49話 ぺんぎんとぺんぎんとぺんぎん
私、アオイの目の前にいるのは巨大ぺんぎんさん。
渓谷でロウさん達とはぐれ、帰ってくる時に連れてきてしまった。どうしよう……。
「すみませんロウさん。やっぱり、あの巨大ぺんぎんさんの目的は私なんでしょうか」
「アオイがぺんぎんだからか? それは分からんが、しかしデカイな」
サイズでいったら、三メートルくらいの高さがある。
私をここまで抱っこしてきてくれたマキニカさんが、申し訳なさそうに苦笑し言う。
「あたしも撒こうとしたのよ。でも案外しつこいぺんぎんちゃんだったわ。何か、あたし達に用があるのかもね」
「そうだな。現状では攻撃してくる素振りはないが……」
ロウさんがこの事態に困惑している。
うーん、巨大ぺんぎんさんが追いかけてきた理由。なんだろう。
自然界の常識、捕食じゃなきゃいいんだけどね。
「にゃう~、はぅはぅ。ぺんぎんちゃんが、ぺんぎんちゃんがおっきいよ~! きゃ~!」
「……アオイ」
「はい、ロウさん」
興奮し始めたキルティさんを抑える為。ロウさんが私を持ち上げ、キルティさんに持たせる。
ふしゅ~と何かが抜ける声を漏らし、止まるキルティさん。専用鎮静剤アオイは、無事機能しました。
下手に刺激もできないしで、
「ぴぃ~ぎょ?」
でも向こうは何も感じてないみたい。サイズ違いなだけで私と同じ構造なので、首の代わりに体ごと傾げて不思議そうにしている。
何だか、この緊張感が抜けてくような間抜け顔だね。……ブーメランなのは知ってるよ。
考えこんだらしき巨大ぺんぎんさん。ぺこん、と頭のランタンが光った。何か閃いた、とかかな?
ぺっちんぺっちん。ゆっくり近づいてくる。
私達は背後に馬車があるから後退できず、横にずれる。こちらを追うかと思ったけど、そのまま直進し馬車へ向かっていく。ちなみに馬車のすぐ奥は崖。
数歩で馬車に辿りつき、立ち止まる。その黄色いくちばしを開け、息を吸い込み。
「ぴ~ぃ~ぎょ~ぉ~!」
渓谷に響き渡る程の大きな声で鳴いた。
「何だ……!?」
耳をふさぐ訳にもいかず、顔をしかめるロウさん。他の皆さんも同じくだ。
山びこのごとく反射する音。やがてそれも聞こえなくなり、風の音のみが吹き抜ける。
幹や枝も大きく、隙間も広いこの渓谷の木々の合間から、またぺんぎんさんが現れた。……しかも、続々と。
馬車の前で鳴いた巨大ぺんぎんさんよりは小さい。けれど私に比べたら大きいぺんぎんさん達が十匹程。
まるで出席確認のごとく、巨大ぺんぎんさんの側で前ならえ。大きい順で、一列に並ぶ。
何故か、一匹だけやけに小さいぺんぎんさんが最前列で腰に手を当てている。私と同じくらいのサイズだね。
小さい体で短い腕を大きく振り、合図を出し始める。
小ぺんぎんさんの指揮に従い、行動を開始。
まず巨大ぺんぎんさんの上に、次に大きいぺんぎんさんが乗る。またその次に大きいぺんぎんさんが一番上に。そしてまた……。
と、どんどん積み重なっていくぺんぎんタワー。
下から順に、上にいくほど小さいぺんぎんさんが乗っている状態だ。
「んかさ、マトリョーシカみてーだなー」
レモナさんが面白そうに見上げている。そう見えますし、この光景は壮観です。
完成したぺんぎんタワー。一番下の巨大ぺんぎんさんが、おもむろに馬車をカレフリッチごと持ち上げ、上のぺんぎんに手渡す。
そこからはバケツリレーの要領だね。最後、小ぺんぎんさんの一匹下のぺんぎんさんが馬車を受け取り、崖の上に優しくおいた。
「……もしかして、助けてくれてるんでしょうか」
今の一連の動作に、私達の馬車を上にあげてくれた以外の意味が見当たらない。優しいぺんぎんさんなのだろうか。
ぺんぎんさん達がタワーのまま、くるぅり反転する。巨大ぺんぎんさんが手を差し出し、またゆっくりと鳴いた。
多分だけど、来てと言っているみたい。
「あれ。キルティさん?」
「……ぺんぎんちゃんが、呼んでるよ~」
私を抱えたままうっとり顔で、巨大ぺんぎんさんの足元へと歩いて行く。足運びが、危ない人っぽいですキルティさん。
夢遊病者のように進むキルティさんに、皆さんもついていく。
「ぴぃ~」
近づく姿を見て、巨大ぺんぎんさんは嬉しそうに鳴いている。
そして私達も、馬車と同じくリレー方式で崖の上まで運ばれて……まるでぺんぎんエレベーターだね。楽しい。
馬車が滑り落ちた地点から少し離れた場所に、降ろしてもらった。
「すっげーじゃん。サンキューなー」
「ぺんぎんさん、ありがとうございます」
巨大ぺんぎんさんは下にいるから姿は見えない。なので下にも聞こえるように声をかける。
するとさっきまでと同じ、間延びしたような鳴き声が返ってきた。ちゃんと届いたみたいだね。
「ぴきゃっ!」
タワーの一番上の小ぺんぎんさんが、ソプラノで鳴いている。
いきなり渓谷ツアーになってしまったけれど、帰ってくるのも想定外の方法だった。
なんでぺんぎんさんが助けてくれたんだろう……。お腹に入っている魔道具のおかげかな? 持ってると動物に好かれやすい気がするって、マキニカさんが言ってたしね。
珍しく眠たがらなかったラシュエルくんが、進み出ていき小ぺんぎんさんに何かを手渡す。
「ありがと。これ、みんなで……たべて」
渡したのは真っ赤なリンゴ。行きには持ってなかったし、サイズが大きいから渓谷で採ってきたのかな。
食べるのが大好きなラシュエルくんにとっては、最大限の感謝の表し方だ。だって、持ってる二個ともあげてるからね? さすがに、ぺんぎんさん達にとっては少ないだろうけど。
目を輝かせて嬉しそうに受け取る小ぺんぎんさん。
……ラシュエルくん。じゅるりと口を動かし、羨ましそうにリンゴを見てますが、今しがた自分で渡したやつですよね?
「にゃっふぅ~。ラシュくんに沢山のぺんぎんちゃん、かわいいよね!」
「ほふれふね、きるひぃはん」
わきわきと、暴走しそうなキルティさんの片手を自分に向けさせ、もみゅり事件を未然に防ぐ。私という犠牲者はいるけど。
「ぴきょっ……」
位置的に私達が見えているぺんぎんさん二匹から、引いたような鳴き声が聞こえた。
ぺんぎん頬っぺの無限の可能性を知ったことだと思う。伸縮自在、どこまでも伸びます。
最後に、順ぐりに小ぺんぎんさんを撫でてから馬車に乗り込む。シェオさんは一頭のカレフリッチにだね。
「ぴ~っきゃ!」
敬礼する小ぺんぎんさんと。幾重にもかさなって聞こえる、タワーのぺんぎんさん達の声に見送られ出発する。
渓谷のぺんぎん。
最初はびっくりして逃げちゃったけど、良いぺんぎんさんで助かったね。
……ダンジョンじゃなくても、変な場所だったなあ。
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