第159話 両親②

 清宏とアルコーはリリスに尋ねられてしばらく考え込み、2人揃って渋い顔をした・・・尊敬していると言っていたり、会いたいと思っている割りには意外な反応を見せている。

 リリスはそんな2人を不思議そうに見ているが、黙って話し始めるのを待っているようだ。

 

 「まぁ、私達の両親を一言で表すならぁ・・・やっぱり変人かしらねぇ」


 「変人じゃと!?お主は両親を尊敬しているのではなかったのか?」


 待ち草臥れていたリリスは、やっと答えたアルコーの言葉を聞いて驚き、再度尋ねた。

 清宏も意外な答えに興味を示し、アルコーを見ている。


 「もちろん親としては優しかったしぃ、物造りに対する熱意や技術は尊敬に値する人達だったわよぉ?でもぉ、父様なんて作品に名前を付けて可愛がっていたのよぉ・・・良い歳した父様がカトリーヌやレベッカなんて呼びながら頬擦りしてる姿はぁ、やたらシュールだったわねぇ」


 「居ますよねたまに・・・まぁ、それだけ自分の造った物を愛してるって証拠だとは思いますけど、側から見たら危ない奴ですよね。

 正直、俺としては分かりたく無いのに分かってしまうのが辛いです・・・」


 「お主だって変な名前を付けとるじゃろ・・・風雲リリス城とかの!」


 「馬鹿野郎!あれはな、風雲たけし城と言う素晴らしい番組をオマージュした名前なんだぞ!?」


 清宏がリリスを捕まえて軽くデコピンを食らわせると、アルコーが首を傾げた。


 「番組ねぇ・・・それも清ちゃんの居た世界のものかしらぁ?」


 「そうです!テレビと言う機械で観る映像作品?みたいなものですよ。

 俺の居た世界は、こっちと違って科学なんかが発達した世界だったので、色々と便利な物が多かったんです・・・まぁ、その代わり向こうには魔法とかは無かったですけどね」


 「ちょっと待て清宏・・・お主、2人に話したのか?」


 「あぁ・・・2人には知っておいて欲しかったんだよ。

 お前に話を通さなかったのは悪いと思うが、この人達なら大丈夫だろ?それに、これからの俺達の計画も邪魔はしないと約束してくれたしな」


 「何と、それは誠か!?本当にありがたい事じゃ・・・アルコーよ、妾からも礼を言わせて欲しい」


 リリスは清宏から話を聞き、慌てて居住まいを正してアルコーに頭を下げた。

 アルコーは笑いながら首を振り、清宏を見る。


 「別に構わないわよぉ・・・貴女達が人族と親交を深めたからって、私達に不利益がある訳じゃないしねぇ。

 まぁ、清ちゃんからの頼みなら聞かない訳にいかなしぃ、それにこんな魔道具まで造れるとなればぁ、断る理由なんて無いものぉ!」


 アルコーは魔道具に頬擦りをしている・・・名前を付けてはいないが、彼女の父親もこんな感じなのだろう。


 「本当に清宏が来てからと言うもの、色々と良いことが続くのう・・・何だか怖いくらいじゃよ。

 だが、これから先は何があるかは分からんゆえ、油断だけはせんように気を付けねばなぁ・・・」


 「だな・・・まぁ、俺もやり過ぎちまう性格だから気を付けんとなぁ」


 リリスと清宏は苦笑し、揃って頷く。

 アルコーは、やはり良いコンビだと言いながら可笑しそうに笑った。


 「しまった!!・・・ん?良かった・・・夢だったか」


 3人がお茶を飲んで一息ついていると、寝ていたはずのヴァルカンが飛び起きた。

 何か嫌な夢でも見たのだろうか、ヴァルカンは脂汗をかいている。

 

 「何よぉ、驚いたじゃなぁい・・・一体どうしたのぉ?」


 「すまん・・・完成したばかりの武具を、誤って破棄してしまう夢を見た。

 ん?リリスも来ていたのか・・・驚かせて悪かったな」


 アルコーに尋ねられたヴァルカンは額の汗を拭うと、リリスが居るのに気付いて頭を下げた。

 

