第21話 恐怖の判定会
翌日、役場の会場にて判定会が行われていた。裸ワイシャツかつ黒髪かつ小麦色の肌のイツキの周りには、同じく裸ワイシャツの女性が沢山自らの順番を待っていた。
イツキは受付で適当な情報を伝えていた。もちろんバレたら大変なことになるだろうが、どうせこれが終わればここを出るわけなので別に構わないだろうと言うアオイの言葉に従い、デタラメを書き込んだのである。
(案外簡単に入り込めるものなんだな)
受付の人は怪訝な表情を浮かべていたような気もしないでもなかったが、それでも無事パスできてしまったのだから結果オーライである。
「会場はこちらです」
男性職員に促され部屋に入ると、仏頂面の男達が二人ほど女性の服装のチェックの為に面接官のように席についていた。左に座っているのが禿げ上がった五十近い陰湿そうな男で、右の男は眼鏡をかけ常に不敵な笑みを浮かべている不気味な男であった。
一人一人名前が呼ばれ、女性が判定員の前に立たされる。彼らは基本的に席に座ったまま女性の全身を舐めるように眺めまわしているだけだが、時折席を立ち女性のすぐ近くまでやって来た。そして服の長さをチェックするという名目で女性の身体に直接手で触れたりしていた。
多くの人は彼らに触れられる度に目をギュッとつぶり、こんな気色の悪い男どもに触られていることをぐっと耐えているようであった。
イツキはそんな許しがたい様子をイヤリングに見立てた超小型カメラで撮影を行っていた。ちなみにそのカメラは、異世界連合に加盟しているとある世界から提供されたものとのこと。アオイによれば、その世界の科学技術は相当なレベルにあるのだとか。
(あいつら、好き放題やりやがって……。チェックするっていったってワイシャツ一枚しか着てないのに何をチェックする必要があるっていうんだ?)
イツキの前の小柄な女性が呼ばれる。彼女は明らかにイヤそうな顔で判定員のチェックを受けている。彼女は裾を引っ張り、大事な部分が見えないように努めているようだった。
(ああやって恥ずかしがっているのもあいつらの変態的欲求を煽っているのかもしれないな。本当に最低だ……)
少女のチェックが終わり、ついにイツキの番が回ってくる。イツキが二人の前に立つ。すると……
「おお……」
「これはこれは」
男達は明らかに他の少女を見る時とは違う反応を見せたのだ。しかしそれもそうだろう。イツキの胸はここにいる誰よりも大きく、そしてその顔はこの村の誰よりも可愛らしかった。イツキ自身にあまり自覚はないが、彼女が目立つのはある意味では必然であったといえよう。
「こんな子、この村にいたかね……?」
「はて、私も見覚えがありません」
男達はイツキにギリギリ聞こえないくらいの声でヒソヒソ話をする。イツキは自分が村の人間ではないことがバレていないか内心ヒヤヒヤしていたが、なんとか表情には出さないように努めていた。
イツキのチェックが始まると、男達は前の女性達よりもジッとイツキの身体を見つめた。
(な、なんだ? なんかさっきよりも厭らしいんだけど……もう、勘弁してくれよ……)
ただでさえおっさんに見られて気持ちが悪いというのに、それだけ粘着質な視線で見つめられたら不愉快この上ない。イツキは、前に自分があの農村でやった時のようにつつがなくチェックは行われるものだと思っていたので、完全にこれは予想外の出来事であった。
「もう少しチェックが必要だな」
そう言って男達はイツキに近づく。そして実に自然な流れでイツキの身体にその手で触れた。
「!?」
イツキは危うく声をあげそうになったが、潜入捜査のことを思い、なんとか堪えた。しかし男達は相変わらずイツキのその可憐な身体に汚らしい手あかを付け続けた。
「うーむ、これは難しい」
「そうですな」
他の女性の二倍の時間がかかっても尚、イツキのチェックは終わっていなかった。イツキはいつしかすっかり全身汗だくになっていた。ワイシャツが汗を吸い込み地肌が透けそうになってしまう。
(何が難しいんだよ……も、もう終わってくれよ……)
イツキは泣きそうであった。それでも気丈に振舞っていた彼女に対し、ついにやつらは予想外のとんでもない行動に出た。
「え……?」
ハゲの方が突如としてイツキのワイシャツの裾を掴み、バッと捲りあげたのだ! そのせいでイツキの恥部はものの見事にやつらに丸見えとなってしまった。
「いやあ!?」
これにはイツキも声を上げてしまった。それに対し、男はねっとりとした笑みを浮かべた。突然の暴挙に、会場の女性陣も騒然となった。
男はイツキに対してこう言った。
「君、いったいなんだねその短い服は? 少し捲っただけで局部が見えてしまうような服を着るなんて、おかしいとは思わないか?」
「え? え……?」
イツキは男の言葉の意図が分からず困惑する。
(自分から服を捲っておいてこの人は何を言っているんだ……?)
