第6話
私達はエレベーターで地下に降りると、白衣で身をつつんだ人物が出迎えてくれた。
「連絡は受けている。私がロボット部の部長だロボ」
「えっと、錬金術部です。依頼を達成したら鉄を少し分けて欲しいんですけど」
「達成したあかつきには好きなだけ持っていっていいロボ」
「ありがとうございます」
「面倒くさくなっちゃったから、そろそろ帰っていいロボ?」
「……希ちゃん。ややこしくなるから部長さんの真似は止めて欲しいんだけど」
「解ったロボ」
「――解ってないよね」
「二人共。ロボット部の部長さんが困ってるよ」
「すみません」
「ごめんなさいロボ」
希ちゃんは反省する気はなさそうだ。
「――コホン。実は我々が作ったロボが暴走してしまったんだロボ」
嫌な予感しかしないと言うか、どう考えてもロボをやっつけてくれってパターンな気がする。
「それで、暴走して暴れてるロボを機能停止にして欲しいロボ」
「えっと、つまり報酬の鉄というのはもしかして――」
「好きなだけロボットを倒して好きなだけ鉄を持って行くロボ」
「う〜ん。やっぱりめんどそう。希は後ろで応援してるよ」
……もう部長さんの真似をするのも面倒になったみたい。
「えっと、先輩どうします?」
「鉄が無いと風車研究部の依頼が達成出来ないし、勿論受けないと」
「そうですね。――その、それでロボットはどれくらの数がいるんですか?」
「沢山いるけど、他にも討伐依頼を受けた部活があるから、5体も倒してくれればいいロボ。まあ、沢山倒してくれればその分追加でボーナスも出すロボ」
「了解です。それじゃあ皆、行きましょう」
「あれ? 希ちゃんは何処に?」
「さっきまでそこにいたはずなのに、一体どこに?」
周りを探してみるが、見当たらない。
どうしようかと思っていると、上の方から言い争う声が聞こえてきた。
「止めるロボ。それはまだ開発中なんだロボ」
「え〜。いいじゃん別にぃ。こんなにカッコイイんだし希に操縦させてよぉ」
上を見ると、希ちゃんが巨大ロボットのコックピットに乗り込んでしまった所だった。
「いっくよぉ。サンダーメタルシグマ発進!」
希ちゃんが操作をすると、辺りにサイレンが鳴り響き天井が少しずつ割れていった。
「――――あれ。そういえばこの上ってプールだったような」
「奈央ちゃ〜ん。こっち〜」
「先輩?」
先輩の声に振り向くと、先輩やロボット部の人達が個室のような場所に避難していく所だった。
「上からプールの水が降ってきちゃうよ〜。早くここに避難して〜」
「急がなくちゃ――――冷たっ」
突然頭上から水をかけられた。
もう浸水が始まってるみたい。
私はこれ以上濡れてしまわないように必死で走った。
もう靴は完全に水に浸かってぐっしょりだ。
私は部屋が水浸しになる前に何とか個室に滑り込めた。
「はぁっ……はぁっ…何とか無事到着かな」
「その〜。あんまり無事じゃ無いような……」
「――えっ?」
先輩が何を言ってるのか解らなかったが、制服を見ると、水に濡れてしまったせいで少し透けて下着が見えてしまっている。
「……あっ…」
私は必死で体を隠した。
「その……後で部室に戻って着替えてから向かおうね」
「……はい。そうしてくれると助かります」
希ちゃんの乗ったロボットはそのまま上に登っていった。
「わくわく。もうすぐ発進だよっ。――――ん? 何だろうこのボタン。なんか押したら凄い事になる予感がするっ。これは押してみるしかない!」
希ちゃんのロボットは発進する前に大爆発を起こした。
「――あの。爆発したんですけど」
「きっと自爆スイッチを押したんだロボ」
「希ちゃん大丈夫かな〜」
――数分後。水浸しになった私と真っ黒になった希ちゃんは部室に戻って着替えを済ませてから暴走ロボットが暴れている市街へと向かった。
「ところで、何処で暴れているんですか?」
「ちょっと待ってね〜。えっと、この先の空き地みたい」
「――空き地ならほっといてもよくない?」
「子供が遊べなくなっちゃうから駄目だよ。希ちゃんも遊んだ事あるでしょ?」
「う〜ん。希はずっと家でゲームしてたから空き地で遊んだ事はないかなぁ」
「……そうなんだ」
「あっ。見えて来たよ〜」
