第145話 アリーの特訓②

 3人からの冷ややかな視線に気付いた清宏は、咳払いをして仁王立ちになった。


 「では、改めて説明をする!まずは、お前等はこの位置に並んで座ってくれ」


 清宏は歩きながら3ヶ所指定し、3人はそれぞれ右からアッシュ・アルトリウス・ペインの順に並んだ。

 3人が並び終えると、清宏はアリーを抱いたままアルトリウスの正面5m程の位置に移動する。


 「まず、お前等はさっき渡した石を一つずつ積み上げていくのが役目だ。

 アリーは、あいつ等が積み切る前に、この位置から蔦を鞭のようにして石を崩すんだ・・・OK?」


 「ん!」


 アリーが元気よく返事をすると、清宏は頭を撫でてその場に降ろした。

 

 「なぁ、これって訓練なんだよな?ただの遊びにしか思えねーんだが・・・」


 「あのな、アリーがただの特訓って言って素直にやると思うか?お前等、今考えてる事を2文字で言ってみろ」


 『無・理!』


 「はい、よく出来ましたー・・・」


 「んー!!」


 アリーは自分が馬鹿にされたと気付き、頬を膨らませてプンスカと怒り出し、清宏の足を両手で何度も叩いている。


 「あのなアリー、さっき嫌がって荒ぶったのを忘れたとは言わせないぞ?」


 「・・・ん?」


 「おい、『全く身に覚えがございません』みたいな顔すんのやめろ・・・お前はどこぞの汚職政治家か何かか?」


 清宏はアリーの前にしゃがみ、額を指で突く。


 「お前は、あいつ等が積む石を鞭で倒せば良い。終わったら飴ちゃんを食わせてやる・・・OK?」


 「ん!」


 「よーし、おっちゃんは素直な子は大好きだぞ!

 さてと、お前等は石を積み切って5秒間それを維持出来たら抜けて良い・・・1人抜けるたびに難しくなるから覚悟しとけよ?では、試しに1回やってみるか・・・スタート!」


 清宏の合図と共に、3人は石を積み始める・・・やはり速度には自信があるのか、アッシュは2人よりもペースが早い・・・それを見ていたアリーは目を輝かせ、蔦を振るった。

 

 「ん!」


 「ちょっ!?危ねーって!!」


 「仕方ないだろ?ほれ、さっさと積み上げろ」


 「くそっ!」


 アッシュは悪態をつきつつも、再度石を積み始める。

 次にアルトリウスがあと1個のところでアリーに崩され、悔しそうに床を殴った。

 そしてペインが積み切る直前、事故が起こった。


 「ん!」


 「ぎゃああああああああっ!蔦が目に入ったのである!!?」


 ペインがその場でのたうち回る・・・その振動でアッシュとアルトリウスの石が崩れ、2人もその場で力尽きた。


 「おいおい、お前は痛みは感じねーんだろ?ほれ、ポーション飲んで落ち着けよ」


 「流石に目は防御力うんぬん以前の問題であるぞ!?目が『キュッ!』て言ったのである!!」


 「言いたいことは何となく理解出来るが、その方が緊張感を感じるだろ?これぞ飴と鞭だ!!」


 清宏はアリー用の魔石とアリーの蔦を持ってニヤリと笑った。

 それを見たアッシュが清宏目掛けて石を投げたが、清宏は壁を出してそれを防いだ。


 「笑い事じゃねーよ!どっちも俺達は関係無ぇじゃねーか!!」


 「お前等にとっても、危険察知と回避や防御の訓練になるじゃねーか・・・まぁ、お前等に何も褒美が無いのは確かに不公平かもしれんから、抜けた順番に何か褒美を出してやるよ。それなら別に良いだろ?」