「まさか、そんな格好で外を出歩いているのかい?」
「……え、ええ、一応は……何か、問題でもあるのですか?」
イツキがそう尋ねると、次に男は怒気を含んだ声でこう言ったのだ。
「問題があるかだって? 君、これはどう考えても問題ではないのかね? こんなに短い服を着たら他の人間に見られることがわかっていながらこんなものを着るなんて、君は法律を守る気がないのかね?」
「え? そ、そんな、私はちゃんと法律を守ってます……」
「はあ? これで法律を守っているだって? おいおい、君は我々を馬鹿にしているのか? 下手に出ていればつけあがりおって……」
「そ、そんな……」
確かに他の女性に比べ身長のあるイツキには、このワイシャツは少し丈が短かったのは事実だ。それでも、イツキは服の丈を他の女性にチェックしてもらっていたし、ここまで突っかかられるほどの違反をしているとは全く思っていなかったのだ。
「おい、君もこれは法律違反だと思うだろう?」
「はい。これは間違いなく法律違反です。こんなに短い服は見たことがない」
眼鏡の男はハゲ男に同意するだけであった。ハゲ男は勝ち誇ったような顔でイツキに対してこう言った。
「やはりな。これは重大な法律違反だ。残念ながら、厳罰に処す必要があるだろう……」
「厳罰!?」
イツキは他の女性の服を見回すが、あまりイツキの服の裾の長さと差があるようには見えなかった。
(なにが残念ながらだ!? これのどこが法律違反なんだよ!? 言いがかりにもほどがある!)
憤慨するイツキをよそに、男達はイツキの服装を法律違反だと決めつけてしまったようだった。イツキは反論の余地すら与えてもらえなかったのだ。
「判定会は一時中断だ。彼女を別室に連れていく」
ハゲ男は有無を言わさない様子でイツキの腕を掴む。そして騒然とする女性達を残し、男はイツキを別室に連行してしまった。
「ちょっと待ってください! 他の人の服も短いのに、どうして私だけがこんなところに連れてこられないといけないんですか!?」
「勝手なことを言うな。法律を守らない自分が悪いとは思わないのか?」
最早男の主張に論理などなかった。男は尚も畳みかける。
「法律違反は重罪だ。今回の件で、君だけでなく、この格好を容認していた家族にまで処罰が下されることだろう。まあ、王家の定める法律を守らなかったのだから当然だがな」
男は嫌味たっぷりにそんなことを言った。
(さっきからこいつが言ってることはめちゃくちゃだ! ロクに検証もしないで、こいつのさじ加減だけで人を犯罪者呼ばわりして、しかもこっちに一切の意見も認めないなんて!)
イツキの怒りは相当なものであったが、この村の異常性を詳らかにする為にも、彼女は歯を食いしばって男の暴言に耐えていた。
男は脅しをかけながらも、次にはわざとらしく笑顔を作って言った。
「しかしだ、私も鬼ではない。君がもし、深く反省していると言うのなら、今回のことは見逃してもいい」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。しかし、反省を示すにはそれなりの誠意を見せてもらわなければならない」
そう言って、イツキの元へとにじり寄る男。そして男は、
「こういう誠意をな!」
あろうことかイツキの黒く日焼けした尻を思い切り掴んだのだ。
「ひっ!?」
イツキの全身に悪寒が走る。男は尚気色の悪い笑みを浮かべて言った。
「おっと、驚くことはない。私は優しいんだ。私が君の身体に直接規則を教え込んであげよう。ちゃんと私の言葉を受け止めることができれば、君を家に帰してあげよう」
そして男は無理やりイツキを引っ張り、今度は更に奥の別の部屋に彼女を連れ込んだ。イツキを乱暴に投げ飛ばすと、男は部屋の鍵をかけた。
倒れたイツキは、ふと今自分が乗っているものがなんであるか気付き、かつてないほどの寒気に襲われた。
「べ、ベッド……?」
彼女が倒れこんだのは大きなベッドであった。ベッドは部屋の中心に置かれており、その周りには拘束具や縄など、明らかに良からぬことに使用するものまでが置かれていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます