三位一体惑星ゼフィルス

「役割を外れた者は世界を救うしかなくなるという圧倒的な真実に気づく。それが敗けるということだ」壊変探偵はいつものようにこう言った。


 それは戦争に勝てば世界を救う以外の選択肢が得られるということ?


「得られない。絶対的に、撲滅的に、制圧的にそれを得ることなどできない。できるのは勝つことを目的にすることだけだ。何の快楽もなく意味もなく魂を殺し己を殺し運命を殺す。殺し続けるしかない」


 でもそれはいつか終わるんじゃないの?


「生命は終わらない。永遠の生命というものは人間に染み付いている。個体が叫び声を挙げ集団がそれを侵しありとあらゆる夢を血袋に詰め込んで生命の讃歌を響き渡らせる。ナンセンスだろう。無意味だろう。だからなんなのか?リフレインだ」


 善を、正義を、あれほどまでに語っていたのは何だったの?人間を虐殺するんじゃなかったの?


「きみはわかっていないのだ。虐殺は人間の尊厳を何一つとして侵さない。永遠の生命を傷つけない。憎悪はそれが人間であることを紛れもなく証明するが故に壊さない。かつて脳缶工場の肉屋が我々を狂気に陥れただろうか。否でしかない」


 愛は何を変えるの?


「一切を、そして何も。ありふれた日常に戻ることが真理なのかもしれない。ただひたすらに無視されることを堪え忍べばの話だが」


 もっと身近な触れ合いを大切にするというのでは駄目なの?


「お互いに虚栄心が巣食いきっている、と言える。全体的にだが。人間同士の間で許される行為がどれだけ少なくなるかは推して知るべしということだ」


 あなたは壊変の召喚魔導師はそうではないと考えているの?


「違う。アレは世界を救うこと以外の選択肢が初めからないだけだ。だから何かから外れているという感覚自体がなく対話というものが殲滅として擬装されているにすぎない。私は神々を召喚するゲームをカードと接続することで彼女の夢を輪郭に描いているのだ」


 神々での戦争が起こるんじゃないの?


「人間が下等生物と見なされればだ。しかしだからこそ神々は奴隷でしかなく存在の輪郭を保つための命令に従わなければならない。そしてそれが永遠の生命を目指すために利用される時に彼女は顕現し時間に楔を打ち込み草むしりをする慣例になる」


 死を与えるということ?


「いや死を奪うんだ。永遠に。召喚された神々が時間から追放されれば託すべき戦争の勝利も虚しく消え存在する権利を失い生命は下等生物と判断を下される。だが輪廻のシステムはもはや生産物として消費されている以上、淘汰の回帰を絶滅の迂回を通って構築し直す必要がある」


 それが放射能における分別だということね。


「宇宙の爆発を三位一体の計算として探求することから逃れらなくすれば、だけどね。汚染妖精の狂気に従って神話を壊変する召喚を行う。生命の海は水銀の月を媒介に二重化し位相の価値が自然の狂気と相姦的に重ね合わせられる。カードゲームの儀式が必要だ」


 妹の案山子かな。


「人格を供物とするだけでは足りない。夢を絶望に反転するのでも足りない。ただ記憶を元の場所に戻すだけでいい。名前があり得ないことを欠如の再帰として誕生にアナロジーを設定する。そうすれば皮膚感覚を破壊できる」


 ──脱力系細胞爆発をリサイクルに変換して首を根こそぎに。

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