アンチビキニガールズがぶちのめす!
遠坂 遥
第1話 主人公はマイクロビキニ少女?
その少女の格好を一言で言えば、「ハレンチ」という表現がピタリとあてはまることだろう。
光り輝く金のロングポニーテール、まるで宝石のように澄み渡っている碧の瞳、大きくて意志が強そうな少しつり気味の目、そして高い鼻と実に整った顔立ちをしている彼女を見れば、男たちは二度見どころか三度見してしまうくらい彼女を美しいと思うことは間違いないだろう。
彼女の魅力は顔だけではない。彼女はプロポーションも凄かった。スタイル抜群の体躯と、そのたわわに実った双丘は、彼女の魅力を圧倒的なものにしていた。
ではなぜ、そんな完璧な容姿をした少女に、「ハレンチ」などという表現がピタリと当てはまるのか? その秘密は彼女の着ている服にあった。
彼女が身に着けているもの、それは可憐なドレスでも、涼し気なワンピースでもなかった。
彼女が身についていたのは、彼女の胸の頭頂部とその周辺の僅かな肌のみを覆い、また下半身は女の子の大事な部分だけを隠しているだけの、「マイクロビキニ」と呼ばれる水着であった。
知らない人の為に解説すると、「マイクロビキニ」は、セクシーの代名詞でもあるビキニよりもはるかに肌の露出が多く、しかしピンポイントで女性の恥部のみを隠すことでその布の下のものに対する想像の余地を残しており、むしろ裸よりもエッチなのではないかと思えてしまいそうなほど扇情的な代物だったりするのである。
だが、彼女をハレンチたらしめているのはそれだけではない。いったい何を思ったらこんな格好になるのかは分からないが、コスプレイヤーが巫女さんのコスプレをする時に着るような巫女装束の腕部分だけがアームカバーのように彼女の細い腕を覆い、更に大腿部に関しても同じような素材のニーハイで覆われていたのだ。マイクロビキニに対し、腕と足が巫女のコスプレをしているような彼女をハレンチと呼ぶことに対し異議がある人はそれほど多くはないのではなかろうか。
「イツキちゃん、今日もエロ可愛いね。その服を気に入ってくれて俺も嬉しいよ」
「別に気に入ってるわけじゃないですよ。店長がこの格好で店に立っててほしいっておっしゃるからこんな格好をしているわけで……」
彼女は露骨にセクハラを働いてくる初老の男性に対しそんなことを言う。彼女の言葉を信じるなら、彼女は自らの意思でこんな格好をしているわけではないとのことだが、それならば、なぜ彼女はそんなけったいな格好をする羽目になってしまったのだろうか?
マイクロビキニ少女は尚も卑猥な言葉を投げかけてくる初老の男性から逃れ建物の外に出る。彼女がふと辺りを見回すと、彼女の視線の先に並んで歩く二人の女性の姿があった。そしてなんと驚くべきことに、その二人はどちらも少女と同じようにマイクロビキニを身に着けていたのである。
近くに海水浴場でもあるかと問われればそんなものは全くなく、彼女のいる場所は方々を畑で囲まれている農村であった。そんなところで、真昼間からマイクロビキニに靴下や靴を履いて出歩いている女性たちの姿は眼の保養にはなるだろうが、普通に考えれば異常であると言わざるを得ない。
と、次の瞬間、今度は彼女の前を二人組の男が通りかかった。男たちは女性とは対照的に、服装はいたって普通で……とはいっても日本人、というか現代人が見たら全然普通ではなく、まるでRPGに出てくるような中世ヨーロッパの市民が着るような服装で辺りを闊歩していたのではあるが。
「見ろよ、あれが噂のイツキちゃんだぜ」
「うわー、おっぱいちょーデカいじゃん!」
男たちは少女の姿を見つけると、各々が下劣な視線を彼女に向け、下品な言葉を投げかけたのだった。
「もう、こんなの耐えられない……」
すると、少女は見る見るうちにプルプル震えだした。よほど男たちの言葉が嫌だったのだろう。だが、本当にそれが嫌ならそもそもそんな格好をしなければいいはずだが……。
「いい加減頭に来た! 女だけがこんな格好しなくちゃいけないなんてやっぱりどう考えたっておかしいよ! もうこれ以上こんなとこにいられるか!」
彼女は遠ざかっていく男たちを睨みながらそう叫んだ。
そしてその日の翌日、なんと彼女は宣言通り、マイクロビキニのあられもない姿のまま本当にこの村を後にしてしまったのだ。
日もまだ登っていない暗い道を彼女は走る。彼女が一歩踏み出すたびに胸が上下左右に揺れるわけだが、彼女はそんなこと気にもせずに走り続け、あっという間にその農村から遠ざかっていった。
いったい彼女はどこに向かうつもりなのか? しかしその前に、彼女がいったい何者なのか、そしてなぜあんな格好を余儀なくされていたのかを説明する必要があるだろう。
遡ること一ヶ月前のこと。彼女、いや、
「あれ、俺、こんなところで寝たっけかな……?」
そこまで口に出して、彼は自分の声に違和感を覚えた。
彼の喉の奥から発せられた音は、とても男性のそれとは思えなかった。彼は急いで自分の喉元に手をやる。すると、あきらかにあるべきものが無いことに彼は気が付いたのだ。
「の、喉仏がない……? ってか、それ以前にもしかして俺は裸なのか?」
気になることは山のようにある。だがそもそももし外を裸でうろつくようなことがあれば、彼の会社員人生は一瞬にして無に帰しかねない。彼は大慌てで自分の身体の状況を確認しようとした。だが、次の瞬間彼は驚愕した。なぜなら、彼の胸には男なら本来あるはずのない二つの大きなふくらみが付いていたからだ。しかもそのサイズは彼の手では収まりきらないほどのものだった。
「な、なんでおっぱいが!? ってか、それだけじゃなくて……!?」
彼はまたしても驚愕した。無いはずのものがあり、そして、彼の最も大切であり、絶対になければならないアレが綺麗さっぱり無くなっていたからだ。
「ない!? 俺のアレがない!?」
彼は動転するあまりその場から立ち上がり、自分の身体を改めて凝視した。すると、彼の身体はどう見ても女の子のものであることが明らかとなった。
……そう、なんと彼はあろうことか、突然女の子になってしまっていたのだった。
「ど、どうしてこんなことに!? 昨日は確か、普通に会社から出て……」
彼は覚えている限りの昨日の自分の足取りを辿ることにした。
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