それは初恋

勝利だギューちゃん

第1話

夜、一頭の蝶が、飛ぶのが見えた・・・

昼間に活動する蝶を、夜に見かける・・・

その時は、なぜかわからなかった・・・



次の日、クラスメイトだった女の子が、交通事故で亡くなった。

その事を、担任に知らされた・・・

運転手のスマホによる、前方不注意が原因だった・・・


彼女とは、よく喧嘩をしていた・・・

顔を会わせる度に、どちらかともなく憎まれ口を叩かれた。


周りからは、「仲がいい」と言われていた。

その通りかもしれない・・・


いなくなってみて、その存在の大きさがよくわかった・・・


俺は、彼女のお通夜にも、お葬式にも、出席しなかった。

辛かった・・・

そして、逃げるように旅に出た・・・


行き先は、どこでもよかった・・・

どこか遠くで、1人になりたかった・・・


とある駅で、俺は降りた・・・

どこの駅かは、わからない・・・

放心状態だったので、無意識のうちにこの駅に来たのだろう・・・


でも、そんな事はどうでもよかった・・・

1人にさえなれれば・・・


しばらくすると、辺り一面にお花畑が広がっていた・・・

花の名前は、全く分からない・・・


でも、不思議と心が安らいだ・・・


花の中にしゃがみこんだ・・・


その花には、たくさんの蝶が飛んでいた。

「蝶は、花の蜜が好きだものな・・・」

当たり前の事を呟きながら、俺はその数を数えようとした・・・


でも、途中で止めた・・・

(我ながら、根気がないな・・・)


しかし、この蝶の群れははんぱないな・・・


すると、1頭の蝶が俺の方に止まった。

追い払おうとしたが、止まったまま動かない・・・

俺はそのままにしておいた・・・


しばらくすると、俺は深い眠りに落ちて行った・・・

「・・・くん、・・・くん・・・」

目を開ける。


そこには、見知った女の子がいた。

一昨日亡くなった、あの女の子だった・・・

「久しぶりだね・・・って、一昨日あったばかりか・・・」

「あ・・・あ・・・」

「どうしたの?鳩が豆鉄砲くらったような顔をして・・・」

「・・・悪かったな・・・生まれつきだ・・・」

「それは後天的でしょ?親のせいにするのは、よくないよ」

「なんだと!この女!」

俺は思わず、憎まれ口を叩いてしまった・・・


「そうそう、それでこそ。いつもの、君と私だね・・・」

「どうして、お前が・・・たしか・・・」

彼女は、自分の人差し指を俺の口にあてた・・・


「君の言いたい事は、わかるよ。でも、そこからは言わないで・・・」

「・・・なんで・・・お前は死んだんじゃ・・・」

「もう、言わないでって、言ったのに・・・お姉さんの言うことは聞きなさい」

「いつから、お前が俺の姉になった。」

「昔からだよ」

「誰が決めた」

「私」

いつの間にか、日常的にしていた会話をしてしまっていた・・・


「私のお通夜にも、お葬式にも参加しないなんて、弱虫なんだね」

「何を・・・」

でも、確かにそうだった・・・俺は怖くて逃げだしたのだから・・・


「あのね・・・」

「何?」

「聞いたことない?」

「何を?」

「蝶は死者の魂だって・・・」

そう言えば、よく言われているな・・・

でも俺は、そんなロマンチストではない・・・


「そうだよね・・・私も生きている間は、信じてなかったよ」

(こいつは、エスパーか?俺の心が読めるのか?)

「でも、自分が死んでみてわかったよ。それは本当だったんだ・・・」

「えっ」

「だって、私がこうしてここにいるのは、蝶になれたからだよ」

「・・・蝶に・・・」

彼女は、さらに続けた・・・


「ここがどこだかわかる?」

「わからない」

それはそうだ・・・わかるはずがない・・・

無意識の内に辿り着いたんだから・・・


「私はこうして、蝶になった。そして、君を呼び寄せた」

「何のために」

「君にお別れをするために・・・」

「お別れ?」

「うん」

彼女の顔は、とても優しく、とても寂しげだった・・・


「ここは、この世とあの世の中間地点。

死者があの世へ行く前に、少しの休息を取る場所」

「休息?」

「私は、君に言いたいことがあった・・・」

「えっ」

彼女の言葉を待った。


「あっ、やっぱり内緒」

「おい、言いだしといて、それはないだろう・・・」

「だった、私の言いたい事は、君と同じだから・・・」

「俺と同じ・・・」

そういうことだったのか・・・みんなの言ってた通りだ。

やはり俺達は、仲がいい。

それも、とびっきり・・・


「ねえ・・・」

「何?」

「君はもう、元の生活に戻らないと・・・」

「どうしてだ・・・」

「だって、君は生きているでしょ・・・」

そうだ・・・俺は生きている・・・

でもどうやって・・・

ここには無意識のうちに来たので、帰り方がわからない・・・


「それは、大丈夫だよ」

「なぜだ・・・」

「私が帰してあげる・・・それは、君を呼び寄せた私の最後の使命・・・」

「使命・・・」

「ひとつだけ約束して・・・」

「何を・・・」

「時々でいいから、私の事を思い出して・・・」

そうして、花で作った指輪を、俺の薬指にはめてきた・・・

「これは何?」

「婚約指輪」



どのくらい時間が経ったのだろう・・・


「お客さん、お客さん、終点ですよ」

俺は列車の中で目を覚ました。

どうやら、長い夢を見ていたようだ・・・

車掌さんに、起こされた・・・


「車掌さん・・・ここはどこですか?」

「ここですか?ここは○○駅ですよ・・・」

「・・・そうですか・・・」

俺は体を起して、外へ出た。


目の前には、一面の海が広がっている・・・

(そっか・・・やっぱり夢か・・・そうだよな・・・)

俺は、自分を納得させた・・・


「それにしても、汗かいたな・・・」

俺は汗をぬぐおうと、ハンカチを取り出そううとしたら、指に違和感を感じた。

薬指には、花で出来た指輪がはめてあった・・・


俺は涙が、あふれえでた・・・

「お前の事は、一生忘れなれないな・・・」


去るものは日々に疎しと言う・・・

彼女は日に日に、人々の記憶から消えていくだろう・・・


でも俺は忘れない・・・

初恋であろうあの子の事を・・・

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それは初恋 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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