18話 真剣?チキチキ早口言葉対決

「ほな、ルール説明からやな」


 イタチさん改め、イタチ一号さんが早口言葉対決のルールを説明する。

 とはいっても、一号さんが考えた早口言葉を誰かが三回、ちゃんと言えればいいらしい。


「ふーん。んて、そんなんでいーのかー?」

「案外難しいものだぞ、レモナ。三回だしな」

「……がんばる」


 レモナさんは余裕そうだ。

 ロウさんはわりと経験があるような発言。

 ラシュエルくんは、頑張って顔をきりりとさせている。たれ目でいつも眠そうだから、きりっとしてるようには見えないけど。……あ、今あくびしたよね。

 キルティさんは言わずもがな。そんなラシュエルくんを見て無言で、でれへぇと顔がとろけている。



「お題言うで。『イタチ達イタタといきり立ちタッチの立ち位置』――……どや、覚えたか?」


 ゆっくりと単語単語で区切りながら、お題を伝える一号さん。一回だと覚えられないので、二回言ってくれた。

 うーん、でもこれを三回言うとなると難しそうだ。


「これ、一号ちゃんが考えたのかな~?」

「せやで嬢ちゃん。こんな時もあろうかと、考えといたんや。自信作やさかい、難しいやろ」


 一号さんが、ふふんっと胸を身体ごと反らす。


 来るかどうかすら怪しいこの時の為に、早口言葉を考える一号さん。

 イタチ達……ええっと、何だっけ? この早口言葉、イタチと言わせたいといった内容だ。この世界にも似た動物がいるんだろうか。

 そんなにイタチだと認識して欲しかったんだね。


 キルティさんがやる気満々に前へと進みでる。


「じゃあね、わたしからいっくよ~!」

「よっし、キル。展開とかっつーのはさ、気にしねーで最初っから成功してくれなー?」

「レモナ。さてはお前、全然お題覚えてないだろ……」


 う。はいロウさん、私も覚えてません。


「なら地面に書いてもええでー」


 一号さんの言葉を受けて、ロウさんが書く。多分、一号さんは文字までは書けないんだと思う。

 お題が見える形になったところで、改めて。何故か『宣誓ー!』のポーズで、キルティさんがチャレンジする。


「いたちたちいたたたたとたたたたたちのたたたち!」


 『た』多すぎですよ、キルティさん。

 本人も自覚があるのか一回で止める。キルティさんが手を斜め前に出したまま何故かちら、とレモナさんを見るが、レモナさんは「……これ、無理じゃね?」と一言。

 チャレンジだけでもして頂きたいです。


 とはいえ、これも戦闘に関係ないから私でも貢献できるはず。ここは私が……!

 密かに気合いを入れてから、チャレンジしようと、てちてち前へでる。


「えと、私もやってみます」

「ぺんはんは、アカンで」

「………あ、ぺんはんって私ですか。でも、どうして?」


 え、何これ人間専用なんですか。入れていた気合いが、ふしゅっと抜ける。ぺんぎんことぺんはんも傷つきますよ……?

 しかも、ぺんはんって、さっき自己紹介した意味ないじゃないですか。


「そりゃ、喋り方が人間と違うからに決まっとるやろ」

「……よく考えれば確かに、ぺんぎんに人間と同じ声帯はないはずだな。どうやって喋っているんだ、アオイ」

「ぴえ!? 急に聞かれても、そうですね……。私としては普通に口、くちばしを動かしてるだけなんですが」


 ロウさんの問いかけに考えるが、全く違和感なく喋っているので、どうやっているのかは分からない。


「よう説明はできんけどなあ。こう、頭で考えてるんを音に出してるだけやし、実際口動かさんでも喋れるはずやで」

「おー。それ、完璧な腹話術ができんじゃね?」


 レモナさんに面白そうな視線を向けられる。マジシャンに続き、腹話術。逆に言えば、この世界でやっても『だから?』って言われそうだよね。

 でもできると言われたらやってみたい。頭で早口言葉を思い浮かべ、ただしくちばしは動かさないように……。


「イぅ、にゅ……無理です」


 腹話術はできないみたいだ。何故……。

 でも、これも転生による障害みたいなものかもしれない。この世界の魔物は、元々人の言葉が喋れない。でも私はその『人の喋り方』を知っているから中途半端な為、逆にできないのかも。


 それでも、人と喋り方が違うという意味ではそうなので、早口言葉チャレンジには参加できない。無念です。



「早口言葉なー。アタシはちょっと苦手っつーかさ。ま、最後にやってみっかな。んで、ラシュは……あー、ムズいかもしんねーな」

「む、できる。イタチ、たち……イタタと、いきり……」


 レモナさんはパス。ラシュエルくんが、ゆっくりと真剣な顔でやるけど。

 それは早口言葉じゃない、かな。一号さんも、ラシュエルくんがあまりに真剣なのでツッコんでいいのか、とこちらを伺い微妙にそわそわしている。さすがにこんなラシュエルくんをダメと言える程、無神経ではないらしい。


