06.保育園落ちた
保育園利用調整基準表から、申請時の保育状況に関する項目を削除してはどうだろうか。
市長定例会見の場で私がそう発言すると、報道陣から猛烈な反発があった。保育園の利用可能枠は限られている、本当に必要な家庭をないがしろにするのか、と。
保育園利用調整基準表とは、保育園の申込者が保育園の利用をいかに必要としているかを数値化するための指標だ。自己申告で採点、根拠書類とともに保育園の入園申請書に添付される。その採点基準に、申請時の保育状況に関する項目がある。すなわち申請時に子供を保育園に入れている家庭は、当然、翌年も保育園の利用が必要であろうと推測されるというものだ。
噛み砕いて言えば、去年保育園に通わせてもらったのに、今年落とされると困るんですけど、というものだ。一見すると妥当な評価基準とも思える。
しかしこの評価基準こそが親達の不毛な争いを引き起こしたのだ。ということで、去年保育園に通っていたかなんてどうでもいいことですよ、というのが私の発言の趣旨である。だってそうだろう。保育園を必要としている人がみんな保育園を利用できることがゴールなのだから。
市民の声を聞くのが市政でしょう、という声が聞こえた。よし、ようやく言ってくれた。私はその声の方を向き、その通りです、と答えた。
アンケートやインターネットの書き込みから親たちの本音を探ると、多くの家庭は子供が1歳になってから保育園に入れたい、と思っているようでした。しかし申請時に子供を保育園に入れている家庭が優先される。そのため0歳から保育園に預けるようバイアスがかかる。1歳から保育園に入れたければ、0歳からの保活が不可欠だ、とメディアが煽る。こんな図式が出来上がります。
さらに保育園運営のガイドラインというものがあり、保育士1人が担当すべき児童の数は0歳児3人、1ー2歳児6人とされています。つまり0歳児1人で1歳児2人分の保育枠を埋めてしまうと言うことです。3歳児に至っては保育士1人で20人の児童が妥当とされています。0歳児の幼児教育が重要という報告もあるが、それは週5日の完全保育に限ったものではありません。むしろ3歳児の教育を優先した方が効率的なのです。
これはゲーム理論における囚人のジレンマというもので、と私が説明すると、一人の記者が『ゲーム』と『囚人』というワードが不謹慎だと食ってかかってきた。半数の記者たちは彼を哀れむような目でみていたので、この国もまだ捨てたもんじゃないかな、と少しだけ安堵した。
目線を机の上に置かれた手に向ける。息を吸って、吐く。もう一度吸って頭を上げ、報道陣を一瞥する。そして私はもう一度こう言うのだ。
保育園利用調整基準表から、現在の保育状況に関する項目を削除してはどうだろうか。
いるかパン ヱビス琥珀 @mitsukatohe
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