第118話 王都

 「近くで見るとさらに大きいわね・・・」


 「うむ、これなら我輩でも楽に通れるのである!

 清宏もそうであるが、人の物造りに対する執念には感服するばかりなのである・・・」


 3人は大門まで辿り着き、通行許可を得る為順番待ちの真っ最中なのだが、リリとペインは大門の大きさに圧倒されている。


 「あんた達、あまりキョロキョロしないでよね・・・田舎者だと思われちゃうわよ?」


 「それは勘弁して欲しいわね」


 「うむ、見下されるようで癪であるからな!」


 「なら、大人しく待ってなさいよ・・・あ、そろそろ私達の順番ね。

 私が話をつけるからあなた達は黙っててね」


 列が進み、門の警備をしている騎士がラフタリアに歩み寄る。


 「ん?お前は確かオーリックの仲間の・・・ラフタリアだったか?珍しいな、お前が別行動をしているなんて」


 「あんたは相変わらず気の抜けた顔してるわね・・・私だって単独で依頼を受ける事があるのよ!取り敢えず、3人分の許可証をくれないかしら?」


 「ふむ・・・護衛か何かか?」


 「まぁそんな感じよ、あとは観光案内みたいなものね・・・ほら、後がつっかえてんだから早くしなさいよ!」


 「分かった分かった!まぁ、お前の連れなら問題無いだろう・・・では、お2人さんも楽しんで行ってくれ!」


 騎士はリリとペインに笑いかけると、ラフタリアに許可証を渡して道を開けた。


 「顔見知り?」


 「まぁそんな感じよ!王都に出入りする時に顔を合わすから、覚えられてるってだけのことよ!

 さてと、まずは冒険者ギルドに行ってオーリック達が無事か確認するわよ!」


 リリの質問に手短に答え、ラフタリアは大通りを歩き出す。

 

 「冒険者ギルドで安否が分かるのであるか?」


 「えぇ、絶対に分かるわよ!

 冒険者は街に滞在している間、毎日必ずギルドに出向しなきゃならない義務があるの。

 この前ローエン達がやらかしたけど、個人契約とかの申告漏れを極力減らす為でもあるわね・・・まぁ大抵の場合は安否確認なんだけどね。

 だから、オーリック達が無事なら今日も必ずギルドに顔を出してるって訳よ!」


 「ローエン達を見てると冒険者って自由なのかと思っていたけど、案外面倒なのね・・・」


 「そりゃそうよ!いざとなったら街を命懸けで守らないといけないし、騎士団だけじゃ手が足りない時にはそれなりの権限も与えられるんだからね!

 最初の冒険者登録の時も、人格に問題がある奴は門前払いよ!」


 ラフタリアは得意げに胸を張っている。


 「まぁ、確かにローエンなんかは荒っぽいけど、何だかんだグレン達の事を考えてるものね・・・荒っぽいのはあんたもだけど」


 「失礼ね!私のどこが荒っぽいっての!?」


 「そうやってすぐにムキになるところかしらね」


 リリにからかわれ、ラフタリアは頬を膨らませてそっぽを向く。

 

 「それにしても、凄い人であるな・・・人がゴミのようである・・・」


 「あんたもナチュラルに失礼な事言ってんじゃないわよ・・・あっ!あそこが冒険者ギルドよ!」


 ペインをジト目で睨んだラフタリアは、通りの先に見える大きな建物を指差した。

 その建物は流石に王都のギルドだけあり、ネルソンが仕切っているギルドの倍以上の大きさがある。


 「それじゃあ私は受付に行ってくるわね!あんた達はどうする?外で待っとくなら勝手に離れないでよね?」


 「中を見てみたいし、一緒に行くわ」


 「我輩も行きたいのである!」


 「了解!なら私から離れないでね、ナンパされたら面倒臭いでしょ?」


 ラフタリアは2人に忠告してギルドに入った。

 ギルド内は大勢の冒険者達で賑わっており、特に依頼の貼られている掲示板の前はごった返している。


 「やっほー、久しぶり!」


 ラフタリアは慣れた動きで人混みを縫って歩き、受付の女性に話しかけた。


 「あら、ラフタリアさんお久しぶりですね」


 「今日はオーリック達は来たかしら?」


 「えぇ、今朝早くに一度来られましたが、今日は依頼を受けてはいませんでした」


 「そう?なら良かったわ、じゃあまたね!」


 「え・・・えぇ、ではお気を付けて・・・」


 ラフタリアはすぐに会話を切り上げてリリ達の元に戻ってきた。

 受付嬢は、まだ呆気にとられているようだ。


 「早かったわね?」


 「まぁね・・・見たら分かると思うけど、こんだけ人が多いとゆっくり話してらんないのよ。

 用件だけ素早く話さないと、後ろの奴から怒鳴られる事があるのよね・・・」


 ラフタリアは苦笑しつつ答え、外に出た。


 「で、これからどうするの?」


 「まぁ、行き先は3ヶ所に絞られるわね・・・私達が拠点にしている宿、リンクスの家、王城よ。

 この時間に宿に籠もってるなんて考えられないから、まずはリンクスの家に向かうわ!私の予想だと、子供達にねだられたルミネが遊び相手になってるはずよ!」


 「ふむ・・・聞きたい事があるのであるが、そのルミネとやらは美人であるか?」


 「かなりの美人だとは思うけど、癖のある性格をしてるわよ・・・例えるなら、女版清宏ね!」


 「おぉ・・・ならば、やめておくのである」


 ペインは肩を竦めてため息をついた・・・恐らく、また嫁にならないかと聞くつもりだったのだろう。

 ラフタリアが先を歩き、3人はリンクスの家を目指す。

 途中、飲食店街に差し掛かったところでペインが迷子になった事を除けば、比較的順調だった。


 「おっ、いたいた!」


 王城のすぐ側にある閑静な住宅街に入り、ラフタリアは軽い足取りで一軒の屋敷に向かって駆け寄り、門の外から声を掛けた。

 

 「おーいルミネー!元気にしてたー!?」


 「えっ・・・ラフタリア!?何故貴女がここに・・・?それにリリさんまで!?」


 ラフタリアの声に気付き、いつも通りの神官服に身を包んだルミネが門に駆け寄る。

 ルミネはリリの姿を見てさらに驚いたようだ。


 「いやぁ、清宏に頼まれて皆んなが無事か確認に来たわけよ!ねぇ、中に入っても良いかしら?」


 「え、えぇ・・・ちょっと待って下さい」


 「ありがと!皆んなは居るかしら?」


 「オーリックとジルは陛下に呼ばれて王城に行っていますが、リンクスとカリスは居ますわ・・・それにしても、何故リリさんまで?」


 「急に来て悪かったわね・・・まぁ、いつも通り人使いの荒い副官様の気まぐれに付き合わされたのよ」


 リリの皮肉めいた愚痴を聞きルミネは苦笑すると、ペインを見て頭を下げた。


 「お初にお目にかかります、私の名はルミネと申します」


 「おぉ!聞いていた通り美しい!我輩は最近魔王リリスに召喚され、ペインの名を賜った!以後よろしく頼むのである!!」


 「馬鹿!あんまり大きな声で魔王とか言うんじゃないわよ!!」


 「おぉ・・・申し訳ないのである」


 「ラフタリアも大概声が大きいわよね・・・」


 3人のやり取りを見ていたルミネは笑いを噛み殺し、屋敷の中に案内する。


 「今、丁度お茶にしようとしていましたの。

 お話はお茶を飲みながらゆっくりと聞かせてください」


 ルミネはにこやかに笑うと、3人を連れてリンクス達の元に向かった。

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