第139話 ペインの頼み
清宏が厨房に篭って2時間後、やっと夕飯の時間となった。
広間のテーブルの上には、ラフタリア達が持ち帰ってきた食材を使った料理が並んでいる。
「見た事の無い料理ばかりじゃな・・・」
「腕によりを掛けたんだぜ!!」
不安そうなリリスを見て、清宏はサムズアップをしてニヤリと笑う。
テーブルに並んでいるのは、白ごはん・豆腐の味噌汁・ほうれん草のお浸し・きんぴらごぼうの4品と、肉無しでは味気ないためハンバーグも用意してある。
「ちょっと清宏!私と母様はハンバーグ食べられないんだけど!?」
「心配するな、お前達のは肉じゃなくて豆腐ハンバーグだからな。
パン粉の代わりに米を使ってて卵も入れてないし、植物油で焼いてあるから大丈夫だろ?
あと、ポン酢を作ってみたからかけて食べてくれ」
「おぉ・・・流石は清宏ね、抜かりないわ」
「ありがとうなのよー」
ラフタリアは今回、米・醤油・味噌だけでなく、酒・酢・豆腐など、東端の国特有の食材や調味料、酒なども持ち帰ってきていた。
猫又であるオスカーが住んでいた国である事と言い、東端の国は日本に似た文化を持っているのかもしれない。
「んじゃまぁ、これが俺が恋い焦がれていた故郷の料理だ・・・こっちの料理に比べて薄味かもしれないが、その分ヘルシーだ。
今日は嬉しさのあまり調子に乗って作りすぎてしまったから、おかわり自由だ!気に入ったらいくらでも食え!!いただきますだこの野郎!!」
テンションの上がり切った清宏の掛け声と共に、皆は恐る恐る手を伸ばした。
「銀シャリ美味え・・・」
「うおっ!清宏よ、泣いておるのか!?」
「米はな、日本そのものって言っても過言じゃねーんだよ!正直、今日はこれが食えただけで満足だわ・・・」
清宏は、先程とは違い嬉しさのあまり涙を流している。
「この豆腐ハンバーグって言うの美味しいわね」
「おかわりなのよー」
「母様、ちゃんと他のも食べなきゃダメよ?」
ラフタリアとマーサは味噌汁などは食べ慣れているのか、美味しそうに食べているようだ。
他の者達も、皆それぞれ感想を言い合いながら楽しそうにしている。
ローエンとグレンに至っては、白いごはんの上にハンバーグを載せて食べている・・・ハンバーグの肉汁とソースが絡んだ白ごはんは絶品なので、仕方のない事だろう。
「清宏よ、食事中であるが我輩の話を聞いて欲しいのである・・・先程は、話せる状況ではなかったのであるからな」
「何だ、また厄介ごとか?」
「ぐぬ!?ま・・・まぁそうであるな」
清宏に聞き返されたペインは、身体を小さくして俯いた。
「ったく仕方ねーなお前は・・・ほれ、言ってみろ」
「怒らないのであるか?」
「そんなん内容次第だろ?それがプラスになるってんなら怒りゃしねーよ」
「そうであるか・・・では言うぞ?」
ペインは深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「およそ7日後に、ヴァルカンとアルコーがこの城を訪ねてくるのである・・・」
「ぶーーーーーっ!?」
「汚ねーぞリリス!何しやがんだ!?」
ヴァルカン達の名を聞いたリリスは、清宏に向かって味噌汁と米粒を吹き出した。
それを見たアルトリウスが、慌てて布巾を持ってくる。
「くそっ!勿体ねー事しやがって!!」
「しゅまんのじゃ清宏・・・は、鼻の奥に米粒が詰まってしまった・・・」
「大丈夫であるか主よ・・・すまなかったのである」
ペインは申し訳なさそうに謝りながら、リリスの背中をさする。
「だ、大丈夫じゃよ・・・それにしても、何故あの2人がここに来るんじゃ・・・」
「その前に、ヴァルカンとアルコーって誰だよ?知らない奴の名前で騒がれても困るんだが?」
「魔王でございます・・・それにしても貴様、2人とも知り合いだったのか?」
汚れてしまった清宏の服を拭いていたアルトリウスが、ため息混じりに答えた。
「奴等はヴェスタルの忘れ形見であるよ・・・常に顔を隠しておるから知る者は少ないが、奴等はエルフとドワーフの混血の魔王である」
「ぶーーーーーっ!!?」