 「構わんよ・・・それにしても、お主もそんな夢を見るんじゃなぁ?」


 「ヴァルカン様もお茶を飲みますか?」


 リリスと清宏は笑いながら席を立ち、ヴァルカンの座るスペースを空ける。

 ヴァルカンはアルコーの隣に座り、用意されたお茶を飲んでため息をついた。


 「そんなに笑うな・・・俺だって夢くらい見る。

 それで、お前達は何の話をしていたんだ?」


 「それぞれの両親についてよぉ・・・今は、私達の父様の事を話したところねぇ。

 ねぇ、母様については貴方の方が詳しいでしょ?どんなだったか教えてあげてよぉ」


 アルコーに話を振られたヴァルカンは、やはり渋い顔をして苦笑している。


 「母は・・・なんと言うか、怖かったな。

 妥協を許さんというか、とにかく物造りに関しては甘えを許さん人だった。

 まぁ普段は優しかったんだが、あまりにもギャップが酷くてな・・・魔王となった今でも、作業中の母はトラウマだ」


 「お2人は、それぞれ別に習っていたんですか?」


 「いや、一緒にではあったんだがな・・・俺達は得意分野が違う事もあり、俺は主に母から習う事が多かった。

 アルコーも鍛治は出来るが、それなりの腕しかない・・・まぁ、母もそれを見てあまり熱心には教えていなかったようだ。

 そして、そのしわ寄せが全て俺に来たのは言うまでもないだろう?」


 アルコーは笑いながら聞いていたが、ヴァルカンに睨まれて大人しくなる・・・彼女も流石に悪いと思ってはいるのだろう。

 ヴァルカンはそんなアルコーを軽く小突くと、清宏を見て意味ありげに笑った。


 「それで、貴様の両親はどんな感じだったんだ?正直、俺はそっちの方がかなり気になっている」


 「私もよぉ!」


 「じゃな!ほれ、早く言わんか!」


 清宏は魔王3人に詰め寄られ、たじろいでいる。

 だが、3人はそんな事などお構いなしに更に距離を詰め、清宏は壁際まで追い詰められて観念した。


 「別に普通で・・・いや、普通じゃねーな。

 俺の親父は良いとこのボンボンで、結構良い学校を出たらしいんですが、とにかくヒョロい感じの気弱な人でしたよ。

 さっき歌ってた曲なんかは、親父の大好きな昭和ロボットアニメの曲なんですが、小さい頃から観せられていたんで自然と憶えたんです・・・」


 清宏は、3人にロボットアニメなどの説明もしつつ、しばらく父親との思い出について楽しそうに語った・・・余程父親の事が好きだったのだろう、終始和やかな雰囲気だった。

 だが、父親の話が終わった途端、清宏は青くなって震えだした。

 3人はそんな清宏の異変に気付いて首を傾げた。


 「どうかしたのかしらぁ?」


 「いや、うちのオカンの事を思い出したら震えが・・・」


 清宏はしばらく虚ろな目で遠くを眺め、深呼吸をしてお茶を飲んだ。

 3人はそんな清宏を息を飲んで見守っている。


 「はぁ・・・あのババアの事は、正直思い出したくねーなぁもう!!」


 「そんなに嫌な母親じゃったのか?」


 リリスが心配そうに尋ねると、清宏は苦笑して首を振った。


 「嫌と言うより、苦手なんだよ・・・口より先と言うか、無言で拳が来るからな。

 俺のオカンは昔はかなりヤンチャでな、学生時代は喧嘩ばっかの生活をしてた不良だったんだよ。

 特に悪さをしてた訳じゃないみたいなんだがな、とにかく筋が通ってなかったり、気に食わない相手には絶対に引き下がらないヤバい女って近所では有名だったらしい・・・。

 やたら腕っ節は強いし、ほとんど喋らないから余計怖くて誰も近寄らないって人だったんだが、何故か親父はそんなオカンに惚れちまって猛アタックしたんだとさ。

 最初は親父を避けていたオカンも、自分を怖がらない親父に徐々に惹かれていって、周りの反対そっちのけで結婚・・・そして俺様爆誕だ」

 

 「なんと言うか、壮絶じゃな・・・。

 だが、一つだけ解ったぞ!お主は母親似じゃな!」


 リリスの感想を聞いた清宏は無言で拳骨を食らわせ、腕を組んで睨んだ・・・完全に母親似だ。


 「馬鹿言うな、俺はオカンに一度だって勝てた試しは無えぞ!あの人に似てるなんて恐れ多いわ!!

 俺が何かやらかす度に、無言で自分ちの田んぼや畑に叩き込むようなババアだぞ!?

 終始無言だから、もう怖えのなんのって・・・」


 清宏はガタガタと震え、拳骨を食らったリリスは涙目で蹲っている。

 そんな2人を見てヴァルカン達は苦笑した。


 「お母様とは殆ど会話しなかったのかしらぁ?」


 「その後、周りはどうなったんだ?」


 ヴァルカン達にそれぞれ尋ねられ、清宏は我に返って苦笑する。


 「あのババアは元々が無口ですからねぇ・・・。

 俺がおはようとか言っても、返事は『ん・・・』しか返して来なかったですし、唯一単語を喋るとしたら『飯・・・』くらいなものでしたよ。

 まぁ、俺が良いことしたら薄っすらと笑って頭を撫でてくれたりはしていたので、嫌いではないんだと思います・・・いや、そう思いたいです。

 周りとはしばらくは疎遠だったらしいですが、親父の実家とも俺が産まれてからは良好な関係になれたって親父が言ってましたよ。

 まぁ、オカンは無口ですけど真っ直ぐな性格ですし、親父との関係を認めさせるために家事なんかをかなり頑張ったのも功を奏したみたいですね」


 「そうか・・・お前の両親は、周りから望まれる形に収まったのだな」


 「本当、良かったわねぇ・・・羨ましいわぁ。

 私達の場合、そんな些細なことすら許されなかったんだものぉ・・・清ちゃんは、その事に感謝しなきゃダメよぉ?

