第94話王への謁見
オーリック達は、行きつけの店で夕飯を済ませて宿に向かう。
ジルとカリスは、宣言通り浴びるほど酒を飲んでいたため、すでに足取りがおぼつかなくなっており、道行く人々が避けてしまう程に危なっかしい状態だ。
「まったく、貴方達は加減というものを知らないんですの?」
「ルミネ、こいつらには言うだけ無駄だ・・・この際、明日に響いてさえいなければ良いだろう」
「そうだぜ〜明日が大丈夫なら良いんですよ〜だ・・・ルミネはお硬すぎんだよなぁ。
せっかく美人なんだから、もっと優しくなれよ〜」
「お酒臭い身体で近づかないでくださいまし!」
「いってぇ!?」
呆れ果てているルミネとオーリックが先を歩いていると、ヨタヨタと歩いていたジルが後ろからルミネに抱きつき、強烈なビンタを喰らった。
「私がお酒が苦手なのは知っているでしょう!?」
「ちょっ、悪かった!今ので酔いが覚めたから謝るって!!」
ジルは慌ててオーリックを盾にして謝罪する。
オーリックは2人に挟まれて苦笑しながらため息をついた。
「あ〜痛かった、首が飛ぶかと思ったぜ・・・あ、すまん!ちょっと用事思い出したから先に帰っててくれ!」
「何だ急に・・・」
「いや、やり残した仕事があったのをすっかり忘れてたわ・・・」
ジルは2人に申し訳なさそうに謝ると、足早にその場を去っていく。
「明日は間に合うんだろうな!?」
「わからねえ!すまねえが、間に合わなかった時はお前等だけで行ってくれ!!」
ジルは手を振りながら人混みの中に消えていく。
オーリックとルミネは首を傾げ、いつの間にか道の真ん中で転がったまま動かなくなっているカリスを担ぎ、宿に戻った。
「おはよう、昨夜はゆっくり休めたか?」
一夜明け、宿の受付近くで待っていたオーリックが、階段を降りてきたルミネとカリスに笑顔で問いかけた。
ルミネはまだ疲れが取れていないのか、欠伸をしながら頷き、カリスはしっかりと酒が抜けたのか普段通り無言で頷いた。
「・・・ジルはまだ戻っていませんの?」
「あぁ・・・念のため部屋に行ってみたが、まだ戻っていないようだった」
「ジルがどうかしたのか?」
「昨夜、こちらに帰ってくる途中に仕事を思い出したとかでいなくなりましたわ」
「そうか」
カリスの質問にルミネが答えると、カリスはさして興味がなさそうに頷いた。
素っ気ない態度に見えてしまうが、カリスの場合これが平常運転なため、オーリックとルミネは特に気にする事もなく宿を出て近くの店に入ると、手早く朝食を済ませた。
「さて、リンクスを迎えに行こう」
「えぇ、子供達はもう起きているでしょうか?
久しぶりに会ってみたいですわね・・・」
オーリック達はリンクスの家を目指し、歓楽街を抜けて住宅街に向かう。
リンクスの家は、住宅街の中でも比較的裕福な家庭が多い場所にある。
それはS級冒険者であるリンクスの稼ぎが良いのもあるが、何より、彼女の夫も王都で一二を争うほどの不動産屋の次男坊なのだ。
馴れ初めに関してはリンクスが恥ずかしがって話そうとはしないが、護衛の依頼を受けた際、その男性がリンクスに惚れ込んで猛アタックの末、リンクスが折れたと言うのがもっぱらの噂だ。
「あ、見えて来ましたわね・・・リンクスも外で待っているみたいです!」
ルミネは笑顔になり、リンクスに手を振る。
リンクスはそれに気付くと3人に駆け寄って来た。
「おはよう、久しぶりの一家団欒は楽しめたか?」
「・・・あぁ」
「どうかしましたの?子供達はまだ寝ていますか?」
歯切れの悪い返事をしたリンクスにルミネが尋ねると、リンクスは弱々しく笑った。
「昨夜は遅くまで起きていたからな・・・まだぐっすりと寝ているよ・・・」
「そうですか・・・久しぶりに会ってみたかったですわね」
「あぁ、子供達も喜ぶよ・・・だが、また今度にしてやってくれ」
リンクスは疲れの抜けていない表情で無理やり笑顔を見せている。
「リンクス・・・もしかして寝ていないのか?
何か問題があったなら相談に乗るが・・・」
「いや、何でもないよ・・・ただ、久しぶりの我が家が楽しくて寝付けなかっただけさ。
そんな事より、早く陛下に報告に向かおう」
心配したオーリックの提案を断ったリンクスは、頬を両手でピシャリと叩くと、気を取り直して歩き出した。
「なんだか心配ですわね・・・」
「あぁ・・・だが、下手に詮索する訳にはいかないだろう」
「あいつは頑固だからな・・・詮索したら臍を曲げるぞ」
3人は先を歩いているリンクスの後ろ姿を見てため息をつき、急いで後を追う。
4人が住宅街を出て15分程で城に到着すると、すぐに玉座の間へと通された。
人の背丈の3倍程の大きな扉を抜けて中に入ると、左右には40人はいるであろう甲冑を着た騎士が等間隔で並んでおり、その奥には10人の大臣や副大臣の姿が見える。
そしてさらにその奥・・・高台に据えられた玉座にこの国の主がゆったりと座っていた。
王の年齢は80代程だが、元冒険者で英雄と呼ばれているだけあり、目付きは鋭く背筋はしゃんとし、老齢とは思えぬ威圧感を放っている。
「久しいな・・・と、言う程でもないかな?
オーリックよ、よくぞ無事に戻ってきてくれたな・・・」
「陛下におかれましては・・・」
「くくく・・・面をあげよ、其方は相変わらず真面目な男よの、堅苦しい挨拶など不要だ。
早速だが、調査結果の報告をして貰いたい」
畏るオーリックを見て王は笑うと、片膝をついていたオーリック達を立たせて話を進めた。
王は元冒険者であるため、堅苦しい礼儀などには拘らず、民との関わりを大切にする事を第一に考えている・・・それが国民から支持を受けている判明、根っからの貴族階級の者達からは疎まれている。
その証拠に、脇に控えている大臣達の中には、今のやりとりを見て顔をしかめている者も多数いるようだ。
「はっ!では、ご報告申し上げます・・・」
オーリックがそんな大臣達を無視して報告を始めると、玉座の間に緊張が走る。
広い空間に、王が玉座の上で居住まいを正す音と、大臣達の息を飲む音だけが響ていた。
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