 「ま、まぁそれなら良いけどよ・・・」


 「が・・・頑張るのである」


 「清宏様直々の褒美とあらば、全力を尽くしましょう」


 3人が納得したのを見た清宏は、手を叩き深呼吸をした。


 「では・・・第1回!ドキドキ!?賽の河原ゲームを開催いたします!!」


 「待て待て待て!何だその名前は!?」


 「いや、名前は重要だろ?」


 「違う、そうじゃない・・・俺は、何で賽の河原かって聞いてんだよ!?」


 眉間に手を当てているアッシュを見て、清宏は首を傾げている・・・他の2人も清宏に呆れているようだが、清宏自身は全く気にしていないようだ。


 「アッシュ・・・ここは魔王の城だろ?賽の河原は冥土に旅立つ三途の川の辺りにある・・・つまり、そういう事だ!」


 「どういう事だよ!?説明するの面倒くさがりやがって!そもそも、賽の河原とかって東端の国の迷信だろーが!それに、石を積むのは親より先に死んだ子供って話だろ!?」


 「あらやだ、アッシュ君博識・・・俺だってこっちの世界にもそんな迷信があるって知ったのは昨夜だってのに・・・悔しいわ」


 「あんたが悔しいとか知らねーよ!もっと他にあるだろ!?賽の河原とか縁起でも無ぇ名前以外にもよ!!?」


 アッシュの剣幕に押され、清宏は腕を組んで唸りだし、しばらく思案して顔を上げた。


 「正直、こっちにも賽の河原の話があるって知る前から、この訓練方法は考えてたんだよな・・・それぞれが石を積む事でアリーは攻撃のタイミングを測れる様になり、離れて並んでもらう事で視野を広げて見るのにも役立ち、さらには距離があるから精度も鍛えられる。

 俺はぴったりの名前だと思ってたんだけどなぁ・・・なぁ、他に何か良い名前があるなら教えてくれよ」


 「そこで俺に振るのかよ!?あんたが考えれば良いじゃねーか!!」


 「うん、じゃあ思いつかないから賽の河原ゲームで決まりな!!」


 清宏はケタケタと笑い、満足気に頷く。


 「アッシュ、諦めよ・・・清宏様は、こうと決めたらテコでも動かないお方だ。

 それよりまずは、いかにして最初にクリアするかを考えた方が良い・・・アリーは本気だ!」


 3人はアリーを見て生唾を飲み込む・・・アリーは飴(魔石)に釣られてやる気になり、目を爛々と輝かせている。

 清宏は身構えた3人を見てニヤリと笑うと、右手を上げた。


 「賽の河原ゲームスタート!!」


 清宏が高らかに宣言し、3強対アリーの死闘が始まる・・・。

 騒ぎを聞きつけたリリスが清宏の隣に立ち、呆然とした。

 

 「な、何なんじゃこの戦いは・・・アリーが押しとるではないか・・・」


 「おぉ・・・マジで何なんだこの戦い・・・この速さで頭脳戦とかどうなってんの?」


 アッシュは緩急をつけてわざとタイミングを狂わせ、アルトリウスは随所にフェイントを織り交ぜつつアリーを牽制している・・・ただ、ペインだけは蔦を払いのけながら愚直に石を積み上げては、ちょいちょいアリーの誤爆を受けて振り出しに戻っている。

 そして、それをただ1人で相手取り、残像が見える程の速さで蔦を振るうアリーは楽しそうに笑っていた・・・。


 「なぁ・・・アリーって強くね?」


 「実際に戦えば勝ち目は無いじゃろうが、遊びとなれば当に無双じゃな・・・」


 「俺、まさか獄長さまの様ないくさ人をリアルで見る事になるとは思わなかったわ・・・」


 「何を言っておるかはわからんが、凄そうな名前じゃな・・・」


 泰山流千条鞭の如く蔦を振るうアリーを見て清宏は冷や汗をかきつつ苦笑している・・・まぁ、捕らえるのではなく、石を崩しているねだが。

 その後、結局4人の死闘は夕飯の時間まで続き、満足気なアリーとズタボロの3人は普段の倍以上の量をたいらげた。


 

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