問⋮魔法は神の力ですか?―解⋮いいえ、学問です

真夏の夜

問⋮出会いは突然ですか?

「今夜は期待できる」


 たなびく風が一帯を撫でると、真夏の夜に相応しい澄んだ香りが運ばれてくる。

 まさに静夜。真珠のような満月が、あか りのない庭を煌々 こうこうと照らす。そんな月明かりの中、金属に刻み込まれた半径10メートルもあろうかという幾何学模様―魔法陣を前にして佇む男が一人、皮で出来た質のいい上着をなびかせる。神妙な面持ちの男は、細めた目で魔法陣を睨めつけていた。


 そんな男と魔法陣の周りには遠巻きながらもいくつかの人影がある。こちらの表情はそれぞれで、目を見開きなにかを期待する者、気だるげにコトを見守る者、真一文字に口を結ぶ者。十人十とは良く言ったもので、人々の顔は僅かながらも異なっていた。だがしかし、この場にいる者達は等しくそのときを待っていた。


 それから程なく、時はきた。

 突如として魔法陣が閃光を放ったのだ。その強烈な発光に辺りの者は顔を覆い、足元から素早く伸びた影が幻術のように不気味な踊りをみせる。


 光はだんだんと強さを増していき、遂には辺り一面を純白に包み込んだ。



 その一瞬を境にして、光は消え去った。光そのものが幻術であったかのように、夢から目覚めたかのように。

 そこには光を失った魔法陣、 ともり続ける満月と一人の男。そしてさらにもう一人。


 魔法陣の煌めきが現実であったと物語るのは陣の中に座りこむ人物の存在だ。


 男は光にやられた目をいたわること無く一杯に見開いた。魔法陣で現れた者がいったいどのようであるのか、一瞬をも惜しむ思いで。


 そこに居たのは女性であった。しかしただの女性ではない。

 肩口ほどの茶髪は月光で輝き、双眸は澱みのない澄んだ琥珀。

 純白で陶磁器のようにきめ細かな肌には、ちょこんと血色の良い唇が色気をそえる。

 華奢な体躯に備えた少し欲張りにも思える双丘が青いワイシャツのボタンを窮屈そうに押しつけ、フリルが付いたスカートからは吸い付くような柔らかさを讃えた健康的な太ももが覗く。


 そう、ただの女性ではない。

 絶世の美女である!!!!!


 まさに心を奪われた男は彫像が如く立ち尽くす。

 そんな男に目を向けて彼女は口を開いた。

「あ、あの……あなたは?」


 そして男は大声で応えた。


「えっ、あッ。えっと……あなたの婚約者です!!!」――と。



問⋮出会いは突然ですか?

―解⋮はい、ふとした時に出会いは訪れます

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