15話 その花の行方は

「オークは大体の生息地しか分からないからな。まずはククロの花の群生地へ向かうとしよう」


 ロウさんの言葉に従い、皆さんと出会った湖から移動する。


「この森、もしかしたら私の兄弟ぺんぎんと会うかもしれないですね」


 歩いていてばったり、おにーちゃん!? なんて展開があるかもしれない。そんなことを考えていた私に、ラシュエルくんが冷静に言う。


「ランタンペングイーノは……ほんとはもっと、もりのおくに、すんでる。だからあわない、かも」


 では、最初にここに沢山いたのは何だったんだろう……。

 その辺りも、研究者にとっては面白い事になりそうだしね。もうあまり考えないことにしよう。


 あと。ラシュエルくんって結構、物知りだよね?



 ☆



「見えてきたな。着いたらあまり離れすぎない程度にバラけて探そう」


 湖から歩いて15分くらいだろうか。

 ロウさんの言った通り、徐々に前方に開けた場所が見えてくる。


 あれがククロの花なんだと思う。月並みだけど、まさに黄色い絨毯とも言うべき見事な花畑だ。

 花畑自体はそんなに広くはないけど、同じ種類の花が密集して咲いているから、かなりたくさんあるように見える。ぺんぎんな私からしたら十分、広大なんだけどね。


 そんなに街から遠くなく、簡単に採れるなら安めに売られているのも納得できる。


 レモナさんと、この光景にテンションが上がったキルティさんが一番に花畑に踏み入っていく。


「おぉ、こんだけ咲いてっと、ハート型のくれーありそーだなー」

「だよね~! よ~し、いっぱい探しちゃうよ~!」

「アオイさん、は……ぼくとさがす」

「はいラシュエルくん。頑張りましょう!」


 戦闘力がゼロに近い私は、結界を張れるラシュエルくんと、ペアで行動をする事に。


 ここは一番の見せ所だね!


 今、私がこの中でダントツで背が低い。だから花を間近に見れる分、見逃すこともなさそうだ。


 気合いを入れて花畑を進む。


 宿屋の奥さんが言っていた通り、花びらの形はひし型だった。花びらの数は四・五枚で、鮮やか目の黄色だ。

 この中にハート型のものがあるらしい。そうなると本当に四つ葉のクローバーにそっくりになりそうだ。地球にも黄色い幸せのクローバーとか呼ばれてるのがあったような気がするけど、形はどんなだったかな?


 奥さんはこれの花言葉が『繋がり』だって言っていた。確かクローバーの花言葉には『嫉妬』があったような……。こ、これにはないよね?



