りうりう-龍×了-

サーナベル

第1話

僕はどこにも居場所がない。

学校でも不良仲間に付いていけず、かと言ってガリ勉の道を進むには勉強が面白く無さすぎた。

僕は僕の道を歩く。

よし!バカバカしさに吐き気がする。

そもそも、宣言した所で行動に移さないと意味がない。そして、僕には行動力がない。

必然的にゲームに力が入って、お小遣いは別のワールド行き。この世界とは縁が無かったのである。賢い生き方なんかしたら、僕のような性格にはならなかっただろう。

僕の家は貧乏でも裕福でもない。中流階級の一戸建てだ。オヤジもオフクロも頑張ってると思う。だからこそ、全然面白くないのだ。

ゲームみたいな人生を送りたい。妖精から手紙が届いたり、幻の剣を探したり、盗賊に暗殺されそうになったり。まあ、色々あるだろ?なのに、人生は灰色のレールのようだ。他人の敷いたレールを歩かないと見下される運命にある僕はどんな小説の主人公よりも不幸だ。

ずっとそう思ってきた。

僕が主人公クラスに行った時、作者はド変態だった。

結果として僕は普遍的なド変態になる。


家庭教師を提案したのはオフクロだ。

僕の金髪に染めた髪の毛と30点を切ったペーパー--僕のグループではテスト用紙なんて言葉はない--を見て、決意したのだろう。

【働いたら負け】という服を着て、街を歩かれて困るのはオヤジよりオフクロだ。まだ日本ではニートの存在は快く思われていないため、1人息子をニートにすると親の精神が疑われる。特に未だに女性が子育てする偏見のせいで、痛い目に逢うのは女だ。


「女性の家庭教師だから」


オフクロはゲームに夢中の僕に言い訳がましく言った。

僕はゲームのポーズボタンを押してイライラをぶつけた。もう少しで棘に刺さるところだった。セーブポイントが遠かったから危なかった。

「女家庭教師がどうした?エッチさせてくれるのかよ」

オフクロは僕の頭を軽くぶった。

「いつまでひねくれてるのよ?了。このままだと良い大学どころか留年よ。アンタ、なんの取り柄もないんだから、せめて人様並みに生きなさい」

人様並みか…。

何てつまらない響きなんだ。オフクロの言うことが神様からのお告げとしよう。それでも守るのは辛過ぎた。そもそもなんの取り柄もないとか言われるなら、生きていても仕方無い。

僕は大袈裟に溜息を吐いた。オフクロの存在が鬱陶しかった。

オフクロにしても僕は瞼の上のタコだろう。オフクロは突き放すように僕の部屋のドアを叩き付けてキッチンに降りて行った。

家庭教師に何の望みもなかった。

初めてあの人を目にするまでは。


友達はUFOキャッチャーの転売屋をやっている。

坂本義樹は僕の親友だ。嫌味な所があるのが逆に僕の同情心を買う。僕と違って、彼には顔にコンプレックスがあった。

そう言うとまるで僕が美青年に聞こえるだろ?そうなんだよ。僕は簡単に告られる破廉恥な野郎だ。もちろん、女は取っかえ引っ変えだ。真面目な恋なんかしたことなかった。

女なんか利用するための道具。使い捨ての玩具。

反感買わせておいてなんだけど、僕は確かに嫌なヤツなんだ。それは自覚していたし、僕自身嫌いな所だった。それでも斜めに構えてる自分がカッコよかった。矛盾してるかもしれない。それでもそれが僕という男だ。

女が好きで好きで仕方無かった。

だから、敢えて女をバカにした。

そんな僕に義樹は惚れていた。もちろん、男同士でヤル程飢えていないし、僕からしたら義樹はただの同じはぐれ者だった。

後1人メンバーがいる。

苗木氷河というカードヲタクだ。

萌えキャラの特性で相手をダウンさせるのに長けている超が付くキモい野郎だ。何で生きているのか分からない。

僕もか。笑えないな。

僕達3人は来年大学試験なのに、遊び呆けていた。


「僕、女家庭教師とイチャつけるんだとよ」

僕の言葉に義樹と氷河が振り返る。

「また始まりました。神戸了様の女話」

氷河が凍ったキンキン声で不満そうに漏らした。

義樹は僕の頬を強く捻った。怨念が篭っているのを実感する。

2人共僕より身長が高い。僕は男にしてはかなり小柄な方だ。それでも氷河は身長160も無かったし、やはり義樹は不細工だった。

「自慢はその辺にしとけ。色男」

僕は大声で声を立てて笑った。ゲーセンの雑音と混ざって周囲の人を不愉快にさせた。

「良い女だったら、僕、お前らと付き合う時間ねえかも。ま、最も確率なんて無いも等しいよね」

義樹と氷河が同時に頷く。

「ねえな」

「ねえよな」

義樹は僕の肩に手を伸ばして、イヤらしく僕の弱い首筋に這わせた。

「了は俺と一緒にいるべきだ。家庭教師とかロマンの詰まったペテン師だろ?」

氷河が義樹を殴る仕草をする。

「了がお前なんか見ねえよ、ホモ野郎」

義樹も殴る仕草で応じた。

「どっちがキモいか勝負するか?ゴラァ」

僕は余裕の笑みを浮かべて手を振り翳す。

「こちら神戸了。さて始まりました。ゴリラVSキモヲタの勝負!!どちらが勝っても私はドン引きです。負けた方は頭クシャクシャの刑」

いつもの馴れ合いだ。

僕も含めて気持ちの悪い人間の社会への反抗だ。僕達はペーパーの上に踊らせられない代わりに将来が見えていなかった。見向きもせず、ヘラヘラ笑っていた。あの女が僕の人生を狂わせると言えば小説らしくてカッコいいだろ?本当はとっくに人生狂ってたんだ。僕達は敢えて留年という言葉を口にしなかった。腹を括っていた。

絆は悲しい程強く、あの人が断ち切ったのに気付いた時には手遅れだった。

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