第117話 王都への道

 ペインがコツを掴んだ事で、王都まであと少しの所まで来た。

 出発してからしばらくは速度を落としていたため1時間弱掛かってしまったが、最初から全力であれば30分ちょっとで着けるだろう。

 位置を確認したラフタリアは、立ち上がってペインに指示を出す。


 「ペイン、これ以上近付いてしまうとバレるかもしれないから、あの山の麓に降りて!あそこなら街道からは影になってて見えないはずよ!」


 「了解なのである!気を付けて降りるが、貴様達も落ちないようにしておくのであるぞ!!」


 ペインは2人が頷いたのを見て、山の上空から近くに人が居ないのを確認し、着地態勢に入った。

 木々の間を抜けて着地したのだが、ペインの巨体では若干狭かったらしく、木を何本かなぎ倒してしまった。

 幹の裂ける音が響いてしまったため、ペインはすぐさま人型へと変化したのだが、背中に乗っていたラフタリアとリリは降りるのが間に合わずに尻から地面に落ちてしまった。


 「だ、大丈夫であるか?」


 「あ痛たたた・・・仕方なかったとは言え、もう少し丁寧に降ろしてよね」


 「そんなにダメージ受けてないでしょ?そんなに痛いなら、清宏のくれたポーションを飲んだら?」


 「嫌よ勿体ない・・・」


 ラフタリアは立ち上がって背中に着いた埃を払い落とすと、念の為周囲の音を探って警戒した。

 エルフ族は見た目こそ細身だが魔力量が多く、山や森で生活しているため基本的な身体能力も人族より優れている。

 中でも特に優れているのは聴覚だ・・・エルフ族の長く尖った耳は、人族では聞き取れない小さな物音すら聴き逃さない。

 そのためエルフ族の冒険者は、高い魔力を活かしたソーサラーや、身体能力を活かしたレンジャーの職に就く者が多い。


 「うん、大丈夫そうね!」


 「良いわよねエルフは、私なんて索敵の魔法でも使わないと難しいわよ?

 まぁ、私なんかより高位の魔族とかなら、魔法なんか使わなくても広い範囲の気配を察知する事が出来るみたいだけどね・・・」


 「我輩も出来るのであるが、ここ数百年は気にした事がないのである・・・大抵の者達は我輩には近付かぬし、逃げるので寂しいのである」


 「まぁ、そこは種族によって違うんだから仕方ないんじゃない?隣の芝生は青く見える物よ!!

 さて、それじゃあ行きましょう!ここからなら、歩きで3時間位で王都に着けるわよ!」


 ラフタリアは肩を落としている2人を笑って励まし、軽い足取りで歩き出す。

 2人は顔を見合わせて頷きあうと、急いでラフタリアを追った。

 森を抜けて街道に入ると、やはり王都へ続く道らしく多くの通行人で賑わっていた。

 美女3人ともなればかなり目立っているのだが、道行く人々はラフタリアを見ると頭を下げて道を譲った。


 「ねぇ、何で皆んな貴女に頭を下げるの?

 まぁ、通りやすくて楽なのは助かるんだけどね」


 「あぁ、私は・・・と言うより、私とオーリック達は王都でも指折りの冒険者だからね。

 王都のギルドには他にもS級の冒険者が在籍してるけど、実績は私達がダントツなのよ。

 この国は王様が元冒険者なだけあって他の国に比べて優遇されてるし、冒険者にとっては暮らしやすい国なのよ。

 だから、くれぐれも問題は起こさないでね・・・私と一緒に居るのを見られてるから、すぐに噂は広がるわよ?」


 ラフタリアはリリの質問に答えると、ペインを見て念を押した。

 ペインは不服そうだったが、清宏からも言われていたため大人しく頷いた。


 「さぁ、もうすぐ入り口が見えてくるわよ。

 リリス様のお城も立派だけど、この国の王城も凄いわよ!清宏が見たら悔しがるんじゃないかしら?」


 ラフタリアが腕を広げて2人に笑いかけると、2人は、悔しがる清宏を想像して吹き出した。

 そして、小高い丘を登った所で3人は立ち止まった・・・リリとペインは、目の前に広がる光景に息を飲んだ。

 そこには、遠くからでも高いのが伺える城壁と、竜の姿をしたペインすら余裕で通れる大門、そしてその奥には、新生リリス城もかくやと言う程の白亜の王城がそびえ立っていたのだ。


 「これは凄いのである・・・我輩は今まで人族には興味が無かったため街などは避けていたのだが、これは驚いたのである・・・」


 「えぇ・・・これは清宏が悔しがるわね・・・。

 一体、どれだけの数の人間が住んでいるのかしらね・・・」


 「どう?驚いたでしょ!これでも、他の国と比べたらまだ小さい方なのよ?」


 「ははは!これでも小さいのであるか!!

 我輩は長いこと生きて来たが、まだまだ知らない事が多いようであるな・・・まぁ、今までは興味の無い事は知ろうともしなかったのであるがな。

 魔王リリスに召喚されたのは、我輩にとって良かったのかもしれないのである・・・平和を望むあの者でなければ、このような経験は出来なかったであろう。

 もし魔族や我輩達竜族・・・そして人族が平和に暮らせる世が来るならば、今まで我輩が見ようともしていなかった景色を見て回りたいのであるな」


 ペインは感慨深気に頷くと、大きく深呼吸をして笑った。


 「それも良いんじゃないかしら?平和になったら冒険者なんて暇になるし、なんなら私が今まで行った国や街を案内してあげるわよ!もちろん、リリやアンネ、シス、こっちはルミネやリンクスとその子供達も一緒にね!」


 「私は別にいいわよ・・・面倒臭さいし」


 「リリよ、何を言っているのであるか!貴様は一生あの城に引きこもるつもりであるか?

 たった一度の生涯である、楽しまなければ損であるぞ?」


 「そうよ!貴女ね、ずっと城に引きこもってたら、清宏みたいな陰険なひねくれた奴になっちゃうわよ!?」


 「分かったわよ・・・気が向いたらね」


 リリは2人に気圧されて後退り渋々了承したが、その表情は満更でもなさそうだった。

 3人は改めて頷きあうと、王都に向かって歩き出した。

 


 

 



 

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