 そんな事を考え進み続けるが、しかし案外見つからない。

 むむむ。この体だし、もっと簡単かと思ってたんだけどなあ。


 皆が段々、花畑の中央へと歩いていった頃。


「あ、これ……!」


 私はついに、それらしきハート型の花を見つける。

 近くのラシュエルくんも頷いている。ロウさんにひとまず報告を、と彼に少し近寄った時。



「――ブモオォォォ――――ッ!!」



 来た道とは逆側、森の奥から茶色い大きな塊がゴロゴロゴロッと転がってきた。

 しかもそれを追うように森から、同じく茶色い大きな生き物が複数飛び出してくる。


「っ! 離れるぞ」

「わっ!」


 近くを転がってきたそれにぶつからないよう、ロウさんがラシュエルくんと私を抱え、飛び退く。



 転がる塊はとどまる所を知らず、ゴロンゴロン、花畑を突き進む。

 追う生き物達は大きく重そうな足で、ドッタドッタと派手に走る。



――――転がる度、潰れる花


――――走る度、舞う花びら



『『あぁァァァぁぁ――――っ!!』』



 他の皆さんも気づき、思わず叫んでいる。

 そう、それらは無慈悲に、花らを蹂躙していっていた。



「オークか、探してはいたがここでとは……」


 少し離れてから私を降ろしてくれたロウさんの言葉によると、森から飛び出してきたのはオークだったようだ。同じく、転がっているのも二体のオーク。


 もう既に焼かれた豚のような茶色い身体で、大柄だけどそんなに怖い顔はしていない。

 オーク含め私が会ったこの世界の魔物は、どこかコミカルな顔をしている。むしろ狼男のスフゴローさんのが顔つきが怖いのはどういうことだろうか。



 オークも気になるが、私はある一点に視線を戻し、短い手を伸ばす。


「せ、せっ……」


 先ほど見つけたその花は。


「せっかく見つけたのにですー!」


 無残にも、転がるオーク達によって踏み潰されていた。



「アオ、見っけてたんじゃん!? くっそー、依頼達成だったんじゃねーか、オークめぇ」

「んにゃっ! アオイちゃんの見つけた花潰すなんても~、許さないよ!?」


 レモナさんとキルティさんも、私の叫びを聞いてオーク達への怒りをあらわにする。


 オーク、マジ許すまじ。



 オーク同士のいさかいだろうか。

 飛び出した時点では、転がっていた二体も、それを追いかけていた三体も私達に気づいていなかったようだ。だけどようやく止まったことにより気づいたらしい。


『『ブンモオォォォ―――!!』』


 いさかいはどうしたのか、こちらへは仲良く襲い掛かってきた。


「ラシュエルはアオイと少し離れろ! レモナは俺と前でカタすぞ。キルティは……炎と風は使うな。水、できれば氷で攻撃してくれ!」

『『了解っ!』』


 口早くちばやにロウさんが指示を出す。

 炎は森の中だから。風は花のことを考えてのことだと思う。


 ロウさんは剣を抜きつつ走りだし、レモナさんもそれに続く。

 キルティさんは私達を守るように前で留まる。

 ラシュエルくんは私と一緒に少し退きながら、いつでも結界を作れるよう、杖を前に掲げる。


 い、いざ戦いになってみると、私が何も出来ないのが歯がゆい……!


 申し訳ないような、悔しいような気持ちで見ていると、レモナさんの右手の中指に嵌めた指輪が光りだす。

 金の指輪で、緑の宝石が嵌まっている。まるで金のまつげに縁取られた、レモナさんの翡翠の瞳のように。


 すると、すぐさま光が収まりレモナさんの両手にメリケンサックが現れた。

 あれが彼女の武器のようだ。


 ……うん、何だかすっごくレモナさんらしい。



「へ。こっちだっつー、のっ!」


 レモナさんがその身軽さで、次々にオーク達を蹴りつけ挑発する。

 それに気をとられている内に、ロウさんが飛びあがり一体、首もとを斬る。


「アイススピア~!」


 さらにキルティさんの魔法、氷でできた槍によってオーク一体の頭を貫く。


 これで残り三体。


 凄い。流れるように二体を倒した。

 残りのオーク三体の内、一体が武器を持っている。だけど

棍棒とも言えないようなお粗末な、ただの太い枝だ。

 

 あまりの実力差にひるんでいるように見えるオーク達。


「らぁっ!」


 この隙を逃さずレモナさんが、その長い脚を大きく振りかぶり、勢いよくオークを蹴りあげる。

 吹っ飛んだその先は剣を構えたロウさんだ。


 体制を整える暇もなく、待ち構えたロウさんにばっさりと斬られる。


「……こちらに蹴り飛ばすなら、一言いってくれ。心臓に悪い」


 ごもっとも。

 大柄なオークがミサイルのように、自分目掛けて突っ込んでくるんだもんね。


 これで残り二体。

 オーク達は為すすべもない、といった状況。怒り狂いつつも闇雲に棒や拳を振り回しているだけだ。



「わにゃっ! 今日の魔法すごい威力出るよ~。よ~し、次々いっちゃうもんね~!」


 張り切ったキルティさんが、残りの二体に一気に魔法を放つ。

 さっきと同じ氷の槍が、棒を持った方のオークを倒す。


 だがもう一体がそれに驚き身動ぎし、その結果、槍は肩を貫いただけのようだ。

 レモナさんの方へとゆっくり倒れていく。向きはちょうど、彼女に正面を向いた形だ。


「んうぇ?……ひっ」


 レモナさんの顔がピキッと引きつる。



「近寄んじゃね――ッ!」


 ものすごい勢いで繰り出された蹴りがオークをとらえ、打ち上がる。


 ゴウッと風が鳴る。


 クルクルクル――……。きり揉みしながら、その最後のオークが少し離れた場所へと頭から落ちる。


 これで全部。戦闘終了だ。



「う、うっし。これで全部倒したなー!」


 振り返ったレモナさんが、取り繕ったような笑顔でサムズアップする。


「レモナ……」


 ロウさんが剣を収め、そんな貼り付けたかのレモナさんの顔を半目はんめで眺めていた。



 狩猟って多分、食用ですよね。

 いいんでしょうか、この倒し方で。潰れてない、よね?



 それよりもレモナさん。

 最初から最後まで蹴りしかしてなかったですよ?



 メリケンサック着ける意味あったんでしょうか……。

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