 だからぁ、努力したお母様の事をババアなんて言ったらバチが当たるわよぉ」


 「そうですね、無神経ですみませんでした・・・これからは気を付けます」


 周りから望まれず、両親を殺されたヴァルカン達の言葉に、清宏は俯いて謝罪した。

 自分の無神経な言葉で、2人を傷付けてしまったのではと思ったようだ。

 だが、2人は素直に謝った清宏を見て優しく笑っている。


 「良いか清宏・・・俺は、貴様の良い所は素直に話を聞き、自身の間違いに気付けばすぐに謝れる所だと思う。

 貴様は芯を持った人間だ・・・他者を闇雲に否定せず、ちゃんと理由を聞くが、それが間違いであると思えば正そうと否定する我の強さと真っ直ぐさを持っている・・・しかし、それは他者から見れば疎まれる事もあるだろう・・・誰しも、自らの間違いを否定されるのは面白くはないものだからな。

 だが、貴様はその真っ直ぐさを誇って良い・・・それは、貴様の両親の教えの賜物なのだからな」


 「えぇ、私達は貴方のそういう真っ直ぐな性格が好きよぉ・・・だからぁ、これからも周りを大切になさぁい。

 今はご両親と離れていてもぉ、貴方の中でその教えはちゃあんと生きてるしぃ、それに貴方を成長させてくれるのはぁ、別にご両親だけではないんだからねぇ!それこそ、リリスやペインだって貴方の内面の成長の助けになるかもしれないんだからぁ!

 私達もねぇ、貴方に会えて色々と学ばせて貰ったわぁ・・・だからぁ、私達からも少しでも学んで貰えたら嬉しいのよぉ!

 自分を見失わずに多くの事を学ぶのは難しい事だけどぉ、もしそれが出来たなら素晴らしいと思わなぁい?」


 「はい、ありがとうございます・・・俺も、お2人から技術以上の事を学び、自分の糧に出来るよう頑張ります」


 2人に励まされ、清宏は素直に頭を下げる。

 それを黙って見ていたリリスは、苦笑して肩を竦めた。


 「何だかなぁ・・・お主等、妾以上に清宏と良好な関係を築いとらんか?

 流石に妾もちょっと寂しいのじゃが・・・」


 「あらぁ、私は貴女達の関係が羨ましいわよぉ?魔王と副官とは言え、気の許せる相手が身近に居るのは良いことよぉ!」


 「拳が飛んでこなければ良いんじゃがなぁ・・・まぁ、そこは妾にも非があるゆえ、今後の課題じゃな!さて、そろそろ良い時間じゃしどうするかのう?」


 リリスはアルコーに笑って答えると、朝日の差し込んできたのを見て3人に尋ねた。

 3人は伸びをすると、立ち上がって身体の匂いを嗅いでえる。


 「作業しっぱなしだったから流石に汗臭いな・・・あと酒臭い。

 良かったら、朝風呂入ってから飯にしませんか?」


 「良いわねぇ!なら、4人で一緒に入りましょうよぉ!?」


 「いや、何度も言いますけどダメですからね?」


 「私はもっと皆んなと話したいだけなのよぉ!それでもダメなのぉ!?」


 どさくさ紛れに提案したアルコーは、清宏に拒否されてむくれている。

 だが、リリスはそれを見て清宏の服を引っ張ると、顔を寄せて耳打ちした。


 「清宏よ、今回ばかりは大目に見てやったらどうじゃ・・・互いに世話になっておるんじゃし、妾達が居ればアルコーもハメは外さんじゃろう?」


 「お前がそう言うなら別に良いが・・・アルコー様はそっち方面では、いまいち信用出来ないんだよなぁ」


 「大丈夫よぉ、我慢するわぁ!!」


 聞き耳を立てていたアルコーは、満面の笑みで頷き、手を上げている。

 清宏がため息をついてヴァルカンを見て確認すると、彼は諦めた表情で頷いた・・・アルコーには、何を言っても無駄であると思ったようだ。


 「アルコー様、特別にタオルを巻いて湯船に浸かる事を許可します・・・あと、俺の半径3m以内に近づかない事を約束出来るなら一緒に入っても良いですよ?」


 「別に私は見られても恥ずかしくないわよぉ?まぁ、これ以上駄々をこねて清ちゃんの気が変わったら嫌だしぃ、言う通りにするわぁ・・・」


 「清宏、いざと言う時には俺があの馬鹿を排除しよう・・・」


 「頼みます・・・」


 ウンザリとしている男性陣とは裏腹に、女性陣は嬉しそうに風呂場に向かう。

 その後、朝食の準備が始まるまでの間、4人は互いの両親について続きを語り合った。


 

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