第4話

「こんにちわ〜」

 

 私は今日も部活をするために部室の部屋に入っていった――――のだが。


「……なんですかこの惨状は」

「あっ、奈央ちゃんこんにちは。すぐに片付けるから少し待っててね〜」


 部室の中は調合に使う機材や素材が散々と散らかっていて、更に所々にお菓子の空箱が捨てられていた。

 それを先輩が掃除機を使いながら片付けをしている。


「奈央ちゃん。遅かったねぇ」


 声のした方を見ると、希ちゃんがソファーで寝転びながらお菓子を片手にスマホでゲームをしていた。


「やった〜。SRきたあああああ」

「……もしかして、これは」

「希ちゃんが一番最初に来て、一人で練習してたみたい。それで今は休憩中――かな?」

「いや、少しやって飽きたから遊んでいるんだと思います」

「ま、まあ少しでも錬金術に興味を持ってくれたみたいだしいいかな〜って」

「せめて希ちゃんにも片付けを手伝ってもらっては?」

「今やってるクエストが終わったら手伝うよぉ〜」


 これは手伝う気は無いだろうなと思い、私も先輩を手伝って部屋を片付ける事にした。


「先輩、私も手伝います」

「えっ、私がやるからいいよ」

「いえ、このままでは部活が始められませんし」

「う〜ん。確かにそうだね〜。じゃあ私は奥を掃除するから入り口の方をお願い」

「わかりました」


 私はとりあえず天秤やランプなどの機材を棚に戻していった。


「う〜ん。部員が増えて活動が楽になると思ってたけど――」 

 

 逆に仕事が増えているような……。

 先輩の方を見ると嬉しそうに掃除をしていた。

 誰かのお世話をするのが好きなのかな。

 あまり希ちゃんを甘やかすのは良くないと思うんだけど。


 ――私達が掃除を続けていると、誰かが部室を訪ねてきた。


「美里、入るわよ。――って、なにこの部屋」

「あっ、沙織ちゃん。今、お掃除してるからちょっと待ってね〜」

「まったく、こんなに散らかして何やってるのよ……あら?」

「……あっ」


 沙織先輩と希ちゃんの目があったと思ったら、希ちゃんがフリーズしてしまった。


「ぅお姉ちゃん! どどど、どうしてここに!?」

「――希。こんな所で何してるの? もしかして、これは貴方の仕業じゃないでしょうね?」

「ちっ、ちがうよっ。希はここでお手伝いをしてたんだよっ」

「どう見ても邪魔してるじゃない。ちょっとこっち来なさい」

「うわあああん。許してお姉ちゃぁあああん」


 ――沙織先輩に連れて行かれた希ちゃんは一時間後にしょんぼりとした感じて帰ってきた。


「一時間も正座でお説教されちゃったよぉ……」

「――今後はなるべく散らかさないようにお願いね」


 ――次の日。今日も部室の中から掃除機の音がしたので、嫌な予感がしながら扉を開けると、そこには昨日と同じ機材やお菓子の箱が散らかった光景が広がっていた。

 ――けれど、昨日よりは少しだけ片付いている気がする。

 希ちゃんも反省したのだろうか。

 私は部室に入っていくと、希ちゃんが私に気付いたようで挨拶をしてきた。


「あっ、奈央ちゃん。今日も遅いんだねぇ」


 今日も希ちゃんはソファーでお菓子を食べながらゴロゴロしている。


「まったく。昨日あれだけお姉さんに叱られたのに。――ねえ、美里先輩」

「あっ、奈央ちゃん。こんにちわ〜」

「――えっ?」


 美里先輩は錬金釜をかき混ぜながら調合を行っていた。


 希ちゃんはソファーにいる。先輩は調合をしている。じゃあ掃除機をかけているのは誰?


 私は掃除機の音がする方を見ると、そこには掃除機が一人で掃除をしていた。

 ――透明人間が掃除機をしているようで少し不気味だけど、確かに少しずつ部屋が綺麗に掃除されていく。


「せせせ、先輩。あ、あれはいったい?」

「あ〜。あれはさっき希ちゃんが作ったんだよ〜」

「えっへん。あれは希がこの前倒したスライムと掃除機を調合して作った動く掃除機だよ!」

「希ちゃんいつの間にこんな凄いの作れるようになったの?」


 普段はグータラだけど、実は才能があるのかな?

 

「レシピはあるから奈央ちゃんも作ってみる?」

「えっ、貰っちゃっていいの?」

「うん。二台あったら掃除も早く終わるようになるからねっ」

「……ああそう」


 先輩の調合はちょうど終わったようで、私は希ちゃんからレシピを受け取り錬金釜を使わせてもらう。


「え〜と、材料はスライムの欠片と掃除機って両方ともどうやって用意すればいいのよ!」

「スライムの欠片ならそこの冷蔵庫に入れてあるよ」

 