空き地には普通の人間と同じサイズのロボットが空き地を占拠している。
この光景は……。
「……ねえ、なんかしょぼくない?」
「ああっ、私が思ってても言葉に出さなかったのに何でいっちゃうかな」
「――え〜と……いち……に……。うん、ピッタリ五体いるし、早くやっつけて風車の修理に戻ろうよ」
「そうだね〜。よしっ、先制攻撃でいっそうしちゃお〜」
先輩はロボット達がこっちに気がつく前に爆弾を投げつけた。
「あれ? あんまり効いてないだよ?」
「あれれ、何で効かないんだろ」
「――もしかして、火に強い素材で作られているんじゃ無いですか?」
「――って、ロボットがこっちに気がついて向かってきたよっ」
ロボットは先輩の投げた爆弾で少しだけコゲたみたいだけど、ダメージはほとんど受けていないみたい。
「ええと、何かロボットに効きそうな武器は……そうだ、この前の依頼のお金で買った参考書に書いてあったこの水爆弾なら!」
私は爆弾に水の属性を付けた物をロボに投げつけた。
「――やったわ!」
「奈央ちゃん。まだだよ、少しだけ効いてるみたいだけどまだ足りないみたい」
「そうだ! 希がこの前、適当に作った塩爆弾で」
「……適当に作っちゃだめでしょ」
希ちゃんはカバンから真っ白の爆弾を取り出した。
「あの、希ちゃん? ちなみにその爆弾はどんな効果なの?」
「なんと、当たった相手が塩になっちゃうんだよ!」
「だめええええ。ロボットが塩になっちゃったら鉄が手に入らなくなって風車修理の依頼が出来なくなっちゃうよ〜」
先輩は希ちゃんが塩爆弾を投げるのを必死に止めてくれている。
けど、このままだと私達が危ない。
多分この三人の中で近距離で戦える人はいないだろうし…………あぁ、こんな事なら誰かに護衛を頼んでおくべきだった……。
――誰かが怪我をしちゃう前に塩爆弾でやっつけちゃうべきなんだろうか。
「――何か何か他に道具は」
私はふと先輩のカバンを見ると、小型の錬金釜が入っていた。
「あの先輩、これって?」
「あ〜。携帯用の錬金釜だよ〜。まあ簡単なアイテムしか作れないんだけど」
「よし、こうなったら。先輩、これ借ります」
私は携帯用の錬金釜に水爆弾と塩爆弾を入れて調合を始める。
「出来た。名付けて海爆弾」
「――水と塩を混ぜたからって海水にはならないと思うんだけど」
「細かいことは気にしない。それっ、これでも喰らいなさい!」
私は海爆弾をロボットに投げつけた。
ロボットに着弾した瞬間、周りに海水が飛び散ってそれを浴びたロボットは錆びて動かなくなった。
「やっぱり塩水は効果バツグンみたいね」
「奈央ちゃんも塩水って言ってるよね? ――ねえ、やっぱり塩水爆弾って名前にしない?」
「だーめ、もう決めたの。こういうのは最初に作った人が名前を付けるものなんだから」
「二人共〜、鉄を回収するよ〜。早くしないと夜になっちゃう〜」
「あっと、そうですね。希ちゃんにも手伝ってもらうよ」
「うぇええ。めんどいなぁ」
私達は鉄を回収して、部室に戻って壊れた部品と鉄で調合を始める。
「出来たよ」
「何とか今日中に達成出来そうですね」
「それじゃ〜運ぼ〜」
「オー!」
私達は修理した部品を風車へ届けて取り付けを済ませた。
「わくわく。ちゃんと直ってるといいねぇ」
「あれだけ頑張ったんだもん。きっと大丈夫だよ〜」
「あっ。回り始めましたよ!」
風車はゆっくりと回転を始めた。
「おお、ちゃんと直ったねぇ」
「ふう。これでなんとか依頼達成かな」
「――あれれ? 何か変じゃない?」
「――えっ!?」
最初は順調に回っていたと思われていた風車だったけど、回転がどんどん早くなっている。
「えっ……ちょ…スカートが……」
「そ、そんな事より。風が強くて――――あっ」
「うわぁあああん。誰か助けてぇええええ――――」
…………希ちゃんが吹き飛んでいってしまった。
「せ、先輩。早く避難しないと私達も――ってあれっ?」
「奈央ちゃああああああん――――」
「せんぱ〜〜〜い」
先輩も空へと飛んでいってしまった。
「あ、私もそろそろヤバイかも――――」
私も二人に続いて飛ばされてしまった。
――ちなみに言っておくけど、私の体重が一番重いから最後まで残ってた訳じゃないんだからね!
