第161話 実験②

 清宏はしばらく皆と実験を行う順番を話し合い、まずは比較的影響の少なそうな物から、闇・光・水・土・氷・風・雷・火の順番で試し、リリスから闇・光、次にアルコーが水・土・氷、最後のヴァルカンが風・雷・火の順番と決めた。

 リリスは先程召喚を行ったため、負担を減らす事になっている。


 「さて、それじゃあ始めるとしますかね?

 そこで欠伸をしてつまらなそうなペインさん、これを部屋に置いて来なさい!」


 「ぬあっ!我輩であるか!?」


 清宏は、大きな欠伸をしていたペインの口の中に闇の魔召石を放り込み、扉を指差した。

 ペインはヨダレが付いた魔召石を指先で摘み、面倒臭そうに部屋に置いて戻って来た。


 「んじゃあ、リリスからやっちゃって!」


 「へいへい・・・清宏よ、くれぐれも壁の調整は慎重にするんじゃぞ?」


 リリスは清宏に釘を刺しながら魔力を送ると、水晶盤に映し出されている魔召石が鈍い光を放ち、表面に無数のヒビが入る。


 「やっぱり召喚は無理みたいですね・・・」


 「そうねぇ・・・まぁ、予想通りだし良いんじゃなぁい?それより、よく見ておいた方が良いわよぉ?」


 アルコーが水晶盤を指差すと、魔召石のヒビがどんどん増えていき、音を立てて砕けた・・・そして、実験室内が闇に包まれた。


 「何も見えませんね?」


 「まぁ、闇だしねぇ・・・魔道具に利用したら厄介な属性だけど、それ自体は無害だものぉ。

 問題はこれを外で使った場合の範囲だけどぉ、たぶんやらない方が良いかもねぇ」


 「昼間に試して周囲が暗くなったら、大騒ぎになるかもしれないからな・・・」


 アルコーとヴァルカンは、真面目な表情でメモを取っている。

 しばらくすると、徐々に闇が晴れて室内が映し出されたが、魔召石は跡形も無く消えていた。

 次に、清宏は光の魔召石をペインに渡し、部屋に設置させる。


 「では、次じゃな・・・」


 清宏はリリスが魔力を送り始めたのを確認し、自作のサングラスを皆に配った・・・目を焼く程の光が出た場合危険と判断したからだ。

 先程と同じような変化が起こり魔召石が砕けると、水晶盤から眩い光が発せられ、広間全体が光に包まれた。


 「これは、目眩しには丁度良いな・・・あ、そういえばアルトリウスとアンネは大丈夫か?」


 「あの2人なら、ペインが魔召石を持って行ってる間に逃げていたぞ。

 奴等は光に対する耐性を得ているとは言え、流石にあの光は危険だろうからな・・・良い判断だった」


 キョロキョロと周囲を見回す清宏に、ヴァルカンが苦笑しながら伝えると、光が収まったのを確認したアルトリウス達が広間に戻って来た。

 アルトリウス達は、清宏が申し訳なさそうに頭を下げると、笑って頷いた。


 「さてと、次からは何があるか分かりませんから、気を引き締めていきましょう・・・アルコー様、準備は良いですか?」


 「大丈夫よぉ!」


 「じゃあペイン、これも一緒に持って行ってくれ」


 「また我輩であるか・・・これはボールであるか?」


 ペインは水の魔召石とボールを受け取ると、首を傾げて清宏を見た。


 「まぁ、念の為だよ・・・もし水が出て来たらボールが浮くだろ?そしたら、どのくらいの量が出るかも解るかもしれんからな。

 ただ、そもそも部屋が満杯になったら意味ないんだけどな」


 「ふむ、それもそうであるな」


 ペインはさして興味がなさそうに返事をすると、実験室に入って行く・・・そして、扉が無くなった。


 「ちょっ・・・清宏!?我輩を閉じ込めないで欲しいのである!!」


 「冗談だよ」


 焦っているペインを見て、清宏は笑いながら扉を戻す・・・広間に戻って来たペインは半泣き状態だ。


