方の発言は完全に性差別でしたわよ?」
「だって、俺はそのつもりで言ったからな。
そもそも、童貞や処女って言って馬鹿にすんのも立派な性差別だろ?自分が言われて嫌なら他人に軽々しく言うなって話だ。
相手が気にせず折れてくれりゃあ話はそれで終わりだが、もし俺みたいな奴が他に居て、罵倒だけで済まなくなったらどうなる?殴り合いの喧嘩ならまだ良いが、得物持ってやり合えばそりゃあもう殺し合いだ・・・戦だって結局は同じ様なもんだ。
あんな風に言っておいて今更だが、俺は別にこいつ等の事嫌いじゃねーよ?それに、さっき言ったのは本心でもない・・・ただ、あのままこいつ等を放置してたら、その内根に持った奴が何が仕出かさんとも限らんだろ?そうなればこいつ等の仲間も黙っちゃいないだろうし、種族同士の殺し合いになっちまえば俺等の計画も台無しだからな」
「貴方の考えは解りましたわ。ですが、それでも余りにも酷いかと・・・見てごらんなさい、まだ怯えてるではないですか」
ルミネに言われて清宏が人魚達を振り返ると、2人はビクビクと怯えて涙目で見上げていた。
清宏は2人の前にしゃがむと、ゆっくりと手を伸ばして頭を撫でた。
「例え売り言葉に買い言葉とは言え、俺が言い過ぎだった・・・すまなかった。
さっきはお前等なんて誰も喜ばんとか言っちまったが、そんな事は絶対に無いから安心しろ」
「本当・・・?」
「当然だろ?世界は広いし人間なんて腐る程居るんだ・・・逆に居ない方がおかしい」
「・・・信じて良いの?」
涙目の2人に見つめられ、清宏は困ったように頭を掻き苦笑した。
「お前等は俺を目付きが悪いだの鬼畜だの馬鹿にしていたが、それでもそんな俺に惚れてくれる物好きな奴も居るんだわ・・・本当、何が良くてこんなのに惚れてくれたのかは今でも不思議だけどな。
世の中にはな、色んな趣味嗜好を持った奴が居るんだよ、同性を好きになっちまったり異種族が好きになっちまったりな・・・中には、重度のケモナーとかズーフィリアも居るから業が深いと言うか闇が深いと言うか・・・俺には理解出来ん」
「ケモナー?」
「ズーフィリア?」
まだ怯えているのか、2人は揃って首を傾げて清宏を見る。
清宏はそれに苦笑して目を閉じると、頭を掻いてため息をついた。
「ケモナーは獣耳とか尻尾とか、獣要素に性的興奮をする奴の事だ・・・重度の奴は、狼男みたいに完全に獣に近くてもイケる猛者だな。
ズーフィリアはなぁ・・・まあ、あれだ・・・その辺歩いてる犬や猫でもイケる奴の事だな・・・正直俺には理解出来ん」
「確かに業が深い・・・」
「闇も深い・・・」
唸る2人に対し、清宏は呆れて首を振る。
「いや、どっちかって言うとお前等はケモナーが好きそうな見た目だからね?」
「清宏さんの言う通り、獣人が好きな方々が少なからずいらっしゃるのは事実ですし、貴女方も可能性は十分あると思いますわ。
それにしても、あれはズーフィリアと呼ぶんですのね・・・人の嗜好をとやかく言うのは気が引けますが、私も理解に苦しみます」
「だよなー・・・イラガニーとか見た時に、何してんだよって言うか、ヤバい薬キメてんのかって思ったわ」
「イラガニー?何だか嫌な予感が・・・」
「イラガって言う蛾の幼虫を使って自慰行為をするという超高難易度プレイだな・・・イラガの幼虫のトゲが刺さると電気が走った様な痛みがしてヤバいんだけど、それを使うんだから正気の沙汰じゃねーよな」
「いちいち説明しなくても良いですわよ!!嫌ーっ!想像して気分が悪くなりますわっ!!」
「人間って凄い・・・」
「馬鹿にしてた私達の方が馬鹿だったわ」
清宏の言葉を想像したルミネは鳥肌を立てながら岩場にしゃがみ込み、人魚達は自分達の愚かさを思い知って青い顔で頷き合っていた。
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