「だから汚いって言ってんだろーが!!」
再度吹き出したリリスの頭頂部に、清宏の拳がめり込んだ・・・リリスはそのまま気絶し、動かなくなってしまった。
「魔王になれるのは魔族だけじゃないのかとか、色々と聞きたい事はあるんだが、何でそいつらがここに来るんだ?」
清宏は腕を組むと、ペインを睨み付けた・・・一応最後まで話を聞くつもりのようだ。
「ヴェスタルの墓に行った時に、偶然会ったのであるよ・・・その時に、貴様の話をしてしまったのである」
「よーし歯を食いしばれ」
清宏は笑顔で拳を振り上げたが、こめかみには血管が浮き出ている・・・。
「ま、待つのである!我輩は確かに口を滑らせたのであるが、奴等と会う事は決して悪い事では無いのである!!」
「聞こう!!」
椅子に座りなおした清宏を見て、ペインは胸を撫で下ろした。
「ヴァルカンは鍛治、アルコーは魔道具製作に長けた魔王なのであるが、奴等は、ラフタリアの弓にかなりの興味を示していたのである。
奴等は今、それぞれの限界に悩まされているのである・・・奴等は友の子であるから、我輩は放っておけなかったのであるよ。
清宏よ、貴様もまだ上を目指したいのであれば、奴等との交流は必ず為になると思うのである・・・経験などで言えば、魔王である奴等は父母であるヴェスタルよりも遥かに上であるからな」
清宏は最後まで聞いたが、腕を組んだまま押し黙ってしまった。
ペインは不安そうに清宏の反応を伺っている。
「清宏様、どうなさいますか?ヴァルカン達は争いを好むとは聞いた事がありませんが、仮にも魔王でございます・・・リリス様やローエン殿達に危険が及ぶ可能性も十分にあり得ると思いますが」
「そこは大丈夫なのである!我輩が念を押しているし、我輩や貴様を倒すような奴に喧嘩を売るつもりは無いと言っていたのである!!」
アルトリウスの言葉に、ペインは慌てて弁明した。
「そんな事まで喋っちまったのか・・・戦力は隠せよ馬鹿。
だが、お前が言ってんのも事実なんだよな・・・正直、俺も壁にぶちあたってんだよ。
魔召石に属性を付与する装置とか、狙った属性の配下を召喚する装置とかな・・・俺なりに理論は組み上がってるし正しいとは思っているが、今の俺の力量じゃ造れないんだよ。
他にも、この前のヴェスタルの剣みたいに、目に見えないもの・・・殺気とか感情を利用するような物も造れないし、出来れば2人から学べればとも思う・・・」
清宏はペインに呆れながら天井を見上げると、うんうんと唸り始めた。
「清宏よ・・・我輩はな、貴様に頼みたい魔道具があるのである・・・だが、それは貴様だけでは無理だと思っている」
「何だよ、言ってみ?」
清宏に尋ねられ、ペインはマーサを見ると、清宏に顔を近づけた。
「マーサの事であるよ・・・彼奴は今、常に夢の中にいると思い込む事で、自らの心を守っているのである。
それでは余りにも不憫であろう?娘であるラフタリアも、この先もずっとマーサにとっては夢の中の住人なのであるよ・・・我輩は、彼奴の里の者達には世話になった・・・出来れば、何かしてやりたいのである」
「あー・・・確かにどうにかしてやりたいってのは俺も思うんだよなぁ・・・あの人のおかげでスッキリしたしさ。
でもな、スキルなんて目に見えない物をどうやって制御するかが問題なんだよな・・・完全に封じるならともかく、限定的に制御するとなるとかなり難しいぞ?俺の不得意分野だしな・・・それに、いくらスキルが制御出来ても、身体があのままってのもなぁ」
ペインの頼みを聞いた清宏は更に唸りだし、椅子の上で胡座をかいた。
「無理であろうか・・・」
「あーもう、仕方無え!ヴァルカンとアルコーに会うか!!そうすりゃあ解決の糸口くらい見つけられんだろ!!」
「かたじけないのである・・・」
「次からはちゃんと相談してから決めろよ!魔王2人が来るとか事後報告されても困んだよこっちは!!」
清宏はペインに軽く拳骨を食らわせると、冷めてしまった味噌汁を飲み込んで風呂場に向かった。
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