 「清宏よ、貴様はペインに対してなかなかに鬼畜だな・・・」


 「見ていて不憫に思うわねぇ」


 「あいつが慌ててるのって、見てて面白いんですよねぇ」


 「付き合わされる我輩の身にもなって欲しいのである!」


 「サーセンwww」


 「清宏よ、もう良いじゃろ・・・早く進めんか?」


 清宏がペインをおちょくっていると、疲れた表情のリリスが隣にしゃがみ込んで促した。

 魔召石の作製に始まり、召喚や実験までこなしていたリリスは、既にお眠のようだ。


 「お疲れさん、よく頑張ってくれたな・・・後はゆっくり休んでてくれ。

 では、アルコー様お願いします!」


 「はいはぁい!いくわよぉ・・・」


 アルコーが魔力を送ると、一瞬にして魔召石が弾け飛び、ボールが消えた・・・水晶盤には、破れたボールの破片が室内をユラユラと漂っている。


 「えっ・・・もう満杯!?」


 「ちょっと清ちゃん!壁から水が漏れて来てるわよぉ!!」


 清宏が呆気に取られていると、壁の前に居たアルコーが慌てて逃げて来てヴァルカンの影に隠れた。


 「清宏、早く厚みを増せ!このままではヤバいぞ!?」


 「いや、外に出します!」


 清宏はダンジョンマスターで実験室を地下から移動させて通路を造ると、溜まった水を湖に排出した。


 「ヤバかった・・・どんだけ水を溜め込んでんだよアレ」


 「これは、他のも覚悟した方が良さそうねぇ」


 「清宏、異変を感じたらすぐに壁を調整して厚みを増せ・・・それで無理なら、今みたいに外に出さないと城が保たんぞ」


 「ですね・・・じゃあ、次行きますか」


 清宏は緊張の面持ちで次の実験を行う・・・アルコーが土の魔召石に魔力を送ると、砕けた瞬間城内の物という物がことごとく倒れ、飛び散った。


 「何よこれぇ!?」


 「地震です!しかも縦揺れの!!皆んなは無事か!?」


 清宏は急いで仲間達の安否を確認する。

 しばらくは皆混乱していたからか連絡がつかなかったが、開城前の確認作業をしていたローエンと、アリーやヴィッキーと遊んでいたシスが身を呈してちびっ子達を守って怪我をしたという報告以外には、大きな被害は無かった。

 怪我をした2人はすぐにポーションで回復し、既に被害状況の確認に向かっている。

 清宏も実験を中断し、水晶盤で城内をくまなく確認して被害ヶ所の修復などを行う。

 そして、ペインやヴァルカン達も手伝いを買って出てくれた事で、何とか1時間程で修復作業は終了した。


 「一番地味そうだったのに、ある意味一番ヤバいんじゃねーか!?マジで被害が少なくて良かったわ!!」


 一息ついた清宏は、頭を掻き毟りながら土属性の魔召石を睨んでいる。

 戻って来たヴァルカン達も、皆ゲッソリとしているようだ。


 「地震なんて何十年ぶりかしらぁ・・・頑丈な魔王城でこれだとぉ、外で暴走したら目も当てられないわよぉ」


 「あぁ・・・魔王クラスの魔力量が無ければ暴走は無理とは言え、悪用されないように細工をした方が良いだろうな」


 「これは、一般に流すのはしばらく待った方が良さそうじゃな・・・魔道具に使うのであれば特に注意が必要じゃ」


 「それが良さそうだな・・・さてと、正直怖いけど次に行きますか?他の被害も知っておかないといけませんし」


 清宏に話を振られてアルコーは嫌そうな顔をしたが、魔道具を造った責任感からか、渋々頷いた。

 だが、まだまだヤバい状況になるとは、その時は誰も想像してしていなかった・・・。


 


 


 

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