 頑張るラシュエルくんの頭に、ロウさんがぽんっと優しく手を乗せ、止める。

 そしてそのまま、お題である『イタチ』の早口言葉をすらすらと三回、つっかえずに一息に言い切る。


 いきなりの事だったので全員、ロウさんが成功したことに反応するよりも驚きが勝っている。

 そんな皆の反応を見て、ロウさんは若干照れているような、いつもの苦笑のような表情だ。


「すまん、最初からすぐやっていれば良かったな。こういうのは得意なんだ」

「なにゃにゃ! ロウ、スゴイね~!」

「な、なんやて。こないアッサリ、クリアされるなんて思わへんかったで……」


 スゴいと言ったキルティさんが、パチパチと拍手をする。私も一緒にペチペチと拍手をする。

 レモナさんは無言だが、ニカっと良い笑顔でロウさんに向かってサムズアップしていた。そんなに、やりたくなかったんですね。


 ロウさん曰く、元々得意でアナウンサーに憧れて、さらに練習した事があったとか。でもあまりに狭き門だったのもあり、結局本気で目指すまではしなかったみたい。まあ高校生の頃だったらしいし、若気の至りってものなのかもな、とロウさんは言っていた。


 そして一号さんは、私にはできないorzのポーズで悔しがっていた。これを出来ることを羨む日が来るとは、前世では想像つかなかったよ……。


 絶対でけへんと思うたのに、とか。何回でもええでって言うて引っ張るつもりやったのに、とかが聞こえてくる。


 一号さん、実はただの寂しがりなんじゃ……?



 それを見て、何だか可哀想になったのか、単に気になったのかレモナさんが話題を振る。


「つか、イチって元ペットっつってたじゃん? よく野生の魔物がいる森で生き残ったよなー」

「ほとんど攻撃力はないさかい、苦労したで。攻撃できひん分逃げるのは上手くなったんや。とっておきの技も習得したんやで」


 いいつつ、その『技』を披露してくれる一号さん、

 その、少し太く少し長い尻尾を、ぶるんぶるんと勢いよく回し始める。かなり高速回転し、目に残像ができるようになり。そして……。


 宙に浮いていた。


 回転する尻尾が、飛行機のプロペラのように上にきて、身体は、ぷらんとぶら下がっている。

 スゴい。確かに、イタチと言う飛べない種が飛んでいるのは、純粋にスゴいと思う。が。言っては何だけど、あまりカッコ良くはない。

 何だろう……身体のぶら下がり方が、これから裁断される肉みたいだ。


「どや、びっくらこいたやろ!? 取っておきやで!」


 声からしてドヤ顔しているんだと思うけど、反対を向いてしまっていて顔が見えない。尻尾が回っている影響なのか、ゆーっくりと身体も回ってしまうようだ。


 他の方の反応は、と皆さんを見る。


 ロウさんは一号さんの飛び方を驚いた顔で観察している。

 レモナさんは私と同じように想像したのか、微妙そうに見ながらも『なんかウマそーだなー』と顔に書いてある。

 ラシュエルくんは言わずもがな。顔に書いてあるどころか、じゅる……と音が聞こえてきた。どう見えたとしても、一号さんは食べちゃダメですよ?

 キルティさんはその大きな目をキラキラさせながら、負けじと尻尾を振り回していた。流石にキルティさんは飛べないと思いますが……。



 やがて徐々に回転が止まり、一号さんが地面に降りる。疲れたのか、ぜふーっと息を吐く。

 全員で拍手をする中、一号さんは得意げだ。ロウさんが代表して一号さんを褒める。


「すごいな。空中を逃げれるならば、生き残れるのも頷ける。すぐに出来る技では無さそうだ。かなり苦労したんだな」

「ふふん。人に見せたんは初めてなんやで? 良いもんみたやろ」


 素直な称賛に、一号さんも満足気だ。



 ちなみに、賭けの対象となっていた少し珍しいハート型のククロの花は、一号さんがずっと持っている。

 押し花にするとは言え、そろそろ鮮度が気になるところ。


 勝負も決着がつき、一号さんとの話も一段落したところで、帰る旨を一号さんに伝える。


 そのまま手に持ったククロの花をくれて、さようなら……かと思ったが、一号さんの様子がおかしい。

 キョロキョロと目線を忙しなく動かし、花を手放そうとしない。



 やがて、そろーっとこちらへ目を向けた一号さんが口を開く。



「あー。こ、こういう勝負事はな。基本、三本勝負やろ?

 てなわけで。……第二回戦や!」


『『もうええわ!!』』



 関西弁がうつった、私達『魂の定義』の声が揃う。



 えと。とりあえず、一言。


 お後がよろしいようで?

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