――後日。
一応修理は出来たので依頼料が届けられたのだが。
「ごめんなさい。現物支給の方が色々とお得って聞いてつい…………」
「あはは〜。別にいいよ〜」
「――けど、どうするのコレ?」
私達の目の前には大量の小麦粉が置かれている。
風車研究部の部長さんが強い回転を気に入ったらしく、報酬もかなり奮発してくれたのだ。
――で、これは風車で挽いた小麦粉らしい。
「そうだ! 皆、パンつくってみない?」
「私、作ったこと無いですし作り方も知りませんよ?」
「希も食べるのはいいけど、作るのはめんどいなぁ」
「ふっふ〜。作ると言っても普通に作るんじゃなくて――――ジャジャ~ン」
先輩は一冊の本を私達の前に取り出した。
「え〜と、ウサギさんでも解る錬金術でパンを作る方法?」
「ふ〜ん。錬金術ってパンも作れたんだ」
「私もこの前偶然本屋で見つけたんだよね〜。――ねっ、二人共作ってみない?」
「まあ、小麦粉を使わないのも勿体無いですしね」
「何か面白そうだし、希もやるよぉ」
「それじゃ〜」
「レッツ、クッキング!」
――私達は思うがままにパンを作り始めた。
「出来ました! 名付けて「パンだ!」」
「奈央ちゃんそれ普通のパンだよね?」
「違います。これはパンじゃ無くて「パンだ!」です」
「それだったらせめて動物のパンダの形にすれば良かったんじゃないかなぁ」
「それだと動物パンになっちゃうでしょ!」
「よくわからないよぉ……」
「じゃじゃ〜ん。私のはフライパンだよ〜」
「――あの先輩。それ揚げパンですよね?」
「ええ〜っ、違うよ〜。これは揚げたんじゃなくてフライにしたんだよ〜」
希ちゃんはフライパンを一口味見してみた。
「う〜ん。揚げパンとの違いがわからないよぉ」
「ふっふっふ〜。次は希の番だよっ。名付けてパンつ」
「――希ちゃん。それ色々と大丈夫なの?」
「何とこのパンつはちゃんと履く事も出来るんだよ。昔、パンが無ければパンツを食べればいいじゃないって言った人が有言実行するために生み出された歴史的なパンなんだよっ」
「――いや、そんなこと言ってないし、マリーに怒られちゃうよ。それにいったい、誰がそれを履くの?」
「う〜ん。それじゃあ希が履くよ」
「それで、その後に誰がそのパンを食べるの?」
「…………あっ」
「私はいらないからね」
「私も遠慮しとこうかな〜」
「う〜ん。仕方ないからこれは新品で売る事にするよ」
「誰か買うのかな……」
「出来た「パンなこった」」
「どんなこった?」
「……なんのこっちゃ」
「ふっふ〜。今度こそ全力の本命。パン東英二だよ〜」
「いや、それただのゆで卵ですよね? 何処にも小麦粉要素無いですよね?」
「いや〜錬金術って凄いね〜」
「……もう何でもありですね」
「でっきたぁ! ぱんパカパーン」
「イヤッフゥ〜〜〜」
「イエ〜〜〜ィ」
「――何か変なテンションになってません?」
――その後も私達は思いつくままパンを作り続けた。
「……あの、勢いに任せて色々と作ったけど1つもまともなパンが無いような」
「あはは〜。だっ、大丈夫。多分売れるよ〜」
「んじゃ。とりあえず、持っていこっか」
私達は作ったパンを購買部へ持っていき、無理やり押し付けるような感じて全て引き取ってもらった。
――後日。購買部にどうなったか聞いてみると、何とか全部売り切ったみたい。
一部、誰がこんなの買うんだろうって思う物もあったけどどんな人が買っていったのかは考えない事にしておこう。
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