 私は希ちゃんに言われるまま冷蔵庫を開けると、この前倒したスライムの物と思われる欠片が入っていた。


「……アレ回収してたんだね」

「なんか面白そうだったからねぇ」


 私は冷蔵庫からスライムの欠片を取り出す。

 鮮度がいいのか、まだ少し動いている。


「あ、あの。先輩これまだ動いてますけど」

「まあ、動かない素材を使っても動くアイテムは作れないからね〜。まあ慣れだよ。あっ、掃除機はそこに古いのがもう1つあるからそれを使っていいよ〜」

「……あれですか?」


 私はスライムの欠片と部室の片隅に捨てられるように置かれていた掃除機を釜に入れて調合を始める。

 ――数分間かき混ぜていくが、何か少し様子がおかしい。


「あれ、なんか変じゃない? 希ちゃん本当にこれでよかったの?」

「――う〜ん。間違いは無いはずなんだけど」


 錬金釜はそのまま黒い煙を吐き出し始め、軽く爆発したと同時に何かが飛び出してきた。


「……完成…した?」


 一応、掃除機みたいな物が完成したみたい。


「奈央ちゃん危ない!」

「――えっ?」


 突然、掃除機が襲ってきて、私に掃除機が当たる直前に先輩に突き飛ばされた。

 掃除機はそのまま先輩のスカートの裾を吸い込み始めている。


「な、なにこれ?」

「もしかして入れる順番を間違えた?」

「えっ? 希ちゃんどういう事?」 

「つまりぃ、服を溶かす生物 プラス 掃除機で、生きてるって特性を手に入れた動く掃除機になるんだけど。掃除機 プラス 服を溶かす生物で、服を溶かすって特性を手に入れた服を吸い込む掃除機が出来ちゃったみたいだねぇ」

「えっと、つまり素材を入れる順番を間違えちゃって違うのが出来ちゃったわけ?」

「……たぶん」

「――――キャーッ。誰か止めて〜」


 掃除機は先輩の制服を丸ごと吸い込んでしまって先輩は下着姿になってしまう。

 更に最悪な事に部室の扉が開けっ放しだったせいで、掃除機は外に飛び出していってしまった。


「このままじゃ大変な事に……何とかしないと」

「んじゃ。希はクエスト消化するから頑張ってね〜」

「そんな〜。ちょっとでいいから手伝って。ねっ、お願い」

「う〜ん、しょうがないなぁ。後でポッチー1個ね」

「ありがとっ、希ちゃん」

「……その…二人共…気を付けて行ってきてね」

「はい、行ってきます」

「えっと、急がないと沙織ちゃんに叱られちゃうかもしれないから……」

「――それはあるかもしれませんね」

「それは困る、奈央ちゃん早く行くよっ」


 希ちゃんは一足先に走って掃除機を追いかけて行った。


「あっ、ちょっと待って希ちゃん」


 ――私達が校舎へ辿り着くと、そこには下着姿で逃げ惑う生徒で溢れていた。


「い、嫌っ…な、なにこれ……」

「……そんな…み、見ないでぇ……」


「わっ、もうかなり大変な事になってる!?」

「――ねぇ、見なかった事にして帰らない?」

「だ、駄目だよ。私のせいなんだし、こうなったら私だけでも――けど、いったいどうすれば」

「う〜ん。爆発を投げて壊せばいいんじゃないかなぁ?」

「流石に校舎が壊れちゃうからそれは無理だよ」

「掃除機に弱点があればいいんだけどねぇ」

「掃除機……そうだ。希ちゃん手伝って」

「わかったよっ」


 ――私はなるべく目立つように、制服を吸い込んでいる掃除機に小石を投げつけた。

 小石は外れてしまったがこちらに気がついたようで、女生徒の制服を吸い込んだあと次の標的を私にして近付いて来る。

 そして、暴走した掃除機は私のスカートを吸い込み始めた。


「今よ。希ちゃん」

「いっくよ〜っ」


 上でスタンバイしていた希ちゃんはバケツいっぱいに汲んである水を上の階から私へとかけた。

 私は水に濡れてベタベタになってしまう。


 ――下着が透けて見えちゃうけど、我慢しないと。


 私の水で濡れたスカートを吸い込んだ掃除機は、そのまま上着も吸い込もうとするが上手く吸い込めないみたい。


「ふっふっふ。やっぱり詰まったようね」


 水に濡れた布は掃除機に詰まりやすいのだ。

 私はそのままそばに置いてある杖を手にして掃除機を思いっきり攻撃すると、掃除機はそのまま動かなくなった。


「ふぅ。これで――」

「――どうなるのかしら?」

「えっ?」

「ぅお姉ちゃん!? どうしてここに」

「騒がしいから来てみたら。これは貴方達の仕業なのね?」

「こ、今回は希は関係ないよっ」

「あっ、希ちゃん」


 希ちゃんは走って何処かに逃げていってしまった。


「それじゃあ、説明して貰おうかしら?」

「え〜と、その〜。ごめんなさい〜」


 私もとりあえず逃げる事にした。


「ちょ、待ちなさい。まったく――――あら? 何かしらこれ」


 沙織先輩が動かなくなった掃除機を軽く叩いた。


「あっ、駄目です。下手に触ったら」

「えっ?」


 沙織先輩が叩いたせいで掃除機に詰まっていた私の制服が取れてしまったようで、沙織先輩の制服を吸い込み始めた。


「えっ…ちょっとなにこれ……貴方、何とか…あっ……駄目っ………いや〜っ」

「あの〜先輩大丈夫です――」

「大丈夫なわけ無いでしょ! もうっ、いったい何なのこれ……ううっ、今回は本当に許さないわよ!」

「先輩、落ち着いてください。ねっ?」

「こんな姿にされて落ち着けるかぁあああああ」

「ひぇええええ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る