勢揃いかと思いきや
外にいた全員が室内に入り着席すると、ヒミコが前に立った。
「ではメンバーの紹介を始めようか。……そういえば、
「スクナならそこにいますよ。机の影に隠れてます。アイツ人見知りですから」
シズカが傍らの机を指さした。
「まったく……玉依、早くこっちに出てこい」
ヒミコの声に物陰からしぶしぶでてきた女性は、三つ編みにされた黒髪によりやや幼く見えるからだろうか、ハヤトの同級生と変わらないぐらいの年に見えた。そして、ヒミコやトモエと同じ型の制服を着ている。
ハヤトが自前の検索エンジンを頭の中で走らせた。
玉依、そうか、ヒミコさんがあのカーチェイスの時に無線で連絡をとっていた相手だ。名前は、スクナというのか。
「す、すみません。わ、私、初めての人って……そ、それも男の人っていうのが……ちょっと……」
明らかにハヤトの方を見ておびえている。というか、そばにいたククリをまるで盾とするかのようにして、その向こう側にいる。
何だか自分の存在を否定されたようで、彼はちょっと悲しくなった。ヒミコが見かねてハヤトに向かってフォローする。
「秋津ハヤト。玉依は人見知りで潔癖症なんだ。彼女の個性だと思って、気にしないでやってくれ。」
ハヤトは「はい……」と首肯するしかなかった。
「では今度こそ始めよう、まずは私だ。もう君とはかなり時をともにはしているが一応な。
「ENA?」
「そうか、そういえば、まだそのあたりは説明していなかったな……」
「ええ、後で話すと何度もいわれました」
「マジですか、隊長……お前よくそれでここに来たな」
シズカがハヤトに向かってあきれた顔をした。そんな大変な仕事なのだろうか?ハヤトは困惑する。
「そうだな、ここで言っておくか……ENAは、その正式名称を『超法規的国家組織(Extralegal National Agent)』という。もう既に君も被害にあっているテロ組織フリーネットワーク、近年増加しているああいった輩からGENE及び国家管理ネットワーク、何よりも国民を守るために特別に結成された組織になる」
超法規的という言葉は難しいが、きっと特別に結成されたということなのだろう。
ハヤトはそこまでは理解したが、さらりとヒミコが言ったその組織の趣旨に強い引っかかりを感じた。
「テロと……戦うってことですか?」
ハヤトは、黒服の軍団、フリーネットワークに対して恐怖を感じているか?と問われれば、今は首を縦に振らざるを得ない。
確かに、ショッピングセンターでは彼らを翻弄し、サクラと2人で逃げおおせたが、その後の自宅への襲撃に、夜のカーチェイス、ヒミコがいなければ、正直、あの夜ハヤトとサクラはどうなっていたかわからないのだ。
それに、自分が、単なる一高校生に過ぎない自分が、あの時のヒミコのように彼らテロリストと対等に立ち回れるとはとても思えなかった。
シズカの言うとおり「お前よくそれでここに来たな」である。そんな覚悟は、自分には無いのだ。
「戦う必要があればな……いや、言い方がちょっと抽象的すぎるか。戦うことは戦う、それが我々の使命だからな。戦わないという選択肢は無い。」
明らかにテロとの戦いに迷いを見せるハヤトを正面に見据えて、きっぱりとヒミコは言い放った。そして、さらに続けた。
「しかし、戦い方は人それぞれだ。」
「人それぞれ……ですか?」
「秋津ハヤト、君は、敵と己の力のみで向き合うことを考えて、出来ないのでは、と考えてしまったのではないか?」
ハヤトは素直に頷いた。
「君と初めてあった日の夜のことを思い出せるか?君は、私ばかり見ていて、ひょっとして勘違いしてしまったのかもしれないが、私は独りで戦ってなどいない。」
「……でも、あのとき、家から助け出して、フリーネットワークを警察に逮捕させたのはヒミコさんじゃ……?」
「私はただ、私の役割を果たしただけだ。作戦を立案した稲田、本部でサポートしてくれた玉依、あの車を整備してくれた石凝、それに、捕り物に協力いただいた警察の方々、どのメンバーが欠けても、あの結果にはならない。……そうだな、あえて言うなら、君とサクラが欠けていても、だ。」
「俺とサクラも?」
「あれは実は、いわゆる、おとり捜査だったんだ。言い方が悪いのは許して欲しいが、フリーネットワークが我を忘れて追いかけるターゲットとしての協力者、それが君たちだったということだ。」
ヒミコの言葉に感じるもののあったハヤトは、あらためて周りを見回した。
作戦を立てたという白衣の
無線でサポートしていた
実は整備士だったという
ここに、自分が、加わるのだ。
「もう、大丈夫なようだな。そう、戦いは独りでするものじゃない。大切なことは、自分のできること、自分の役割を果たすことだ、これだけはいつも忘れないでくれ。」
「はい、隊長!」
「テロと戦う、それは確かに危険なことだが、しかし、ここに居るメンバーはいずれも選りすぐりのエキスパートだ。どんな相手であっても遅れをとりはしない」
「いよっ、隊長、日本いち~」
「茶化すな、石凝。では、続けようか、次は……」
すっと、白衣の稲田が前に出る。
「私でしょうね。隊長と一緒で、私が自己紹介するのもあまり意味が無い気もするから手短に。稲田ククリ、ここでは副隊長よ。」
「稲田は、GENEのエキスパートだ。イーストセイクレッドからきてもらっている。ランクSSSのエンジニアだ」
イーストセイクレッド、もちろんハヤトはよく知っている。学校の教科書にも載っているGENEを開発している国営企業だ。情報工学系の学生ならば一度は就職を夢見る、憧れの企業である。
しかし、ランクSSSだって?ハヤトは首をかしげた。
ランクは公式発表ではSまでだと記憶しているのだが……。
「ランクSSSは一般人は耳にしたことはないかもしれないが、GENEの最高ランクだ。この国でも片手ほどしかしかいない。なので、これについては他言無用で頼む」
Sランク以上があるという噂は本当だったんだとハヤトは思った。
テスト以来彼女とはいろいろあったけれど、SSSランクとは……それだけで彼女を見る目が変わってしまいそうである。
「さて次は、石凝、頼む」
「よーし、出番キター!アタシは石凝シズカ!得意技は……」
彼女が話はじめようとしたそのとき、ピーピーピーとサイレンが鳴り響いた。そしてスピーカーからアナウンスが流れる。
「旧都心の工事エリアにて、カテゴリー3発生……繰り返す、旧都心の工事エリアにて、カテゴリー3発生……」
「あーもうどこのどいつだよ。アタシの邪魔しやがって」
「隊長!」
「玉依、今着ている情報をスクリーンに映してくれ……秋津ハヤト、すまないが続きはこいつを片付けた後だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます