第92話風雲リリス城計画

 レイス、グレン、リリ、ビッチーズ以外の面子が揃い、清宏達は昼食を食べ始めた。

 ペインはよほど待ち遠しかったのか、出されたステーキの山を一枚ずつ一口で頬張り、アッシュは以外と行儀良く食している。

 アッシュに対してローエンとウィルが積極的に話しかけているが、当のアッシュは2人に気圧されながらも言葉少なに受け答えをしているようだ。


 「昨日の今日とは言え、まだまだ道のりは長そうじゃな・・・」


 「まぁ、それはしょうがないだろうな・・・だが、ローエン達が意外とすんなりアッシュを受け入れてくれて助かったよ。

 あいつ等は年齢も近いし、何より面倒見も良いから安心して任せられる・・・あいつ等が居なけりゃさらに時間が掛かるだろうな」


 「午前中、彼奴等はどうじゃった?」


 「俺の説明を大人しく聞いてたよ・・・まぁ、呆れ半分だったけどな」


 清宏は昼食を食べつつ、リリスと午前中の出来事などを話し合っている。

 清宏は、リリスの事を基本的にアルトリウスに任せているため、昼食の時間は貴重な情報共有の場でもあるのだ。

 2人が午前中の侵入者達の反応や魔石の収集具合について話をしていると、ペインが遠慮がちに近づいて来た。


 「なぁ、少しだけ頼みがあるのだが・・・」


 「何じゃ、どうかしたのか?」


 「取り敢えず言ってみ?無理かどうかは内容次第だからな」


 リリスと清宏が聞き返すと、ペインは人差し指の先同士を突かせながら上目遣いで2人を見た。

 可愛らしい仕草ではあるが、口の周りはステーキのソースで汚れている・・・それを見かねた清宏が、ナプキンでソースを拭き取った。


 「む、すまないのである・・・まだこういった食事には慣れていないのでな」


 「礼は良いからさっさと話せ、何か頼み事があるんだろ?」


 「このさり気ない優しさ・・・貴様、天然タラシであるな?」


 「テメエ、ブン殴るぞ・・・」


 清宏がバールのようなものを取り出すと、ペインは頭を守るように怯えてしゃがみ込んだ。


 「清宏よ、そう脅しては話も出来んではないか・・・冗談くらい流してやらんか。

 で、妾達に頼み事とはなんじゃ?出来る範囲であれば何でも良いぞ?」


 「おぉ・・・あの男の娘とは思えぬ優しさ!我輩感動したのである!!」


 「さっさと言えってんだ馬鹿野郎!!」


 清宏は躊躇なくペインの頭にゲンコツを喰らわせる・・・ペインの頭には大きなタンコブが出来てしまった。


 「痛いのである・・・その、我輩の頼みなのであるが、元の姿で昼寝をしても良いであるか?」


 ペインが申し訳なさそうに呟くと、清宏とリリスは腕を組んで唸った。


 「昼寝は構わんのじゃがなぁ・・・」


 「あぁ・・・正直、まだ仕事をさせるつもりは無いから昼寝する分には構わないんだが、いかんせんお前の元の姿だとスペースがなぁ」


 「広くは出来ないのであるか?」


 2人の反応を見て、ペインは残念そうに聞き返した・・・2人はそれを聞き、互いを見て肩を竦める。


 「この部屋を広くするのは可能だが、それをすると他を削らなきゃならん・・・正直、最近は侵入者の数も増えてるから、他を削るのは難しい。

 増築すればどうとでもなるんだが、今ある魔石じゃ足りないんだよ・・・すまないが、昼寝をするなら今のままで頼む」


 「お主にとっても元の姿の方が良いのは解るが、しばらくは我慢してくれんかの?」


 2人が頭を下げると、ペインは首を傾げた。


 「魔石があれば良いのであるか?問題解決であるか?」


 「まぁ、そうなるかな?」


 「うむ・・・じゃが、増築するにしてもどの位の広さにするかで必要量が変わるからの、お主が寝られる広さの部屋を増やすなら、今この城にある魔石の半分位で大丈夫だとは思うぞ?」


 リリスの言葉を聞いたペインは目を輝かせ、アイテムボックスを開いた・・・すると、中から大量の魔石が流れ出して来た。


 「おいおい、何だこの量は!?」


 「ふはははは!伊達に長生きしていないのである!!

