ビタレスト・チョコレート

はんげつ

 上には曇り空、下にはアスファルト。その間を歩くわたしたちは、黒と白。

 この陰鬱な灰色のサンドイッチは、わたしたちという絵の具が混ざり合ってできたものではないかと、昨夜来の悪天候のせいで、やや気分を持ち上げられないわたしは思った。

 わたしが、学校オリジナルの紺のブレザー――といっても、わたしの目からはほとんど黒に見える――を着用している一方、隣を歩く、幼なじみの鹿目かめアキラは、白のカッターシャツにネクタイという格好だ。

「あんた、ブレザーはどうしたのよ。風邪を引きたいの?」

 と、互いの家の近くで合流した時に訊いてみると、

「ああ、うん、着ようと思ったんだけど、見つからなくて。遅刻しそうだったし、まあいいかな、と」

「もう……ほんっとにズボラなんだから」

 昔からアキラは、どんくさいというか、だらしないというかで、いつもわたしが世話を焼いてやっている。しかし、家の中まではさすがに面倒は見られないので、家庭内では妹のトキがその役目を担っている。兄のアキラが童顔、妹のトキが中性的な顔であるため、見た目はそっくりな兄妹だが、中身は大違いである。

「そういえば、トキちゃんはいなかったの?」

「それが、今朝は部活で早く出たみたいで。お父さんとお母さんも旅行でいないし。今日の朝は一人だって、起きてから気づいた」

 わたしのため息が合図になったかのように、のんきそうなアキラが歩きだし、こうして今、二人で学校へ向かっているというわけだ。

 わたしこと羽左うさユカリと、鹿目アキラは、母親同士が学生時代の親友だった関係で、家が近いこともあり、物心がつく前からの付き合いだ。

 幼稚園に通いはじめた頃にはもう、世話を焼き、焼かれる、という関係ができあがっていたらしい。連れ回し、連れ回される、という関係だという説もあるが、よくわからない。

 ある日、幼稚園へ送り迎えに来たわたしの母親が、何事もすばやい行動を好み、活発だったわたしと、放っておくといつも黙って何かを考えているアキラの二人を見て、こう言った。

「あなたたちは、〈ウサカメコンビ〉ねえ」

 互いの苗字から安直に命名されたわたしは、「それって、わたしがアキラに追い抜かれるということなのでは?」と、心の中で鋭いツッコミを入れた。果たしてアキラにそんな器があるのだろうかと軽く考えながらも、ぼんやりと焦りを覚えたのか、それ以来、彼の世話焼き役でいつづけようと強く意識するようになった。

 とりとめのない話をしながら道を進んでいると、わたしたちが現在所属している県立楓山かえでやま高校の生徒の姿が増えてきた。わたしたちは、学校まで徒歩四十分ほどの住宅街から通っていて、ちょうど最寄り駅からの通学者が合流してくるポイント付近にいるのだろう。

 わたしは、自分の成績のレベルに合った高校を選び、アキラは、自転車を含めた乗り物全般が苦手で、徒歩で通える高校を選んだ。その両者が、たまたま、この県立楓山高校だった、という経緯がある。

 もう十分ほど歩くと、ようやく校門と、その前に毎朝立っている生活指導の鮫島さめじま先生の姿が見えてきた。

 鮫島先生が不思議そうな目でこちらを見てくるのをよそに、わたしは、いつもの光景の連続から、今日という一日の始まりを改めて感じ、希望的な気分が甦ってくる感覚を覚えた。

 今日という一日が、わたしとアキラの関係を一変させるということを知ることもなく。

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