30話 もみゅっと活躍
「しょれでは、これからどうひまひょうか……」
真っ暗な部屋で、コウモリによる見えない謎の攻撃受けた私達。コウモリは去ったけど、まだこの部屋を抜けれた訳ではないからね。これからの作戦をたてなければ。
あ。別に、突然『さ行』が言えないぺんぎんになったんじゃないよ。
暗闇が怖いのと、恐らくコウモリの攻撃を受けた事によって、幼児退行したキルティさんに頬っぺをむにられてるからだ。
「にゃう~っ。にゃにょいにゃ~ん」
「ひゃい、きるひぃしゃん。アオイでしゅ……ぅぴぇ」
イタタ、ちょっと引っ張り過ぎですよ?
今は私があやす事でキルティさんは落ち着いている。……うん、さっきよりはね。
このキルティさんは、今は私が担当だ。ロウさん達には脱出を最優先して欲しいからね。早期脱出は、結果キルティさんの為にもなるし。私はしっかりキルティさんのケアをします!
キルティさんのケアをしつつ会議を聞く。
作戦会議が始まってまず、レモナさんがコウモリの攻撃を思い出した様子で、顔をしかめて言う。
「んで、あんのコウモリの攻撃は厄介だよなー。なんつーかさ、かき氷食い過ぎたみてーになんねー?」
「ん。あたまに、ちょくせつ……くる、かも」
ラシュエルくんも辛かったらしい。いつもの眠そうな顔とあまり変わらないように見えるが、きゅっと口が少しとんがってる。
リーダーであるロウさんは、何とかこの状況を脱しようとし、少し焦った表情だ。思い付いたらしき言葉を次々に言う。
「初めの方は順調だった。なら一気に殲滅するか? だとしたら高火力のキルティに任せるべきだが……。この状態で魔法を使わせる訳にはいかないな」
「ぼうそう、する……かも」
「ラシュエルもそう思うか。正攻法しかないのかもしれんが、あの攻撃を攻略しなければどうにもならん。ラシュエルの結界で防げないとすると……。恐らく超音波のような物だろうな」
「んあー、超音波ねー。あれだろー? 耳っつーか、頭キーンってすんだもんなー。そー言われっと、超音波っぽいんじゃね?」
ロウさんが超音波と言い、それに対してレモナさんが頭がキーンとしたとも言った。
超音波、か。それならコウモリっぽくもあるし、そうなのかもしれない。
レモナさんの言葉を聞いた一号さんが、何かを閃いたのかポンッと手を打ち話し出す。
「頭キーン言うたら、ぺんはんの魔物も使うとったで」
「ランタンペングイーノ……?」
「せや、ぼんちゃん。ワテもあの森で、ぺんはんと同じ魔物には苦労したさかいなあ。その超音波言うやつちゃうか?」
一号さんから思わぬ情報提供だ。
ラシュエルくんが答えた名前は、魔物としての私の種族名。一号さんの言う頭キーンが超音波によるものだとすると、コウモリ達と同じ攻撃手段を私が持っている事になる。
皆さんが私へと目を向けるけど、私は首を傾げざるをえない。だって超音波攻撃が出来るかもとは今知ったし、さっきのコウモリの攻撃は何も感じなかったからね。
今は首を傾げた状態で、キルティさんに頬っぺを横にみょーんと伸ばされている。話ができないので一旦柔らかくキルティさんを離し、手であやしながら会議に参加する。
「えと、私も超音波使えるんでしょうか……? 皆さんが苦しんでいたさっきは、特に何も聞こえなかったですし、何も感じなかったです」
「ワテもそうやな。森でぺんはんと同じ魔物の、キーンはきたけどなあ。さっきは聞こえへんかったで」
「ふーん。んじゃさ、アオもイチも聞こえねーって事は、人間にしか聞こえねーっつー事かねー?」
レモナさんはそう言いつつも、よく分からん、という顔だ。
そもそもぺんぎんに超音波が使えるにして、どうやって出せばいいんだろう?
