ハイスペック園児 まさや君 其の2

あきらさん

第1話

 また今日も、まさや君との戦いが始まろうとしていた。

 そう!もはや私にとってまさや君とのコミュニケーションは、戦いなのである!

 保育士という仕事がここまで過酷だとは思いもしなかったが、まさや君が立派に成長するまでは、やっぱりこの仕事を辞める訳にはいかない!

 私は自分にそう言い聞かせながら、今日もまさや君の質問責めに立ち向かうのであった。


「ねぇ、より子先生。どうしてより子先生は坊主にしないの?」

「今日は遅刻したけど、ちゃんと反省しているからよ」

「ふ〜ん……そうなんだ。ボクにはそうは見えないけどなぁ……」


 まさや君の質問はいつもキツイ……

 質問もそうだけど、答えた後の一言が意外と心に刺さるのだ。

 こう見えて私も、生身の人間だ。

 出勤前にお腹が痛くなる事も、たまにはある……


「ねぇ、より子先生。今月のお給料、生活費以外は何に使ったの?」

「新しいパソコンを買ったわ」

「ふ~ん……そうなんだ。出会い系でもやるのかなぁ……」


 全否定出来ないのが悔しい所だ……

 だが正確に言うと、出会い系はスマホでしかやらない。

 もっと言うと、まさや君が入園して来てから、そっちの世界に手を出してしまったのだ……


「ねぇ、より子先生。先生は何のお花が好き?」

「ヒマワリよ」

「ふ~ん……そうなんだ……………

 実はボクも……………………………

 ……………………ヒマワリなんだ」


 そんな露骨に落ち込まないで欲しい……

 先生と一緒がそんなに嫌だなんて、先生の方が落ち込みたくなるわ……


「ねぇ、より子先生。先生はどんなお花が好き?」


 同じ質問だ!


「せ……先生はチューリップよ」

「ふ~ん……そうなんだ。先生は、嘘つきは泥棒の始まりって言葉知ってるのかなぁ……」


 まさや君の事を想って答えを変えたのに、まさか恩を仇で返されるとは……


「ねぇ、より子先生。明日は何曜日?」

「水曜日よ」

「教えてくれてありがとう」


 そう!

 こうやってチェンジアップのように、たまに普通の質問も挟んでくる配球が、ベテランキャッチャーのようで、より不気味さを増すのだ!


「ねぇ、より子先生。先生は秋場所には復帰出来るの?」

「まさや君。先生はこう見えて関取じゃないのよ」

「フフフッ……より子先生は冗談が上手くなったね」


 だから冗談じゃないって言ってんだけど……

 まさや君は絶対、幼稚園児じゃないだろ!と言いたくなるような質問しかしてこない……


「ねぇ、より子先生。先生が昔、タイガーマスクだった頃の話を聞かせて」

「く……空中殺法の練習が大変だったわ」

「フフフッ……飛べる訳ねーじゃん!」


 まさや君は最近、ムチャぶりという空中殺法を覚えた。

 私に嘘をつかせたい訳ではないだろうが「俺の振りに乗っかって来いよ!」という威圧感が半端ない……


「ねぇ、より子先生。先生はボクとカズ君が溺れてて、1人しか助けられないとしたらどっちを助ける?」

「………………」


 私は質問に答える事が出来なかった……


 答えに悩んで立ちすくんでいると、まさや君のお母さんがお迎えに来た。


「より子先生。その答えはね、嘘でも2人助けるって言うんだよ。先生はまだ新人だからしょうがないけど、もっと心の勉強をした方が良いかも知れないね。じゃ、また明日ね!」


 そう言ってまさや君は、お母さんと手を繋ぎながら帰って行った。


 私は幼稚園児に人としての心構えを教わっている保育士、小松崎 より子24歳…………独身。

 今日も出会い系サイトに手が伸びそうだ……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハイスペック園児 まさや君 其の2 あきらさん @akiraojichan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