 我輩、今までに食した魔物から出た魔石は、全て回収していたからまだまだ貯蔵しているのであるぞ!!」


 ペインのアイテムボックスから滝の様に流れ出してくる魔石はその勢いがなかなか収まらず、昼食途中だった他の者達は皆、部屋の隅に避難して食事を再開している・・・普段から鍛えられているせいか、皆この程度では動じなくなっているようだ。


 「この位あれば良いであるか?足りないと申すなら、まだまだ出せるのであるぞ!?」


 「出しに出したなおい・・・」


 「むぐぐ・・・き、清宏・・・助けてくれ!」


 ペインは魔石の山の上で腕を組んでいるが、大量の魔石に飲み込まれた清宏とリリスは、清宏は肩の辺りまで埋まり、リリスは上を向いた顔だけが覗いている状態になっている。


 「なぁ、これってうちにある魔石の何倍くらいある?」


 「か・・・軽く20倍はあるじゃろうな・・・そんな事は良いから早く助けんか!?」


 「すまん、俺も動けん・・・」


 2人が悶えていると、見かねたアルトリウスが2人を助け出す。


 「まったく、貴様は加減という物を知らんのか・・・」


 「むぅ・・・調子に乗ってしまったのである。

 だが、ここでは魔石はあって損はなかろう?

 我輩は肉さえ食えれば特に問題はないからな、他の魔族や人間に奪われるよりは余程良い使い道だと思うのである!」


 「必要ならば私の所持している魔石も使われますか?」


 ペインの言葉にアルトリウスが頷き、2人に問いかける・・・だが、2人は揃って首を振った。


 「それはいざという時のために取っておくがよい・・・血を吸わなくなったお主やアンネには必要になるやもしれんからの」


 「リリスの言う通りだ・・・もし何か問題が起きて城から出られなくなったらどうする?

 俺やローエン達は普通の食事で良いが、お前達はそうはいかないだろ?

 気持ちはありがたいが、お前達にとって必要な物なんだから下手に気を使うな」


 「お心遣い感謝致します!」


 アルトリウスは深々とお辞儀をし、離れて見ていたアンネもそれに倣っている。


 「アルトリウスよ、我輩にも貴様がこの2人に忠誠を誓う理由が少し解ったのであるぞ。

 これは、染まってしまっては抜け出せぬよなぁ・・・」


 「ふっ・・・貴様もその内ここを抜け出す気など起きなくなる」


 アルトリウスは少し恥ずかしそうにしながら鼻で笑い、魔石で転けそうになったリリスを支える。


 「一度は魔石風呂を!と思っておったのだが、実際に体験すると碌な物ではないの・・・」


 「当然だ馬鹿野郎・・・それにしても、この大量の魔石をどうするかな・・・一部屋増やしただけじゃ減らんぞ」


 深呼吸をしたリリスが苦笑して呟くと、清宏は魔石の山を見てため息をついた。

 すると、ペインが挙手をして清宏を見た。


 「この際、魔石は我輩が出すから城自体デカくしてはどうであるか?

 そうすれば、さらに多くの者達を招き入れる事も可能であるし、貴様の造っていた罠や仕掛けも設置出来るであろう?」


 「リリス、城自体を増築するのに必要な日数は解るか?」


 「一から造るのではないからの・・・早ければ2〜3日、掛かっても5日もあれば十分じゃろう。

 ただ、その間は城への出入りは出来んくなるから、みんな揃って引き篭もりじゃな」


 清宏は素早く考えをまとめると、アンネとシスを呼んだ。


 「お前達は、今から街に食料の買い出しに行って来てくれ。

 ビッチーズ達もその間は客が取れなくなるから、いつもより多目に買って来てくれると助かる。

 野菜はこの前会った爺さんが居たらそこで、肉類は店をハシゴして買い占めて来てくれ・・・ペインには少し豪華な飯を食わせてやりたいからな」


 「かしこまりました・・・他にはございませんか?」


 「あとはアンネの判断に任せる、必要だと思う物があったら買って来てくれ。

 さぁ、忙しくなるぞ・・・風雲たけし城みたいな城にしてやる!」


 部屋の扉を裏庭に繋げてアンネとシスを見送ると、清宏は魔石の山を見ながらニヤリと笑った。

 

 


 

 


 


 



 


 

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