「超音波の出し方って分かりますか? 自分で言っておきながら、何だかすごい質問ですけど」
「超音波は分からないがな、魔物にも一応魔力はある。そういった攻撃なら、魔力を使っている可能性が高い。魔物は正の感情が少ない分、魔力量も少ないがな」
ロウさんは、超音波は魔力で出しているだろうとの考え。その魔力も今いち分からないんだけどな……。
「魔力、ですか。どんな感覚なんですか?」
「アタシの感じだとなー。こうさ、ぶわーっつーか、ぬわーってな。血が巡る感じかねー?」
レモナさん。全っ然分かる気がしないです。
いや、ダメだ。分からない何て言っていちゃいけない。とにかくやれる事はやってみないとね!
「ぶわー、ぬわー……ですね? が、頑張ります」
レモナさんが言っていた、血が巡る感覚を思い起こす。例えば、マラソンの後のドクドク言う感じ……。
あれ?なんだろう、意識すると血液とは違う何かが流れるような気がする。この感覚、さっきどこかで?
そうだ。一つ前の部屋。スライムの小部屋に閉じ込められて、スライムの屋根に乗った時だ。乗ったら沈んだんだけど、何だか体の中を何かが巡るように感じたんだった。
それに意識を集中してみる。……分かる。
これが、魔力なのかな。だとするなら、これを体中に巡らしてみて、試しに超音波をロウさん達へ。軽くだけ向けるように意識してみる。
「――ぴ、ぴ」
――――ピエ――――――ン……
自分の頭のランタンを中心に、超音波が文字通り波のように周囲に広がってゆくのが分かった。
周囲とはいっても、私の向いている側に120°くらいかな。少なくとも真後ろまでは影響しないと思う。
「……っ」
軽くのつもりだったけど、気づいたらロウさん達が、若干だけ顔をしかめていた。
すぐに超音波放出を止める。
「わ、私にも攻撃ができました!」
「スッゲーじゃん、アオ! こんなら楽勝で勝てんじゃね?」
「レモナのあの説明で良く出来たな……」
レモナさんがサムズアップをくれる。ロウさんも頷いているけど、気になる事があるようで続けて話し出す。
「だが、コウモリ達の超音波はアオイやイタチ一号には効かなかったからな。逆にアオイの超音波がコウモリに効かないという事がなければいいが」
あ、確かにその可能性もあるね。それについても試してみようと考えた時。
「んにゃ~!! ふぁいにゃ~ぼ~にゅ! ふぁいにゃ~ぼ~にゅ~っ!」
近くにいたキルティさんが突然、辺り構わずファイヤーボールを連発し始めた。
し、しまった……! つい超音波攻撃の事ばかり考えて、キルティさんから目を離してしまった。
ファイヤーボールの一つが、横を飛んでいたコウモリに当たる。当たってやられたコウモリは消える、が……。
――――バサササササッ
「やっぱり来ちゃいましたよねー!?」
当然、前回と同じく大量のコウモリが飛んできた。
「……やろう。アオイ、やってみてくれ」
「は、はいロウさん!」
こんなことなら、最初から魔物に向けて練習すれば良かったよ。
さっきと同じ手順で魔力を巡らし、人ではなくコウモリに効くように、と意識する。
――――ピエ―――――ン……
コウモリ達へと向かって超音波を飛ばす。人にも効果があった時に一番効かせたくないキルティさんより、念の為一歩前に出て範囲外にはしておく。
「お。効ーてる、効ーてんじゃん」
レモナさんがコウモリ達を見て言った通りだ。
その効果は充分にあったらしく、超音波だから倒す事はできないけど、目に見えて動きが悪くなる。
クルクルクルと回り、仲間同士でぶつかるコウモリ達。
まだ私が未熟だからか、そこまでのパニックではないけど、確実に統率は乱せている。
コウモリも超音波攻撃を飛ばそうとするも、方向が定まらないのかな。ロウさん達が一瞬だけ顔をしかめ、すぐに回復する様を見てそう推察する。
こんな右往左往するだけの魔物は、ロウさん達にとって最早ただの的でしかない。
私が超音波を出しながら驚いている間、そんなあっという間にコウモリ達を殲滅させた。
「うっしゃ、やったなー! アオ」
「……ぴぇっ!? あ、ありがとうございます、レモナさん」
攻略法を見つけたら、こんなにあっさりいくなんて。
何より嬉しいのが、その攻略法のキーが私だった事。
今までもできる事をしてきたつもりだったけど、戦闘では完全に蚊帳の外だった。どうしたって、安全なラシュエルくんの側にいるのが最善だったのだ。
それが、私にも攻撃手段が出来た事で、少しでも関わる事が出来る。
あんまり嬉しくて、戦闘後にぼーっとしちゃったね。
「終わったか」
「……ん、ロウ。結界、もうきる」
「んてかさ、何か明るくなってねぇ?」
今回は時間が無かった為、上位結界は張らなかったラシュエルくん。それでも咄嗟に、キルティさんに張ってくれていたみたいで結界を解いている。
そしてレモナさんの言葉に促され、周囲の様子に今さらながらに気づく。
どんどん明るくなっていく。まるで、コウモリを倒したからこそ暗闇が晴れていくような。いや多分、それが正解だったんだ。
先程までの、私のランタンが無ければただの暗闇だった頃とは真逆だ。むしろ真っ白な壁や床が眩しいくらい。……壁?
