異世界

ノータリン

異世界

平凡な社会人

熱海隆太

スペックは26歳社会人彼女無し身長176㎝体重55㎏

毎日同じ時間に起きて同じ時間に出社同じ時間に帰宅して同じ時間に寝る

趣味は無く、休みの日は気分でたまに外出をする程度


そんな熱海の平凡な生活に一筋の亀裂が走る。

きっかけはたまたま見た洋画の影響で非凡な事をしたいと思うようになったことだった

この灰色の人生に他の色が欲しい

特別になりたい

なんとも平凡な理由で非凡になりたがった。

それは唐突にいや、前兆はあったし同じようなことを考えることはあった。

だが、実際に行動する度胸はなかったし、今までは寝てしまえば忘れられるような意識の問題だったはずなのに


殺しをしたい、暴行をしたい、強姦をしたい、監禁をしたい、放火をしたい、盗みをしたい、詐欺をしたい、恐喝をしたい、脅迫をしたい、横領をしたい、名誉を棄損したい、不法侵入をしたい、誹謗中傷をしたい


頭の中に浮かんでは消えるありとあらゆる犯罪に手を染めたくなる

いつもなら抑えられるものが抑えられない

寧ろ、一層、より一層強く具体的な欲求として現れる


熱海は気分転換に家を出る

家を出ると犯罪の機会が目に見えて広まる実感を得ることが出来るそこで熱海は謎の高揚感を覚えていた。


だが、熱海の頭は極めて冷静であった、冷静であると思い込んでいた

殺人はリスク

計画の実行や死体の処理や死体他には道具の処理なども考えると難易度は高く警察に見つかる可能性が高い

もしそうなってしまえば、他のことが出来なくなってしまう

熱海は始めに監禁を行うことにした。


幸い乗用車は独り身にしては大きいもの乗っている

監禁なんてのは攫った人の管理にさえ気を付ければ簡単であろう

人気のない道を選び、そこでターゲットが来るのをひたすらに待つだけだ

そう考えた熱海は早速動く

外からの視界を防ぐために前面にスモークを貼り付ける。

意識停止して状態で運ぶことを想定しスタンガンやナイフを所持

捕らえるために縄とチェーンを所持

後は、場所だ

幸い家の近くに私立の高校があるのでその帰り道の生徒を監禁することにする。

学校自体は駅から20分程度の場所にあるため人通りはあるが

駅と反対側は人通りも決して多くなく、通るとしてもジョギングをしている親父や老人程度

少し道を違えれば迷路とも思えるような量の小道がある場所


窓越しにターゲットを決める。

一人でかつおとなしそうで筋力的に問題がなさそうな女の子それでいて自分のタイプの女の子

まばらだが、生徒はこの道を通っているようだった。幸せそうなカップル、歩道いっぱいに広がりながら大声で笑う男子生徒達、自転車で三人乗りしている生徒

様々な生徒がいたがお目当てとなる様なのは見つからなかったので、これで捕まるのは勿体ない帰って他の犯罪について考えようかと思った時


いた


一人で帰っている、こんな時間に部活帰りだろうか?友達らしき人物はいない、そして周りに人が誰一人いない、完璧だ

鼓動が高鳴る

自分で自分の心臓の音をこんなにも強く聞いてのは生まれて初めてだった。

生きている

今自分は生きているということを否応なしに実感させられる瞬間

会社とは違う

仕事で使うだけの知識は現実で生きていなかった

あそこでの自分は死んでいた。歩いて話して仕事をするだけの死体だった

でも今は違う


鼓動の高鳴りが止まらない、「やれる!今ならやれる!」この思考で頭が満ち満ちていたなら既に私はその子を攫っていただろう

だが、まだ私は車の中でいる

「本当にいいのか?この子でいいのか?失敗しないのか?」

頭の中に不安がよぎる

よぎった不安は暴発して爆発して増殖する。

本当に大丈夫なのか?この路地に人はいないが一つ横の路地もそうとは限らない

もし偶然横の道から人が入ってきたら人生はそこで終わってしまうのではないかと

そんなことを考えているうちに女のことは少しづつ路地を抜ける

半分を超えたあたりで後悔が始まる。

何故!何故動かなかったんだ!今まで誰一人としてこなかったのだから

路地に入ったところから半分までの時間があれば計画は実行できたはずなのに!

