昔ながらの製法

HaやCa

第1話


「しゃかいかけんがく? なにそれ」

「もー、さっきいったじゃん! 学校の外に出てお勉強することだよ」

「そっか。そういえば文乃ちゃん言ってたね」

 文乃ちゃんは怒りをあらわにする。それでも、満更でもないように優しく目を細めている。それは他の生徒たちにもわかったみたい。

「でさ、うちのおばあちゃんが文香にも来てほしいって。わたしたち二人に来てほしいんだーって言ってた」

「どうしてわたしなのかな。文乃ちゃんってお友達いっぱいいるのに」

「んー、なんでだろ。わかんないけど、文香じゃなきゃダメなんじゃない?」

「腑に落ちないけど……。わかったわたしも行く」

「じゃ決まり。10分後に出発だから」

「えっ?! 早くない?!」

 わたしの悲鳴をひらり躱し、文乃ちゃんは教室から出ていく。その足取りたるや軽やかで羽でも生えてるんじゃないかと思ったほどだ。なんとなく想像してみると、いつも以上に楽しそうにしている。

 そんなことを考えているうちに、心臓の早鐘は収まっていた。胸はゆっくりと鼓動を取り戻していく。

机のフックにかけたランドセルが、ちょっとだけ軽く感じた。


  階段を駆け下りて、わたしはグラウンドに出た。

 周りを見渡すと、みんなおしゃべりに忙しそうにしている。

当時、社会科見学のペアを作れ、と教師に言われて途方に暮れていた私。

「なんとなく」という理由で文乃ちゃんは声をかけてくれた。そんな理由でも私は嬉しかった。友達なんていなかったし、関わりを求めていたから。

「なに考えてんのー。はやくしないとバス出ちゃうよー」

「いま行くー。あとちょっと待ってー」

 遠くの文乃ちゃんに、わたしは大きな声で応じる。

今は、小さいことは考えなくていい。楽しいと思うときを思い切り。走るように、跳ねるように踊るように、楽しいことを感じたい。


「今日は【むかしながらの製法】を紹介するよ。文香ちゃんもよく聞いて勉強しておくれ」

 わたしたちは文乃ちゃんのおばあちゃん家を訪れていた。手慣れた様子でおばあさんは説明する。メモを取っているわたしは生真面目で、文乃ちゃんは変わらず楽しそうに笑っていた。

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昔ながらの製法 HaやCa @aiueoaiueo0098

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