「あ、壁があったんですね!」
「……壁があったどころではないな、これは」
ロウさんが苦々しそうに言った。
この部屋、
この部屋は、明るくなってから見るとシンプル過ぎる程にシンプルだった。置物や障害物の一つもない。
単なる真っ白な部屋。しかも、部屋の形が綺麗な正円だ……多分だけど。
後ろを振り返ると、斜め後ろに黒いポートが見えた。それなりに近くに。その繋がる先は私達が来た部屋、スライムの小部屋が沢山あった部屋のはず。
つまり私達は暗闇の中をまっすぐ進んでいるつもりで、正円の部屋をただグルグルと回っていただけだった訳だ。方向感覚はコウモリに少しずつズラされていたんだと思う。
それはロウさんも、苦虫を噛み潰したような顔になるよ。
部屋には、コウモリを倒した際にでた魔石が散らばっている。
少し離れた所にいたレモナさんが、間に落ちている魔石をひょいっと飛び越えてこちらにくる。
「よっと。てかキル、へーきかー?」
「……にゃう? にゃうににゃにゃい」
「うーん、まだちょっと大丈夫じゃないみたいですね」
暗いのがダメなキルティさん。明るくなったからもう大丈夫かと思ったけど、結構恐怖の根は深いらしい。元に戻るには時間が必要そうだ。
ふと視線を感じて顔をあげると、ロウさんが私ごしにキルティさんを見ていた。
何かを言いたそうにしているけど、キルティさんがにゃんにゃん言っているのを見てやめたみたい。
その少し開けた口を一度閉じ、今度は私を見て口を開き言う。
「……アオイ。キルティはもう少し見ていてやってくれ」
「分かりました。皆さんは?」
休むとしたら、魔石が少し邪魔かな。そう考えていると、レモナさんが近くの魔石を一つ拾う。
「コウモリけっこー倒したかんなー。ま、散らばっちまってる魔石でも、ちゃっちゃか拾ってっかねー」
「ふわぁ。ん、手伝う」
「あ、ああ。そうだな」
レモナさんが率先して落ちた魔石をどんどん拾っていく。ラシュエルくんは……眠さが限界なのか、あくびを連発している。
そしてロウさんは少しぼーっとしていたみたい? 何やら思い詰めたような、悩んでいるような顔をしていた。……ロウさん?
キルティさんの元を離れられない為、ここからロウさんに声をかけようとする私。でもそれどころじゃない光景が目に入ってしまった。
「~ワテ、%*なんや@&~! そや$Kで/い~?――………キュー」
「い、一号さんっ!?」
そういえばコウモリに向けて、対魔物の超音波を全力で飛ばしたんでした。
キルティさんに対しては超音波の範囲を気にしたけど、一号さん、すっかり忘れてました……。
キルティさんに続き一号さんも。わ、私が介抱しますから一号さんしっかり!
と、隣でゆっくりと拾っているラシュエルくん。落ちている魔石に足を滑らせる。
――――ビッタアァ――ン
顔面からスライディングしていた。
ラシュエルくんが顔を上げると、パラパラパラと顔に付いた魔石が落ちる。
「……」
無言なのに漂う悲壮感。
ふるふるふると、無表情なまま小刻みに震えるラシュエルくん。
ラシュエルくんの額に残っていた一粒の魔石が、私のランタンの光を受けてキラリと光る。
……ぴえぇぇぇっ!
ぺんぎんに三人もみれません――っ!!
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