今更気づいたんだ……

 残念ながらその奥にあったエレベータは動かなかった。


 そのため、ハヤトとサクラは地図を参照しつつ、階を上ってゆくことになった。


 行く手には様々なトラップが仕掛けられていたが、飛んできた銃弾をサクラが跳ね返し、暗号により閉じられた扉をハヤトが開くなど、2人の持てる力の全てを使い、連携することで一歩一歩進んでゆくことができた。


 BASE内にはメイドロイドこそいなかったが、時には、作業用のロボットが2人を襲ってきた。


 おそらく本来はBASEのメンテナンス用なのだろうが、これまで戦ったメイドロイドと違い、サイズが段違いに大きい上に、工具や熱線といった飛び道具まで使用してくるのにはサクラも閉口した。

 うかつに近づけないのである。

 近接戦闘を主体とするサクラには苦手な相手だった。


「危ないサクラ……俺にも何かできたら」


 懸命に相手の攻撃をよけるサクラであるが、いつまでもよけきれるとは限らないし、このまま近づけなければ相手にダメージを与えることもできない。


 ハヤトは自分の無力を呪った。


「あれ、このコマンドは?」


 WEAPONSという見慣れないリストがいつの間にか追加されていた。

 SWORD(剣)、LANCE(槍)、SHOOTER(弓)といった内容を見ると、どうやら武器の種類のようだ。


「もちろん、これだよな」


 ハヤトは迷わず、弓を選択した。すると、目の前に光り輝く弓と矢が実体化した。


「ためさせてもらうか。サクラ、右によけろっ!」


 サクラは、ハヤトが弓を構える姿をちらりと見ると、右に跳躍した。


 その一瞬、ロボットがサクラに気をとられて隙ができた一瞬に、ハヤトは弓を放った。


 矢が、光の粒子の塊が、ロボットを貫く。

 すると、かのロボットの動きは止まり、がくりと前のめりに倒れていった。


「お兄ちゃん、すごいすごい」

「ああ、これなら俺でもつかいこなせそうだ」


 もちろんハヤトは弓道やアーチェリーなど一切やったことはない。


 この弓矢はどうやら、使い手のスキルを選ばず、ただその狙いに従って飛んでゆくもののようだ。そうであるなら、いつもやっていたゲームと変わらない。こっちのものである。


 新たな武器を手にいれたハヤト達は、それから数体のロボットを相手にするものの、近接戦闘を得手とするサクラと、遠距離から攻撃可能なハヤトの息のあった攻撃で一体一体、確実に仕留めていった。


 そして今、彼らの目の前に、マザーコンピュータに至る最後の扉があった。


「やっとたどり着いたか」

「お兄ちゃん、やったね」

「いや、まだだ、この中に何がいるかわからない。用心していくぞ」

「おー!」


 「サクラからいくね」というとサクラが勢いよく扉を開ける。ハヤトも弓を構えつつも、遅れずに続いた。


「!」


 広い空間、奥には天井までつながる柱がいくつかあり、その全ての柱から出ているケーブルが真ん中にある四角い箱につながっている。

 あれがマザーコンピュータの本体なのだろう。ウイルスに犯されているからか箱は赤い光を帯びていた。


「何もいないみたいだな……あとはあのコンピュータをウイルスから解放すれば、多分終わりのはずだ……いや、そうであってくれ!」


 ハヤトは弓を解除すると、箱に向かって走り出した。そろそろ外のメイドロイドが中に入ってくるかもしれない、ここまで来るのに相当時間がかかっている。時間の猶予などないのだ。


 幸い、四角い箱の前には妨害も無くたどり着くことができた。ハヤトは、やや急ぎ気味に手持ちの端末を出すと、マザーコンピュータに接続した。


「よし、接続できるな……あれ?」


 端末から、ピーッピーッという警告音が発せられた。画面にもCAUTION(警告)と表示されている。


「何でだろう。今までは接続できていたのに……完全にウイルスにやられちゃってるのか?」

「お兄ちゃんあぶない!」


 サクラの声がして次の瞬間には宙に浮いていた。着地。ハヤトはサクラに後ろから抱えられているのに気づいた。

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