次に保身が始まる

半分を超えてしまった。

ほんの十数m歩けば路地から出ることになる

今から仮に行ったとしても、もし、万が一先に気づかれたときに逃げられる可能性が大幅に上がってしまう

よし、そうだ、止めておこう、これ以上の危険は冒せない、これは失敗だ

成功できたはずなのに自らの興奮を抑えられなかったからの失敗だ

自分に言い聞かせるように言葉を発する。

その後も車の中から観察を続けるが、行動に移すことはなかった。


帰宅する

無性に腹が立ってくる。

自分の不甲斐なさに、何故あそこで臆してしまったのか何故なのか

明日も車を留めるとするとその分リスクは上がる

そんなのことも考えられずに臆してしまった自分が嫌になった。

そして

明日こそあの少女を必ず捕らえる

自分への怒りが全てその気持ちへと還元されていくのを感じた。

その少女の事だけを考えながらその日は床に就いた


次の日

必ずやる

それだけを意識して待つ

ただひたすらにあの少女を待つ他のターゲットは目に入らない

そして来た


視界に入った瞬間に胸が高鳴る

まるで中学生の初恋だ

胸の高鳴りが抑えられない

いつの間にか私はターゲットに恋をしていたのだ

ドキドキする

可愛く言えばそんな表現がお似合いだった。

だが恋をするには幾分か良心が足りていなかったのだ。


今日も周りには誰もいない

一人でスマートフォンとにらめっこしている。


ここで行かないと、行かないと、逃げちゃだめだ

ここで逃げると逃げ癖がついてしまう

今までさんざん逃げてきた。

頭ではわかっていても今まで行動に移せなかった

何も出来なかった。成せなかった。

それでこれからも逃げてしまうと自分は人間として終わってしまう

今生きてるんだから今やらないと

ドアを握る手に力が入る

ドアがいつの間にか汗で滑る

深呼吸して少女が路地の半分をもう少しで過ぎる辺りの時

ドアを開ける

クーラーの効いた車から急に外に出たのだ

暑い、汗が噴き出す。だがその汗は暑さだけではないとわかっていた

走った

ゆっくり近づいて行けるほどの心の余裕は既にない


数十メートルから数メートルへ

そして、目と鼻の先にまで少女に近づいた。

依然としてスマートフォンのアプリゲームに夢中な少女はこちらに気づかない

気づいていたとしても意識を向けない

自分が攫われる非日常を想定していない


少女の後ろに着く

少女が違和感を感じる

首筋にナイフと突き立てる

「黙れ、喋れば殺すぞ、こっちに来い」

パニック状態で暴れられるかとも考えたが恐怖で声も出ない様子だった。

代わりに足もほとんど動いていなかったので支えるような形で車へと乗せ様としたとき

近くから声が聞こえる

声からして男が数人、下校中の男子生徒であろう

それに気づいたのか抵抗し声を出そうとする少女

だが、恐怖からか声は掠れ裏返り「かっ...!」鳥の鳴き声にも似た小さな音がでただけだったが

私は恐怖した

もしあの路地に今すぐ男子生徒が出てきてこちらを見てしまったら

そうすれば、私の人生は一巻の終わりである。

急いで少女を車に乗せ

一刻も早く黙らせるために常備していたスタンガンを腹部に当てる。

これが間違いだった

明らかに人間のものとわかる叫び声

それも猛烈な痛みが発生した時に聞くような「ぎがああああ」といった声が響く

急いでドアを閉めきる寸前

人影が現れた

一瞬の出来事で相手からはほとんど何も見えていないだろうが

スモークガラス越しに見ると男子生徒が二人ほどこちらを見ていた。

こちらの姿は見えないとわかっているものの汗が垂れる。

痛みに蹲っている少女に急いで猿ぐつわを付け、縄と鎖で体を締め上げる


そして車をゆっくりと発進させた。

その時すでに男子生徒の姿はなかった。


帰り道熱海は猛省した。


昨日した成功のイメージとは程遠い現実

昨日は犯罪についに手を染めてしまった興奮と成功の喜びの中帰宅するはずだったのに……それなのに今の感情はかけ離れたもので不安と焦燥

「やらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかした」呪文のように独り言を呟く

急速なストレスにより腹部に針が刺さっているような鋭い痛さえ感じる

キリキリと腹部が音を鳴らす

不安と痛みを乗せながら車を走らせながらカバンを一通り漁る

青蘭高校 2年C組 竹中 美咲

生徒手帳にはかわいい写真と共にそう書いてあった


家に着く

いつも通りの寂しいマンションに誰もいない部屋

いつもと少し違うのはペット用のでかいケースが部屋の隅に置いてあることぐらいだった。


女を部屋に連れる。もうこのころはスタンガンで脅す必要すらなくなっていた。

ケースの前まで連れ「入れ」

そこで始めて女は強い抵抗を見せた。

「ンーーーッ!フッーーーン!!」声のあまりの間抜けさに笑いを堪えそうになったが抵抗は出来る精一杯のっものだったのだろうスタンガンのスパークを見せても怯まないどころか一層強く抵抗を始めた。

仕方ないのでスタンガンを腹部と太ももに当てる。体が跳ね上げるように痙攣し、ちょくご溶けるように崩れた。

ほとんど動けないままの女をケースにいれる


食事を済ませ、風呂に入る

いつも通りの日常、いつも通りの時間の使い方

ただ一つだけ違うのは恨めしそうな眼をしてこちらを見ているペットが一匹いることだった。

ペットを飼うと独身は結婚が遠のくというがあれはあながち嘘でもないらしい


ケースの前に着く

「出ろ」と一言告げる

まずはセックスだ

何はともあれまずは折角リスクを冒してまで監禁に成功したのだ

元を取らねば勿体ないだろう


「全裸になれ」流石に抵抗がないとは思っていなかったが、抵抗が激しい加えて服を脱がすという行為自体も人にする機会はあまりないので苦戦していた

フラストレーションが溜まるとよくないと思いスタンガンを出そうとした時だった。

「ピンポーン!」チャイムが鳴る

こんな時間に?万が一のことも考えて通販も避けていたはずなのに何故

女が希望を前にして一層強く抵抗を始める

怪しまれることを避けるために女にスタンガンを当て

走ってドアの前まで行く「はい、どちら様でしょうか?」いつもの極めていつも通りの返事に帰ってきたのは「警察です」の一言

何故?どうして?こんなにも早く?わざわざここを?やはり車か?いや、しかし


思考が定まらない

時間が過ぎる...時間は疑心を生み、不信感を作り出す「どうされました?」

当たり障りのない言葉を返す

「捜査にご協力願います。開けてください」具体的なことは言わない疑われているのか

「何のことでしょうか」するともう一つの足音が近づいてくる

「ありました!車の車種ナンバーともに同じです!」若い声だった。

「...」声が出ない

何をどうすればよいのか分からない

どうやって今から何をすれば逃げられるんだ。頭の中はそのことで蠢いていた

だが、答えは無い

出てこない、何をしても無駄

「今、少し立て込んでおりまして後でもよろしいですか?」声が震え裏返る


ドン!「すいませーん開けてもらえますか!」威嚇の様にドアを叩く警官こちらの言葉には耳を貸しもしない


意を決する

「分かりました!ちょっと服だけ!」といい部屋に戻る

女はまだ蹲っていた。カバン、本棚、重そうなものを片っ端からドアの前に置く

迅速かつ静かに

「ちょっとー」警官の声が大きくなる

「分かりましたー!」其の度に適当に大声で返事をする。

「いい加減にしないとこちらから開けますよ!」

最低限の荷物を整えベランダから飛び出す

裏にはすでに数人の警官

取り乱しながらもスタンガンで威嚇しつつ全力で逃走

無我夢中とはまさにこのこと

全力でまっすぐ逃げる

障害物をすべて飛び越え乗り越え人の家の垣根も超えて全力で走る

自分が今どこにいるのかもほとんどわからない状態のまま走り続ける

後ろからは依然として追いかけてくる警官

すると不幸なことに大通りに出てしまう

右手にパトカーが数台見える

とっさに左手に逃げようとするも回り込んできたのであろう警官と目が合ってしまう

道は前にしかない

だが右から車が猛スピードで走ってきている

この道を横切るのは極めて難しいと思った時

「いたぞ!」後ろから来ていた警官が目と鼻の先にいる


飛んだ

周りのライトのせいかまるで夢を見ているかのようだった

熱海は高速で車の横切る道路を飛ぶように走った軽やかに速く

あと数メートルで向かい側に着く!

いける!いけ!

向かい側の道路で目に付いたのは警官

後ほんの少し警官がつくのが遅ければそのまま行けたかもしれない

後ほんの少し警官がつくのが速ければ諦めてそこで捕まっていたかもしれない

だが道路を渡り切る直前

そこで出てきた警官

一瞬足が竦む

車が高速でくる中をかいくぐってきたのだ

その一瞬は車が私の体を跳ね、骨をひしゃげさせ肉を断ち切るには十分な時間であった。


「ねぇ?聞いた」

「なになに?」

「今日の朝礼で学校からあの路地での登下校禁止って言われたじゃん?アレってあそこの路地で誘拐があったかららしいよ」

「ウッソ!マジで⁉」

「マジマジ!しかも連れ去られたのが同じ高校二年と思うとちょっと怖くない?それでさ...犯人は捕まったら死んだけど...連れ去られた女の子、まだ行方不明らしいよ」

「え?犯人捕まったのに?」

「う~ん学校で聞いた話だからどこまでがほんとか分かんないけどねー」


目が覚めた

記憶ははっきりしている。やったことも逃走経路も今は鮮明に思い出せる

状況的に見て車に轢かれたんだろう

なのにどうしてこんなところにいるのか



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異世界 ノータリン @bjl

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