きみにたどりつく
「陽向くん、久し振りだねえ」
「久し振りおばあちゃん。元気そうでよかった」
八月も半ばに差しかかろうとする頃、何度も繰り返し読んだ手紙を持って田舎の曾祖母を訪ねた。
彼女の家へと続く道の両側には一面に向日葵が広がり、青空や入道雲と相まって最高に夏らしい。
その向日葵畑の中、小高い丘のてっぺんに立つ大きな樹の下で、曾祖母は立ち止まった。
「ここからだと景色がよく見えるでしょう。風も抜けて気持ちがいい。ここでお話ししてもいいかねえ?」
「うん。麦茶持ってきてるよ、座ろうか」
ふかふかの草の上に、二人で腰を下ろす。木陰に入ると、曾祖母の言う通り風が心地よかった。
「ひとりで来たのかい?」
「そうだよ。じいちゃんに、おばあちゃんに渡してほしいものがあるって頼まれたんだ」
「そうだったの。本当にあの子は、親より先に死ぬなんて親不孝ねえ?」
からからと声を立てて笑う曾祖母は、けれどどこか寂しげで。リュックから麦茶の入った水筒を出すのと同時に、丁寧にファイルに挟んできた手紙を曾祖母へ渡す。
「これなんだけどね」
「……あら、まあまあ」
「じいちゃんからの伝言で、渡すのが遅くなってごめん、ってさ」
微笑んで頷いた彼女は、慈しむように封筒に触れると、そうっと便箋を出してゆっくりと読み始めた。
数十分が経って顔を上げた曾祖母の頬には、ひと筋の涙が光っていた。
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